2011年8月2日
物質・材料研究機構の岡部博孝研究員、磯部雅朗グループリーダー、青山学院大学の秋光純教授、およびKEK物質構造科学研究所の門野良典教授、三宅康博教授らの研究グループは、J-PARCミュオン科学実験施設(MUSE)において、新物質のイリジウム酸化物Ba2IrO4(Ba: バリウム、Ir: イリジウム、O: 酸素)が銅酸化物高温超伝導体の母物質によく似た性質を持つことを明らかにしました。
高温超伝導は、銅酸化物や鉄系物質など、次々と新しい物質で発現することが確認されています。超伝導が発現する温度は最も高いものでも約マイナス110℃(160K)という環境のため、さらなる高温超伝導が望まれており、物質研究が盛んに行われています。研究グループは、新しい超伝導体の開発とその発現メカニズムの解明に取り組み、今回、6万気圧という高圧下で合成された新物質Ba2IrO4(図1)を、ミュオンスピン回転法(μSR)を用いて、その磁気状態を観測しました。
新物質Ba2IrO4は、代表的な銅酸化物超伝導体La2CuO4と結晶構造が一致しているのみならず、電子のスピンと軌道の相互作用による新しい絶縁体状態を形成していると考えられています。物質の局所磁場を測定できるμSRで詳しく調べた結果、Ba2IrO4はマイナス33℃(240 K)以下でスピンの向きが互い違いに秩序よく並ぶ反強磁性相が出現することを発見しました(図2)。さらに詳細な解析により、個々のイリジウム原子が持つ磁気モーメント(磁石の強さ)が、理論値よりもかなり小さいことを明らかにしました。これらは、高温超伝導体の母物質の銅酸化物でよく観測されている現象であることから、新物質Ba2IrO4でも高温超伝導につながる可能性があることを示唆しています。
本研究成果は、米国科学誌「Physical Review B」の2011年4月15日号オンライン版に"Editor's Suggestion(注目論文)"として掲載されました。