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   image 素粒子理論の大予言    2003.4.17
 
〜 ヒッグス場と粒子 〜
 
素粒子物理学は宇宙に存在する物質の根底をなすものを探り、そこに働く究極の法則を求めて発展してきました。その素粒子理論の最も重要な予言のひとつに、ヒッグス場とヒッグス粒子の存在があります。今日は、様々な素粒子の質量をきめ、宇宙の誕生からこれまでの進化とも深くかかわっているというヒッグス場とヒッグス粒子についてのお話です。

現在の素粒子像

物質を小さく分けていくと、段階をおって小さな単位でできていることが分かります。分子は原子の集まりであり、原子は中心に原子核があり、まわりに電子が回っています。原子核は電気を帯びている陽子と電気的に中性な中性子が結合してできています。更に小さなスケールでみると、陽子や中性子は三つのクォークから成ります。現在の素粒子物理の理解では、物質の最も小さな単位はクォークと電子などのレプトンで、それぞれ重さの違った粒子が6種類ずつあります。

一方、クォークやレプトンの間に働く基本的な力としては4種類の力が知られています。それは、日常生活で良く知られた重力と電磁気力と、素粒子や原子核の世界で働く強い相互作用と弱い相互作用という二つの力です。強い相互作用は陽子や中性子から原子核を作ったり、クォークを陽子や中性子の中に閉じ込めたりする力です。一方、弱い相互作用は中性子が陽子と電子とニュートリノへ崩壊することを引き起こしたりする力です。これらの力に対応して、それぞれの力を媒介する素粒子(ゲージ粒子)が存在します。電磁気力は光子、強い相互作用はグルーオン、弱い相互作用はW粒子とZ粒子と呼ばれる二種類の粒子によって媒介されます。重力は重力子によって運ばれると考えられています。

質量を決めるヒッグス場

実は、素粒子の世界はこれだけでは不十分です。ヒッグス場とそれにともなって、ヒッグス粒子という素粒子があるはずだと考えられています。ヒッグス場は素粒子の質量を決めるために重要な役割を果たしています。素粒子の質量とはそれぞれの素粒子の固有な重さのことです。質量はマクロな世界では重力の受け方で測ることができますが、素粒子の様なミクロな世界ではそれぞれの素粒子に固有なエネルギーといった意味を持ちます。たとえば、W粒子は陽子の80倍以上の質量を持つため、高いエネルギーの加速器によって始めて生成することができます。また量子力学の原理によると素粒子の質量はそれによって媒介される力の到達距離を決めます。光子は質量がゼロのために電磁気力はマクロな世界で感じることができますが、W粒子の交換によって生じる弱い相互作用が働くのは10-15cm程度のごく短い距離だけです。また、電子は陽子の約1800分の1の質量しかありませんが、これが原子の大きさを決めています。このように素粒子の質量は物質の構造と力の様子を決める重要な意味を持っています。

それでは、ヒッグス場は素粒子の質量を決めることにどのように係わっているのでしょうか。まず例として、電磁気学における電場のことを考えてみましょう。ある点に電荷を置くとその周りには電場が生じます。電場中に別の電荷を置くと置いた電荷の場所の電場の大きさに比例した力を受けます。ヒッグス場と言うのは電場と同じように空間に広がった場のことです。ただし、電場と違うのは何もない空間にも、つまり中心に電荷のようなものを置かなくても、ヒッグス場は存在しているということです。つまり真空中にヒッグス場は詰まっているわけです。素粒子が真空中に置かれると、ヒッグス場との力のやりとりの結果としてエネルギーを生じますが、これが素粒子の質量として観測されます。ヒッグス場との力のやりとりの強さはそれぞれの素粒子で違っており、強ければ強いほど素粒子の質量は大きくなります。また、クォークやレプトンに質量を生じさせる力は湯川相互作用と呼ばれる、今までに確認されている4つの力とは別の新しい力です。

どう見つけるか

電磁気学では、電磁場に対応する素粒子として光子があるように、ヒッグス場にはそれに対応した素粒子であるヒッグス粒子が存在すると考えられています。ヒッグス粒子は今までの高エネルギー実験による探索でも発見されていません。現在進行中のTEVATRON実験、2007年から始まるLHC実験、計画中の電子陽電子リニアコライダープロジェクトでは、ヒッグス粒子の研究が主要な目的の一つになっています。ヒッグス場はいわば文楽人形の黒子の役割をしています。つまり、空間の至るところに黒子が隠れていて、陰で素粒子を操っているようなものです。リニアコライダーでは黒子の頭巾をはがしてその正体を暴くことを目指しています。

解明がもたらすもの

ヒッグス粒子の解明はまた、宇宙のごく初期の様子を知るためにも重要です。宇宙の誕生時のまだ非常に高温の時代には宇宙は現在とは違った状態にあって、クォークやレプトン、W粒子とZ粒子は、まだ質量を持っていなかったと考えられています。それが、段々温度が下がってきて相転移を起こし、現在のような状態に変化したとされています。そのとき何が起きたのかは、ヒッグス場とそれにまつわる力の様子を解明しなければ分かりません。 将来のヒッグス粒子の研究は、単にヒッグス粒子を発見するだけでなく、湯川相互作用等の新しい力を解明し、自然界の法則を一段深いレベルで理解することを目標にしています。

  ※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

  →KEK キッズサイエンティスト:
      やさしい物理教室:素粒子の世界:ヒッグス粒子と質量
  http://www.kek.jp/kids/class/particle/higgs.html

  →関連記事
      最極微の世界に挑戦するLHC計画(2)〜
           ヒッグス粒子を探す 〜
      宇宙誕生の時に迫る〜 リニアコライダー計画 〜

 
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[図1]
物質の階層構造を水の分子を例に見ていくと、酸素原子、原子核、陽子そして最小単位はクォーク。クォークの内部構造は見つかっていません。現在の素粒子物理の理解では、物質の最も小さな単位はクォークと電子などのレプトンと考えられています。
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[図2]
標準モデルの世界。物質は6種類のクォークと6種類のレプトンから構成され、クォークとレプトンは対応する3つの世代に分類されます。また、自然界の4つの力うち重力を除く力は、ゲージ粒子と呼ばれる素粒子が媒介して引き起こされると考えられています。理論で必要とされているヒッグス粒子のみがまだ発見されていません。
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[図3](c)スタジオR
電磁場に対応する素粒子として光子があるように、ヒッグス場にはそれに対応した素粒子であるヒッグス粒子が存在すると考えられています。ヒッグス粒子は今までの高エネルギー実験による探索でも発見されていません。ヒッグス場はいわば文楽人形の黒子の役割をしています。つまり、空間の至るところに黒子が隠れていて、陰で素粒子を操っているようなものです。
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