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T2K実験、反電子型ニュートリノ出現現象に関する最初の結果を発表

T2K実験 (東海-神岡間長基線ニュートリノ振動実験) 国際共同研究グループは、7月23日、ウイーンで開催中の欧州物理学会において、反ミュー型ニュートリノが飛行中に反電子型ニュートリノへ変化する「反電子型ニュートリノ出現現象」に関する最初の測定結果を公表しました。

T2K実験は茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設J-PARCの加速器を使って大量のニュートリノビームを作りだし、西に295km離れた岐阜県飛騨市神岡町にあるスーパーカミオカンデ検出器へと照射します。そして、J-PARC施設内で生成したニュートリノの数と、スーパーカミオカンデ検出器で検出したニュートリノの数を計数することで、その間に起こる「ニュートリノ振動現象」を測定します。

2013年7月、同研究グループは、ミュー型ニュートリノが電子型ニュートリノに変化する「電子型ニュートリノ出現現象」が存在する確かな証拠をとらえました。 その後、2014年5月から2015年6月まで、ミュー型ニュートリノの反粒子である「反ミュー型ニュートリノ」を使ったビームをJ-PARCから打ち出し「反ニュートリノ振動現象」の測定を行っていました。

今回、その期間に取得した実験データ(標的に照射した陽子数4.0×1020個に相当)の解析を行い、スーパーカミオカンデ検出器で反電子型ニュートリノが出現した事象の候補が3個検出されました(図1図2)。 この観測数は、反電子型ニュートリノ出現に起因しない背景事象の予測数(期待値1.8個)に比べて統計的な差が見られないため、未だ反電子型ニュートリノ出現現象の証拠をとらえたとは現時点では言い切ることができません。 しかし、今後さらにデータを蓄積すれば、より良い精度で反電子型ニュートリノ出現現象を測定できることが期待できます。

反電子型ニュートリノ出現現象の測定は、物質と反物質の違いを示す「CP対称性の破れ」の測定の足がかりにもなります。 ニュートリノにおけるCP対称性の破れは、ニュートリノ振動と反ニュートリノ振動の確率の違いとして現れます。 反電子型ニュートリノ出現現象の結果を、すでにT2K実験が明らかにした電子型ニュートリノ出現現象と比較することによって、ニュートリノにおけるCP対称性の破れを直接観測する研究がいよいよ実現しようとしています(図3)。

また、今回の発表では、反ミュー型ニュートリノが観測できない反タウ型ニュートリノに変化する「反ミュー型ニュートリノ消失現象」についての解析結果の更新も行いました(5月に公表した前回の結果は3月までのデータを解析、標的に照射した陽子数2.3×1020個に相当)。 スーパーカミオカンデで検出された反ミュー型ニュートリノの数は34個となり、ニュートリノ振動現象が起きないと仮定した場合の予測数104個に対して有意に減っていることを確認しました。 また、この時のニュートリノのエネルギー分布にはニュートリノ振動に特有の振動パターンを示しており(図4)、世界最高精度で反ミュー型ニュートリノ消失現象を観測することに成功しました。

T2K実験グループは、今後、現在の約7倍のデータを取得し、反電子型ニュートリノ出現現象の証拠を世界に先駆けてとらえるとともに、ニュートリノにおけるCP対称性の破れに関する研究を推進していきます。

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