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   最極微の世界に迫るLHC計画(1)
〜 世界が注目するCERN 〜
 


CERNはWebの誕生地

一般には余り知られていないようですが、いまあなたが使っているWeb(World Wide Web)が生まれたのは、これからお話しする巨大プロジェクトが進められている研究所CERN(一般にセルンと呼ばれます)です。CERNのコンピューター技術者の一人であったTim Berners-Lee氏は、世界中に散らばっている高エネルギー物理学実験のチームメンバーの研究者の間で、瞬時に同じ情報を共有するにはどうしたらよいか悩んだ末、1990年も年の暮れ近くにWebの発明に至ったのです。最初のWebに使われたNeXTというワークステーションは現在ロンドン科学博物館に貸し出されていますが、まもなくCERNに戻り、CERNの展示館に陳列されるということです。いわばWebの親は高エネルギー物理学、ゆりかごはCERNであったとも言えます。
いま、このCERNが次の巨大プロジェクトで世界の注目を集めています。KEKと同様、素粒子・原子核研究の分野で活躍しているCERNとは何かから紹介します。


初の多国籍研究所CERN

CERNはジュネーブ郊外のスイスとフランスの国境にあります(写真1)。1954年、第二次世界大戦からの復興まもない欧州の英・独・仏・伊など12ヵ国が、米国に最先端の物理学研究分野で対抗するために、共同出資して素粒子・原子核の研究所をつくりました。それがCERNです。名前は設立時の称号 Conseil Europeen pour la Recherche Nucleaire に由来します。研究所の部屋の窓からは、緑豊かなジュラ山脈の麓まで続く広大なぶどう畑が見渡せて目を休ませてくれます(写真2)。遠くにはモンブランを抱くアルプスも望め、またジュネーブ飛行場もすぐそばで研究環境としては申し分ありません。現在では、CERNへの加盟国は欧州20カ国となり、国民総生産に比例して研究所の予算を負担しています。年間予算は約800億円で職員数は2500人を越える世界最大の高エネルギー素粒子物理学の研究所です。


欧州の研究所から世界のセンターへ

CERNは28GeV陽子シンクロトロン(1959年)を始めとして高エネルギー加速器を次々と建設し、世界の高エネルギー物理学と加速器技術をリードしてきました。ノーベル賞を計画して獲ったと言われる有名なW・Zボゾンの発見(1983年)もCERNの陽子反陽子コライダー(SppS)を使って実現しました。2000年までは東京の山の手線ほどの周長のLEP加速器を使ってW・Zボゾンの超精密測定がなされ標準モデル理論が高い精度で正しいことが証明されました。素粒子物理学上の成果のみならず、ビーム冷却法やワイヤーチェンバーなど加速器や検出器技術でもノーベル賞を獲得している研究所です。現在CERNの多様な加速器施設を利用する研究者数は年間6千人を越え、これは全世界の高エネルギー実験研究者の半分にあたります。このうち約3割は米国・ロシア・カナダ・日本などCERNの非加盟国からの研究者です。


次のステップ:LHC計画

これまでCERNに作られてきた数多くの加速器群・設備・周長27kmの地下トンネルを利用し、そしてこれまで蓄積された先進技術とマンパワーを注ぎ込んで、新たな巨大科学プロジェクトLHC(Large Hadron Collider)計画が始まっています。多数の超伝導電磁石を並べたLHC加速器をトンネル内に設置(写真3)して、陽子ビームをエネルギー7兆電子ボルト(7TeV)まで加速し互いに正面衝突させる一方、6階建てビルの高さに相当する二台の大型の実験装置(「アトラス」と 「CMS 」)を地下100メートルの実験場に設置して、最高エネルギーの陽子衝突で生じた2次粒子を観測します。LHC加速器と実験装置の完成は、計画当初よりやや遅れて2007年の予定です。

過去20年の間、標準モデル理論が予言する「ヒッグス粒子」の発見をめざして、米国と欧州は最高エネルギーの陽子コライダー加速器の建設計画を競ってきました。米国のSSC計画は1989年に始まりましたが、アメリカ議会の決定で1993年に建設途中で中止となりました。このSSC計画中止を受けて、LHCは欧州/CERNのローカルな計画から世界の高エネルギープロジェクトに格上げされた形で進んできました。日本・米国・カナダ・ロシア・インド・イスラエルなどCERNの非加盟国がLHC加速器建設に貢献しています。日本もLHC加速器を使った実験に参加するだけではなく、LHC加速器の建設に積極的に貢献しています。

次回はLHC計画がめざす物理の話をします。LHC計画の実験には日本グループも大きく関わっています。いずれ、それについてもお話しましょう。ご期待ください。


※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→CERN研究所のwebページ
http://public.web.cern.ch/Public/

→アトラス日本グループのwebページ
http://atlas.kek.jp

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[写真1]
空から見たCERNのLHC加速器のトンネル
(赤い円、実際には地下100mにあり見えない)
むこうにジュネーブ市・レマン湖・モンブランが見える
拡大写真(674KB)
(写真提供:CERN研究所)
 
 

[写真2] 
空から見たCERN研究所
周りはぶどう畑で向こうにジュラ山脈が見える
拡大写真(110KB)
(写真提供:CERN研究所)
 

 
[写真3]
既存の地下トンネル(周長27km)に
設置された(画像合成の)LHC加速器マグネット
拡大写真(63KB)
(写真提供:CERN研究所)
 
 
 
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