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last update:09/05/08  
クラブ空洞で新記録
 
 
つくば市にある高エネルギー加速器研究機構(KEK)の加速器チームは、「クラブ空洞」という世界初の装置を用いて、電子・陽電子衝突型加速器(KEKB加速器)の衝突性能向上に成功した。KEKB加速器は、2001年以降一貫して世界最高ルミノシティ(衝突の起こりやすさを示す指標)を誇っており、2007年のクラブ空洞導入によって一層の性能向上が期待されていたが、ビーム調整技術の進歩により、設計値のほぼ2倍のルミノシティ1.96×1034cm-2s-1を達成した(図1)。

クラブ空洞とは、KEKで開発された特殊な超伝導空洞で、電子・陽電子ビームのバンチ(粒子のかたまり)を進行方向に対して傾けるものである(図2)。クラブ空洞設置以前のKEKBでは、電子・陽電子ビームのバンチは衝突点で1.3度の交差角をもって斜めに衝突していた。この交差角そのものは衝突後のビームを速やかに分離し、検出装置のバックグランドを押さえることに役立つ斬新なデザインであり、これまでの世界最高ルミノシティ1.76×1034cm-2s-1も、交差角のついた衝突状態で達成されたものである。しかし、近年の計算機シミュレーションでは、クラブ空洞によってバンチ同士を実質的に正面衝突させる「クラブ交差」により、さらに高いルミノシティを達成できる可能性が示されていた(図3)。

クラブ交差よって高いルミノシティを達成するには、従来のレベルを超えた丹念な誤差補正と精密なビーム衝突調整が不可欠である。とくに衝突点において、水平垂直結合などビーム光学システムの誤差をできる限り取り除くことが重要であり、今回の成果は、水平垂直結合の補正をエネルギーがずれたビーム粒子にまで適応したことが突破口となって、達成されたものである。これはシミュレーションで予言されていた調整項目の一つであり、エネルギーがずれた粒子の補正に必要な歪六極磁石(六極磁石を30度回転したもの)が、今年3月新たに設置されていた(図4)。また、入射器からのビームを50Hzでパルス毎に切り替えて、KEKB電子・陽電子リングおよび放射光リングの3リングに同時に入射する技術が最近実用化され、蓄積ビーム電流を常に一定に保つことが可能になって衝突調整の効率が画期的に向上したことも、今回の成果に繋がっている。

KEKB加速器における、今回のルミノシティ向上と精密なビーム調整の実績・経験は、さらに高いルミノシティを目指すスーパーBファクトリー加速器を始め、将来の衝突型加速器の実現に向けて重要な知見をもたらす。また、クラブ空洞は衝突点で交差角を持った他の加速器、例えば国際リニアコライダー(ILC)やCERNの大型ハドロンコライダー(LHC)のルミノシティ向上や将来の放射光源の性能向上に利用されることも期待される。
 
 
  【関連サイト】 KEKBのホームページ
  http://www.kek.jp/acc/introKEKB/
Belleのホームページ
  http://belle.kek.jp/
アクティビティ:KEKBのページ
  http://www.kek.jp/ja/activity/accl/kekb.html
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図1 :KEKB加速器ルミノシティ向上の履歴。クラブ空洞交差によって、設計値のほぼ2倍にあたるルミノシティを達成。しかも以前より少ないビーム電流で、より高いルミノシティを得ている。(10/nb/s = 1034cm-2s-1
 

 
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図2 : クラブ空洞の外観。
 

 
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図3 : 従来のKEKB加速器では電子と陽電子のビームが1.3度の交差角で衝突していた。クラブ空洞によってバンチを適切に傾けると、正面衝突と同等の状態になり、ルミノシティを向上させることができる。
 

 
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図4 : 電子リングに20台、陽電子リングに8台の歪六極磁石(六極磁石を30度回転したもの)が新たに設置された。
 
 

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