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last update:04/05/27  

   image ふしぎな対称性    2004.5.27
 
        〜 標準模型を超える?超対称性理論 〜
 
 
  現在、我々が良く知っている素粒子には、超対称パートナーと呼ばれる“相棒”がいるかもしれません。今日は、その相棒の存在を予言する理論である超対称性理論についてお話します。

超対称性とは

素粒子(図1)を分類する性質の一つに、スピンと呼ばれるものがあります。これは、素粒子が持っている固有の角運動量で、日常的に馴染み深いものに例えると、ある決まった回転数の自転のようなものです。素粒子標準模型に登場する素粒子では、クォークやレプトンはスピン1/2を、それらの間に働く力を媒介するゲージ粒子はスピン1、さらにヒッグス粒子はスピン0をそれぞれ持っています(図2)。さらに、我々の日常にもっとも馴染み深い重力を伝える粒子は素粒子としては重力子と呼ばれますが、これはスピン2を持っています。素粒子理論の中では、このスピンという量は、時空の対称性に結びついた物理量として理解されています。

超対称性とは、異なるスピンを持つ素粒子を結びつける対称性のことで、標準模型を超える物理の代表として、長い間専門家の間で研究されています。そもそも、この対称性は、現在の素粒子標準模型がもつ理論的な問題点を解決するために導入されました。この対称性のもっとも基本的な予言は、あるスピンをもつ粒子が存在すれば、必ずスピンが1/2だけ異なる相棒の粒子が存在するということです。この超対称性のために登場する相棒は、超対称パートナーと呼ばれています(図3)。たとえば、スピン1/2のクォークやレプトンには、それぞれスピンが0であるスカラー粒子(スピン0の粒子は素粒子理論の言葉でスカラー粒子と呼ばれます。)という相棒が存在します。スピン1のゲージ粒子にもスピン1/2の相棒が、スピン0のヒッグス粒子にもスピン1/2の相棒が同じように存在します。重力子も同様にスピン3/2の相棒を持っています。これら、超対称パートナー同士はスピン以外の性質がまったく同じであるという特徴をもっています。

超対称パートナーはどこへ?

超対称性の予言に従えば、たとえば、我々に馴染みの深いスピン1/2を持つ電子にもスピンが1/2だけ異なる超対称パートナーが存在するわけです。この超対称パートナーはスピン0のスカラー粒子なので、スカラー電子と呼ばれています。すこし考えると超対称性の予言が我々の日常の世界の姿と食い違うことに気づくことでしょう。スカラー電子はスピン以外の性質がすべて電子と同じ粒子でした。すると、我々の日常にも、電子と同様に多くのスカラー電子が存在する筈です。ところが、そのようなものは、現在のところ発見されていません。これはどういうことでしょう。

この問題についての、超対称性理論の回答はこうです。超対称パートナーは、現在我々が観測しているエネルギーよりも高い質量を持っている。この電子とスカラー電子の質量の違いは超対称性が我々の知るエネルギースケールでは成立していないということを表していますが、この質量の違いが無視できるほどの高いエネルギースケールでは超対称性という性質が成立することになります。

つまり、超対称パートナーの質量を超えるエネルギースケールでは、超対称パートナーが我々に馴染みの深い素粒子と同じように存在するわけです。

素粒子標準模型に超対称性を導入した模型は、超対称標準模型と呼ばれ、標準模型を越える新しい物理の代表として長い間研究されています。

超対称性の検証へ向けて

超対称性理論が正しければ、超対称パートナーの質量よりも高いエネルギーで実験を行えば、超対称パートナーを作り出すことが出来るはずです。残念ながらこれまでの加速器実験では、超対称パートナーの存在は確認されていません。これは、現在の加速器実験では、超対称パートナーを作り出すにはエネルギーが足りないということを示しています。素粒子理論の観点では、超対称パートナーの質量は1テラ電子ボルト程度以下であることが自然であり、これを超える将来の高エネルギー加速器実験では、超対称パートナーの発見が期待されています。

現在、欧州合同原子核研究機関(CERN)において、2007年から稼動の予定の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の建設が進んでいます(図4)。この加速器の中心エネルギーは超対称パートナーの検証に十分な14テラ電子ボルトにデザインされており、専門家の期待を集めています。

加速器による超対称性の検証とは別に、超対称パートナーの一つはすでに間接的にその存在が検証されている可能性があります。近年目覚しい発展を遂げている宇宙観測の結果によれば、我々の宇宙の全質量の23%がダークマターと呼ばれる光っていない暗黒物質の質量によって占められていることが理解されてきました(図5)。

ところで、超対称性理論の予言の一つに、もっとも軽い超対称パートナーは安定であるというものがあります。もしそれが電荷を持たないニュートラリーノと呼ばれるものであれば、ダークマターの候補としては理論的に非常に自然であることを示すことができます。つまり、ニュートラリーノは現在観測されているダークマターの有力候補なわけです。

超対称パートナーの発見が示唆するもの

上で述べましたように、スピンとは時空の対称性に関連する物理量です。もし超対称パートナーが発見されたならば、時空構造には、異なるスピン同士をつなぐ対称性も含まれていることを発見したことになります。これは、反粒子の発見に匹敵する、あるいはそれ以上の大発見かもしれません。

理論上、反粒子とは、電子の量子理論に相対性理論という新たな時空構造を導入した結果として存在が予言された粒子です。超対称性理論は、相対性理論に加え、さらに新たな時空の構造を導入し、超対称パートナーの存在を予言しているのです。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→日本アトラスグループのwebページ
  http://atlas.kek.jp/public/
→キッズサイエンティストの素粒子像に関するページ
  http://www.kek.jp/kids/class/particle/higgs.html
→キッズサイエンティストの超対称性に関するページ
  http://www.kek.jp/kids/class/particle/toitsu.html
→キッズサイエンティストの簡単物理辞典(素粒子)のページ
  http://www.kek.jp/kids/jiten/particle/particle.html
→総合研究大学院大学の理論素粒子物理講座のwebページ
  http://www.kek.jp/sokendai/skd/d/pnp/booklet/p03.html
→国際会議SUSY2004のwebページ(英語)
  http://www-conf.kek.jp/susy04/

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    最極微の世界に挑戦するLHC計画(2) 〜ヒッグス粒子を探す〜
    素粒子理論の大予言 〜ヒッグス場と粒子〜

 
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[図1]
物質の階層構造を水の分子を例に見ていくと、酸素原子、原子核、陽子そして最小単位はクォーク。クォークの内部構造は見つかっていません。現在の素粒子物理の理解では、物質の最も小さな単位はクォークと電子などのレプトンと考えられています。
拡大図(34KB)
 
 
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[図2]
標準模型の世界。物質は6種類のクォークと6種類のレプトンから構成され、クォークとレプトンは対応する3つの世代に分類されます。また、自然界の4つの力うち重力を除く力は、ゲージ粒子と呼ばれる素粒子が媒介して引き起こされると考えられています。理論で必要とされているヒッグス粒子のみがまだ発見されていません。
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[図3]
超対称性理論は標準模型に登場する素粒子すべてにスピンが1/2だけ異なる超対称パートナーが存在することを予言します。
拡大図(66KB)
 
 
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[図4]imageCERN
スイス、ジュネーブにあるCERNでは、現在、2007年からの稼動開始に向けて、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の建設が進んでいます。超対称パートナーの直接検証が期待されています。
拡大図(108KB)
 
 
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[図5]
これまでの宇宙観測の結果によれば、我々の宇宙の構成要素は3種類の主要部分からなることがわかりました。73%は暗黒エネルギーと呼ばれる宇宙の加速膨張を引き起こすようなエネルギーが、23%はダークマターあるいは暗黒物質とよばれるまだ我々の知らない物質が担っています。我々の体や星を構成している水素などの物質はわずか全体の4%ほどです。
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[図6]imageスタジオR
超対称性(SUSY)は世界の多くの研究者により研究されています。毎年6月ころに超対称性理論を主題とする会議、「超対称性国際会議」が世界各国の研究所や大学が主催で行われています。今年の会議はKEKの主催でつくば市国際会議場で行われます。毎年200人から300人もの超対称性の研究者が世界中から集まり、超対称性についての研究発表や白熱した議論が行われています。
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