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   image タンパク質研究の大計画    2002.09.05
 
〜 3000種を5年で 〜
 
KEKで行われているタンパク質の研究については、細胞内の運び屋タンパク質の構造や機能についての研究を何度か紹介しました。タンパク質を作り出す人の遺伝子に記録されている遺伝情報は、国際協力の下にヒトゲノム計画でほぼ解明されてきました。次の重要な課題は遺伝情報から作られるタンパク質の構造・機能を知ることです。これによって生命現象の解明がさらに進み、病気の治療に有効な手立てを見つけることができるからです。ヒトゲノム計画に次いで、アメリカやヨーロッパでもタンパク質研究の国家的プロジェクトとして取り組み始めていますが、この夏、日本でも「タンパク3000プロジェクト」が国の計画として動き出しました。今日はこの計画に参加するKEKの計画について紹介しましょう。

タンパク3000プロジェクト

このプロジェクトではタンパク質の構造と機能を今後5年間に3000種以上解析しようとするものです。タンパク質の基本構造と機能を知るには約1万種のタンパク質の解析が必要だと考えられていますが、この計画ではその約3分の1以上を解析し、特許による権利化をはかり、遺伝情報を生かした薬(ゲノム創薬)を生み出すことを目指しています。

プロジェクトの中核となる実施機関は図1に示したように、理化学研究所と高エネルギー加速器研究機構(KEK, PF)、北海道大学、東京大学、横浜市立大学、京都大学、大阪大学です。

解析の進め方は、理化学研究所が中心となって2500種以上のタンパク質の基本構造を大量かつ迅速な手法で網羅的に構造・機能の解析を進めるプログラムと、タンパク質の多様な構造・機能に重点的に着目し、その他の機関が中心となり7つのテーマで個別に構造・機能解析を進め、全体で500種のタンパク質を扱おうとする個別のプログラムに分かれています。ここでは、その一つのプログラムとしてKEKの物質構造科学研究所の若槻壮市教授グループが中心となって進めるタンパク質の構造・機能解析についてお話しましょう。この解析で着目されるテーマを研究者は細胞内輸送と翻訳後修飾と言っています(図2)。どちらも私たちが生きていく活動を維持するためにタンパク質が果たす重要な役割です。


細胞内輸送とは

前にお話したように、私たちの体を作っている細胞内では生命活動を正常に維持するために不可欠なタンパク質が、細胞内にある器官を通り、細胞膜や細胞外部の目的地へ輸送されています。このとき積荷として運ばれるタンパク質には、目的地へ正確に輸送されるよう輸送シグナルとなる物質が取り付けられます。こうした輸送を調節するタンパク質が正常な構造や機能を持たないために起こる遺伝病も少なくありません。体の中で必要な場所へタンパク質が正確に分配されることが生命活動には不可欠です。ですから輸送タンパク質の機能を知ることは基礎生物学と医学の両面から重要な研究テーマです。


翻訳後修飾とは

専門用語での表現はなじみにくい方もいらっしゃるでしょう。タンパク質は遺伝子に記録された遺伝情報から作られるのですが、遺伝子に記録された情報の中から特定のタンパク質が作られるには、その素材となるアミノ酸の配列を読み出すことから始まります。遺伝子に記録された遺伝情報からアミノ酸配列が読み出されタンパク質が生まれる過程を翻訳と読んでいます。遺伝情報にしるされていた表現が翻訳されてアミノ酸で綴られた表現へ変えられたと言うのです。こうした翻訳後にタンパク質は誕生するのですが、これだけではタンパク質は一人前の仕事をしてくれないのです。翻訳後のタンパク質はまだ未成熟な状態で、一人前になるにはさらに仕事用の部品を用意して活動を始めます(図3)。これが修飾と呼ばれている過程です。修飾とは飾るという意味や限定すると言う意味がありますが、タンパク質が限定された役割を果たす仕事着や道具で装備するということでしょうか。 KEKでの翻訳後修飾をテーマにしたタンパク質の構造・機能解析研究で扱うタンパク質が装備するのは糖鎖という物質です。糖鎖はグルコース(ブドウ糖)やフルクトース(果糖)などの糖が鎖状に連なる物質です。タンパク質の表面についた糖鎖は、タンパク質の種類を示す「荷札」やタンパク質同士をつなぐ「連結器」や細胞の種類が見分けられる「標識」など重要な役割をタンパク質に持たせてくれます。タンパク質の多くが糖鎖を装備した形で機能を発揮するので、たんぱく質に結合した糖鎖の構造と機能を解明することはタンパク質研究では大変重要なテーマです。


KEKの役割

糖鎖を装備したタンパク質は細胞内輸送とも密接に関係しています。2つの研究分野を相互に補完して進める解析は、この分野の研究を急速に発展させると期待されています。これまでにも紹介したようにKEKにある放射光施設はX線によるタンパク質の構造解析で活躍してきました。これからは「タンパク3000プロジェクト」のプログラムのために、この放射光施設が共同利用研究者も参加して利用される予定です(図1, 4)。5年間で70種のタンパク質の構造機能解析を目標とするこのプログラムについては、成果に応じて今後も紹介させていただきます。

→関連記事
    1) 細胞内の運び屋タンパク質
    2) X線でタンパク質を探る
    3) 運び屋タンパク質の耳

 
 
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[図1-1]
タンパク3000プロジェクトは、平成14年度からの5年間で、約3000種以上のタンパク質の構造及びその機能を解析し、得られた成果の特許化まで視野に入れた研究を推進するための国家プロジェクトである。網羅的解析プログラム(理化学研究所担当)と、個別的解析プログラム(大学等の研究機関担当)に大別され、前者で2500種、後者で500種の構造機能解析を行う。
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[図1-2]
タンパク3000プロジェクト実施機関
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[図2]
個別的解析プログラムのうち、翻訳後修飾と輸送の研究テーマについては KEK, PFの構造生物グループが中核機関として選定され、他の研究機関と協力してこの研究テーマに関わるタンパク質の構造機能解析を行う。
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[図3]
遺伝子から翻訳された後のタンパク質はまだ未成熟な状態で、完成品となるためには糖鎖付加などをはじめとする様々な修飾を受ける必要がある。また、その過程で、タンパク質は細胞内を輸送されて様々な細胞内小器官や細胞外へ運ばれる必要があり、翻訳後修飾と細胞内輸送は密接に関係している。
拡大図(27KB)
 
 
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[図4]
KEK, PFの構造生物グループが中心となって、共同利用研究者の高度利用と利便性を目指して開発中の技術の一例を示す。
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