2011年5月30日
国立大学法人 広島大学
大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻・高橋嘉夫(教授)、古川丈真(大学院生)らの研究グループは、高エネルギー加速器研究機構(KEK)放射光科学研究施設フォトンファクトリー及びSPring-8を利用して、有機エアロゾル※1が大気中で水分を吸収する能力や、それによってもたらされる雲を形成する能力(雲形成能)が、これまでの予想よりも小さいことを示す研究成果を得ました。
本研究の成果はエアロゾルの地球冷却効果試算の正確さを向上させ、将来にわたる地球温暖化の正確な予測を行うことに大きく貢献すると期待されます。
地球温暖化は、世界が直面している深刻な地球環境問題の一つです。温暖化対策を進めるには、温暖化が将来にわたりどのように変化するのか、正確に予測することが重要です。IPCC(気候変動に関する政府間パネル;2007年ノーベル平和賞受賞)がまとめたレポートでは、大気中を浮遊する微粒子「エアロゾル」による雲形成が地球を寒冷化する効果があることが報告されています。
エアロゾルが大気を浮遊した場合、太陽光を反射して遮るため、地球を冷やす「直接効果」があります(図1)。また、エアロゾルに吸湿性の高い物質が含まれた場合、エアロゾルが大気中の水分を吸って雲の核となり、雲の形成を促します。この雲も、やはり太陽光を反射し地球を冷却する効果があるため、吸湿性の高いエアロゾルは間接的に地球を冷却する「間接効果」を持ちます(図1)。IPCCでは、この2つの冷却効果を区別して、地球温暖化に対する負の効果をそれぞれ定量的に示しています。その中で、雲形成による間接効果は、直接効果より大きな冷却効果を持つとされていますが、エアロゾルの組成や吸湿性の不確定性に由来する誤差が非常に大きく、エアロゾルの地球冷却効果の試算には大きな不確実性があることが示されています(図2)。そのため、エアロゾルの詳細な吸湿性やそれによる雲形成能の解明は、エアロゾルの地球冷却効果に係る科学的信頼性向上への課題となっていました。
間接効果をもたらす物質は、硫酸エアロゾルなどの無機エアロゾルと有機エアロゾルの2種に大別され、シュウ酸は有機エアロゾルの主要成分です。高橋教授らは、KEK物質構造科学研究所の放射光科学研究施設フォトンファクトリー(茨城県つくば市)およびSPring-8(兵庫県西播磨)を用いたX線吸収微細構造法(XAFS)※2で分析することにより、エアロゾル中のシュウ酸の大部分がカルシウムや亜鉛などの金属イオンと錯体※3を生成していることを見出しました(図3)。このことは、以下の点で重要であると言えます。
本研究成果は欧州地球科学連合の学術雑誌Atmospheric Chemistry and Physics誌5月号に掲載の論文で発表されました。
<論文名>
「Oxalate metal complexes in aerosol particles: implications for the hygroscopicity of oxalate-containing particles(日本語名:エアロゾル粒子中のシュウ酸-金属錯体:シュウ酸を含むエアロゾルの吸湿性への影響)」
欧州地球科学連合の学術雑誌Atmospheric Chemistry and Physics誌5月号(オンライン掲載日2011年5月10日)
この結果は、他のジカルボン酸や有機酸も錯体を作っている可能性を示唆しており、水溶性有機エアロゾルの冷却効果の議論には、共存している金属イオンの錯生成を考慮する必要があることを示します。
これにより、今後のIPCCなどによる地球温暖化の正確な予測やエアロゾルの地球冷却効果の正確な定量化に貢献すると期待されます。
図1
エアロゾルによる地球冷却効果
図2
1975-2005の間に各成分が地球温暖化に寄与した量
図3