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   image コンパクトな加速器を作る    2003.12.18
 
〜 Cバンド加速に初めて成功 〜
 
加速器はいろいろな種類の部品から作られているので、性能をよりよくするためには、複雑なシステム工学のバランスを考慮しながら、全体を少しずつ改良していく必要があります。

今日はKEKの電子・陽電子線形加速器の性能を従来の2分の1の長さの加速管で達成することに成功した、Cバンド加速についてご紹介しましょう。

電子の波乗りで加速する

粒子を加速する加速器には大きく分けると線形のものと円形のものがあります。線形の加速器は粒子を一度で加速するので、大電力の高周波を発生させる加速装置がたくさん並びます。また、円形の加速器は粒子の軌道を丸くして一つの加速装置で何度も粒子を加速するので、粒子の軌道を曲げるための電磁石がたくさん並びます。

現代の加速器では空洞が並んでいる金属の容器に高周波の電波を注入して粒子を加速します(加速管)。図1を見てください。装置の左から入射された電子が最初の空洞に差しかかった時、この電波によって空洞の前方がプラスに、後方がマイナスに帯電されると、電子は前方に加速されます。次の空洞に差しかかった時、プラスとマイナスが逆転すると、また電子は加速されます。この時、電子が感じる力の強さをグラフにすると、ちょうど、力の波の山のところに電子が波乗りするように波の速さを調節してやれば、電子がどんどん加速されていきます。

大電力の高周波を生みだす

電子や陽子を加速する際に中心的な役割を果たすのが加速空洞です。加速されて光速に近づいた粒子が空洞を通り抜けるスピードにあわせて電場の向きを変化させるには、空洞にマイクロ波と呼ばれる高周波の電波を注入します。たくさんの粒子を高速で加速させるためにはなるべくたくさんの電力を空洞に貯えてやる必要がありますが、空洞に注入される高周波が空洞の壁から熱となって逃げていくために、工作精度や空洞の冷却技術などがとても重要になります。

また、大電力のマイクロ波を生み出すためには、クライストロンと呼ばれる真空管の一種を使います(図3)。

クライストロンの内部でも電子ビームが用いられます。電子ビームが空洞を通過する時、空洞に共振を起こしやすい条件で小電力の高周波を注入すると、電子ビームと空洞が共鳴を起こし、空洞から大きな電力の高周波を取り出すことができます。この原理で大電力の高周波を作り出すことができます。加速管とは逆の原理で電子ビームからエネルギーを取りだすわけです。

小型化はシステムの総力戦

線形加速器を小型化するためには、まず、加速管やクライストロンで使用するマイクロ波の波長を短くする必要があります。波長が短くなると空洞とクライストロンを結ぶ導波管などの部品全てにより高い工作精度が要求されます。また、加速器は狭いトンネルの内部に設置されるため、加速空洞やクライストロンだけが小型化されても、周辺に設置する電源設備などが従来の大きさのままでは機器の設置密度をあげることができません。電源設備なども加速空洞に見合うだけの小型化が必要になります。

加速器のシステムは複雑なので、これらの機器の設計から製作、動作確認までは通常、4〜5年はかかると言われています。KEKでは従来、Sバンドの加速管が用いられてきましたが、榎本教授らのグループはCバンドの加速システムを1年半で実現し、電子ビームを実際に加速することに成功しました。SバンドやCバンドというのは、マイクロ波の波長を示していてSバンドは約10cm、Cバンドは約5cmです。Cバンドで1mあたり4千万ボルトという高い性能で電子ビームを加速したのは世界でも初めての快挙です。「KEKが培った長年の技術と経験、それとチームワークが短期間での成功をもたらした。」と榎本教授は語っています。

加速器の増強や加速器の小型化へ

Cバンドの加速に成功したことで、今後、KEKB加速器の設置面積を変えずに加速エネルギーを増強する手段にも道筋が見えてきました。また、線形加速器で同じエネルギーを達成するためには、従来の半分の設置面積で可能になります。世界をリードするKEKの加速器技術の今後の進展にご期待下さい。

 
 
※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→KEK キッズサイエンティスト:加速器とは
http://www.kek.jp/kids/accelerator/index.html
→KEK キッズサイエンティスト:簡単物理辞典:クライストロン
http://www.kek.jp/kids/jiten/matter/
→KEKツアー:電子・陽電子線形加速器
http://www.kek.jptour/electron-1.html
http://www.kek.jptour/electron-11.html

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[図1]
加速空洞内で高周波によって電子が加速されるイメージ図
拡大図(394KB)
 
 
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[図2]
実際にKEKの電子・陽電子線形加速器で使用している加速管のカットモデル。写真は従来型(Sバンド)の加速管。
拡大図(26KB)
 
 
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[図3]
クライストロンの原理図。カソードから打ち出された電子ビームに高周波を入力すると、電子ビームに速度変化がおこることによって電子密度に濃淡ができ、空洞と共振を起こすことで大きな出力の高周波を取り出すことができる。
拡大図(26KB)
 
 
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[図4]
電子・陽電子線形加速器に試験的に設置し、加速試験に成功したCバンド加速管(長さ約1m)。左端は従来のSバンド加速管(長さ約2m)。
拡大図(58KB)
 
 
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[図5]
はじめて測定されたCバンド加速管による加速利得の結果。ほぼ設計値通りの加速性能が得られた。
拡大図(20KB)
 
 
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[図6]
Cバンド加速に成功した開発グループ。後ろに見えるのはクライストロン用電源。
拡大図(81KB)
 
 
 
 
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proffice@kek.jp
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