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   image ニュートリノ実験再開    2003.01.09
 
〜 スーパーカミオカンデの復旧 〜
 
小柴先生のノーベル賞受賞で多くの人々が、ニュートリノの名前を知りました。興味を持った方は、それが素粒子の名前であり、電気を持たず、想像出来ないぐらい小さくて軽い粒子であることもご存知でしょう。この素粒子には、まだまだ謎がいっぱいあって科学者が今も色々な実験をしてその性質を探っています。その一つがニュートリノの振動を人工的に調べるK2K実験です。この実験のこれまでの成果については既に皆さんにご紹介しました。ただ、残念なことに一昨年の秋に起きたスーパーカミオカンデの事故により実験は中断していました。その後の復旧作業についてもお知らせしましたが、昨年12月およそ1年半ぶりにK2K実験が再開されました。新しい年を迎え、再開したニュートリノ振動実験についてお話ししましょう。

K2K実験再開へ

スーパーカミオカンデの復旧作業についてはこれまでにもお話ししました。復旧後に水槽内で使われる破損を免れた光電子増倍管と予備の光電子増倍管は、全て破損したときの影響が波及しないように保護カバーをかぶせて補強されました。スーパーカミオカンデの観測再開には、この光電子増倍管約5200個を壁面に均一に不足分の影響が出ないよう設置するという作業が行なわれました。関係者一同の絶え間ない作業の連続で、ようやく水槽内に水が満たされスーパーカミオカンデの観測再開準備が完了したのは昨年12月10日でした。しかし、K2K実験を本格的に再開するには1ヶ月ほど水を循環精製してきれいにしなければなりません。これに対してつくばのKEKではニュートリノを生み出す陽子シンクロトロン加速器の立ち上げ調整を12月17日から始め22日の深夜1時頃に全ての調整を終えて実験を開始し、25日クリスマスの朝まで実験を行ないました。この間、神岡のスーパーカミオカンデもまだ立ち上がったばかりで、オンラインでのデータ解析はできませんでしたが、オフラインで観測データの解析を進めており、つくばからのニュートリノの反応を示す事象の観測が1月中には確認できると期待されています。
昨年末の運転再開は長期の中断後としては順調な立ち上がりで、1日程ビームが止まったこともあったようですが、1月18日から6月末まで計画されている本格的K2K実験の長期運転に備えた試験運転としては満足すべきものでした。

今後の課題

これまでの成果を昨年6月に発表されたデータでまとめておきましょう。K2K実験ではつくばから人工的に作ったニュートリノを送り出し神岡まで250キロの間で、つくばで確認されたニュートリノ反応の事象数がどれだけ減少するか、エネルギー分布にどんな変化が現われるかを神岡で観測し、ニュートリノ振動を検出してきました。2001年7月までに得られた全てのデータによると、事象数は振動が無いとしたときの80から56に減少し、エネルギー分布の観測と総合するとニュートリノ振動を示していると考えられます。しかし、ニュートリノ振動が起こっていなくても統計的な変動でこのように見える確率はゼロではありません。これをできるだけ小さくすることが必要で、これまでのデータによるとこの確率は1%以下となっています。

実験再開後の課題は観測事象数を倍に増やすことにより、ニュートリノ振動の振る舞いを確実に観測し、振動を決める関係を量的に精度良く決めることだと考えられています。ニュートリノ振動を実験的に調べる計画は外国の研究機関でも注目を集めています。それだけに国際的な研究競争は一段と激しくなってきています。1年半という中断がありましたが、まだ先頭を走っているこの実験計画、これまでは国内8機関、アメリカ、韓国、ポーランドの海外機関も参加した国際共同研究でした。今回の再開後はさらにフランス、イタリア、スイス、スペイン、ロシアの研究者が加わり9カ国に広がった国際共同実験となり参加者もおよそ100人から120人へと増加しました。

1月18日から再開される本格実験で得られたデータを加えた最新の解析結果は、今年8月中旬アメリカで開かれる国際会議で発表される予定です。

ニュートリノ研究で世界に貢献する日本

小柴先生の受賞はニュートリノ研究で日本人研究者の活躍が世界に認められたことを示しています。実際に、この分野の引用された研究論文数を国際的に比べた調査では、日本人研究者が何人も上位を占めています。再開されたK2K実験もその一つですが、日本がこの分野で世界をリードする実験を行なっていることがその背景にあります。この状態がこれからも続くには若い研究者が参加できる新しい実験計画が準備されることも大切です。東海村に現在建設中の大強度陽子加速器施設「J-PARC」にはさらに高い精度のニュートリノ実験計画も提案されています。それが実現し、小柴先生に続く日本人研究者の出現に期待することにしましょう。
 
 
※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ
 
→K2K つくば−神岡間 長基線ニュートリノ振動実験
    公式ホームページ
http://neutrino.kek.jp/index-j.html
→KEK キッズサイエンティスト:クローズアップKEK
      :K2K実験
http://www.kek.jp/kids/closeup/k2k/index.html


→関連記事
        スーパーカミオカンデ〜事故からの再生〜
        K2K実験〜国際会議で報告〜


 
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[図4]
拡大図(35KB)
一昨年夏までにKEKから発射し、スーパーカミオカンデで観測されたニュートリノのうち、エネルギーを再構成できる29事象のエネルギー分布(黒点)。その形はニュートリノ発生直後に前置検出器で測定されたもの(青いヒストグラム)とは異なり、ニュートリノ振動を考慮した形(赤いヒストグラム)の方が合う。形だけを比較するため、青と赤のヒストグラムの面積は29事象に規格化してある。観測される数が予想より減っていることも考慮した場合は、点線がデータと比較するべき分布である。1GeV以下でデータとの違いが際立っており、ニュートリノ振動を示すものと考えられる。
 
 
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[写真1]
KEK敷地内のニュートリノ実験施設全景。右手中央よりやや上に陽子シンクロトロンの放射線遮蔽用の円形の土盛りが見える。その左の青い屋根の建物から更に左手に土盛りが伸び、約90°曲がって写真左下隅に達している。更にその先にニュートリノ前置検出器を収容する実験室がある。土盛りの下のトンネルを陽子ビームが走り、神岡の方向に曲げられてから金属の標的に当たりパイ中間子を発生する。パイ中間子はトンネルの直線部を通過中に崩壊してニュートリノが発生する。トンネルの終端には厚い鉄とコンクリートのビームダンプが置かれ、前置検出器室との間には更に70mの土の層があるので、ニュートリノだけが前置検出器を通過して神岡に向かって地中を突き進む。
拡大写真(46KB)
  
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[写真2]
実験中の計測室の様子
拡大写真(34KB)
 
 
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[図1]
前置検出器のうちの1000トンの水チェレンコフ検出器で、実験開始に先立ち、ニュートリノビームライン調整中に観測された最初のニュートリノ事象。円筒形の内部測定器を展開図で示している。点はチェレンコフ光を受けた光電子増倍管、その大きさは受けた光量、色は信号を検出した時間の違いを表す。
拡大図(50KB)
 
 
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[図2]
前置検出器のうち、シンチレーティングファイバー検出器(左)とミュー粒子検出器(右)が観測したニュートリノ事象。左側から来たニュートリノがシンティレーティングファイバー検出器中で反応して発生した2本の荷電粒子の飛跡が見える。長い方の飛跡はミュー粒子検出器に達し、その中で止まった。
拡大図(17KB)
 
 
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[図3]
12月21日にビームラインの調整が始まり、22日午前1時頃から実験開始、25日午前9時に終了するまでにニュートリノ生成標的に照射された積算陽子数(上)と加速器の周期毎に引き出された陽子数(下)。
拡大図(18KB)
 
 
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