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TRIUMFで超冷中性子(UCN)の生成に初めて成功 KEK、RCNP、TRIUMF、ウィニペグ大学の共同研究で

KEK素粒子原子核研究所のUCNグループ(川崎真介助教)、低温グループ(槙田康博教授、岡村崇弘准教授)、大阪大学核物理研究センター(RCNP)、カナダの国立素粒子原子核物理研究所(TRIUMF)らの共同研究チームTUCANが、TRIUMFのサイクロトロン研究施設で、容器に保存が可能な超冷中性子(UCN:Ultra-Cold Neutron)の生成に初めて成功しました。

 

UCNとは100neV程度まで冷却された中性子のことで、極めて低い運動エネルギーしか持たないため、実験容器に閉じ込めておくことが可能です。UCNを用いた電気双極子モーメント(EDM)の精密測定から、時間反転対称性を破る新しい物理を発見できる可能性が高く、注目されています。

UCNは、陽子ビームをタングステンなどの標的に当てて核破砕を起こし、出てきた中性子を冷やした重水中で減速させ、さらに超流動ヘリウムのフォノン散乱により100neVまで冷却することで生成します。物質ガイドを用いてUCNを実験容器まで輸送します。

KEKはRCNPとの共同研究でUCNの生成実験を行い、1立方センチメートル当たり26個のUCNの生成に成功していました(1)。さらに大量のUCNを生成するため、2011年にRCNP、TRIUMF、ウィニペグ大学と共同研究の協定書を締結。2016年夏にはRCNPに設置していたUCN源を、高強度の陽子サイクロトロンのあるTRIUMFに移設し、実験をスタートさせ、同年11月にはUCNの前段階である冷中性子(20-80K)の生成が確認されていました。

現地から連絡を受けた川崎助教によると、今回生成したのは、2016年11月よりもさらに冷やしたUCN(0.003K)で、物質容器内に保存されていることが確認できたということです。

川崎助教は「TRIUMFへの移設を開始してから2年が過ぎ、大きなトラブルもなく順調に進んでいます。EDMの精密測定のためには、中性子の密度をさらに高める必要があり、今後はビーム強度を上げ、2020年までにはUCN源も更新し、1立方センチあたり1000個の生成を目指します」と話しています。

(1) Y, Masuda et. al., Phys. Rev. Lett. 108, (2012), 134801

用語集

neV・・・ナノエレクトロンボルト。1eVの10億分の1

電気双極子モーメント(EDM: Electric Dipole Moment)・・・大きさが等しい正負の電荷が空間的に離れて存在することによって生じる電荷分布の偏りを表す物理量。素粒子が電気双極子モーメントを持つためには、空間反転および時間反転対称性が破れている必要がある。CPT定理を用いると、CP対称性を破ることを意味するため、新しいCP対称性の破れの起源を探索する方法として期待されている。素粒子の電気双極子モーメントは標準模型で極めて小さい値が予想されており、現在までに有限の値は測定されていない。


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論文情報

雑誌名
Phys. Rev. Lett. 108, (2012), 134801
タイトル
Spallation ultracold neutron source of superfluid helium below 1 K
著者
Yasuhiro Masuda 1 , Kichiji Hatanaka, Sun-Chan Jeong, Shinsuke Kawasaki, Ryohei Matsumiya, Kensaku Matsuta, Mototsugu Mihara, Yutaka Watanabe
DOI
10.1103/PhysRevLett.108.134801

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