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last update:05/02/21  

   image アインシュタインと世界物理年    2005.2.17
 
        〜 3つの発見とKEK 〜
 
 
  今年は物理学者アインシュタインが物理学の歴史に残る3つの重要な概念を発表してから100周年にあたります。この節目を記念して「世界物理年」として、世界各地でいろいろなイベントが開催されます。

アインシュタインが1905年に成し遂げた業績を振り返りながら、KEKなどで行われているいろいろな研究活動との関わりについてご紹介しましょう。

奇跡の年

物理学者アインシュタインは1905年、スイス特許局で技術専門職員として働いていた時に6篇の論文を執筆しました。この年に出版されたのはこのうちの5篇で、「特殊相対性理論」「光量子仮設と光電効果」「ブラウン運動」という、20世紀の物理学の基礎となった三つの重要な概念を発見しています(図1)。

三つの概念のいずれも、その後の物理学の発展に重要な貢献をしました。1905年が物理学にとって「奇跡の年」と呼ばれるゆえんです。1921年にアインシュタインは光量子仮説と光電効果の論文でノーベル物理学賞を受賞しています。

特殊相対性理論

アインシュタインといえば「相対性理論」が有名ですね。これには「特殊相対性理論」と「一般相対性理論」の二つの理論がありますが、1905年に発表されたのは特殊相対性理論です。

特殊相対性理論の特徴を簡単にいえば「運動している物体の時計は遅れて見え、長さは縮んで見える」です(図2)。運動している物体の速度が光の速さに近づくとこの効果は大きくなります。普通の暮らしの中では効果が小さくてまず気づくことはないのですが、実はKEKで行われている素粒子の研究や、皆さんおなじみのカーナビに使われているGPSなどは相対性理論がなければ実現できません。

以前の記事でご紹介したように、我々の身体はいつもミュー粒子と呼ばれる宇宙線に貫かれています。このミュー粒子は地上20kmほどの高さで地球の外からやってきた陽子などの一次宇宙線が大気中の分子の原子核と衝突する際に生まれます。生まれたミュー粒子は光の速度の約99.5%の速さで地表に降ってきます。ミュー粒子の寿命は百万分の2秒しかないので、普通に考えると600mほど走ると崩壊してしまうはずです。そのミュー粒子が地表で観測されるのは、相対性理論の効果でミュー粒子の時計がゆっくりと動いているからなのです。

Bファクトリーのような加速器を設計する時にも相対性理論の効果を考えて装置を設計しないと加速器は動きません。Bファクトリーでは電子を光速の99.9999998%まで加速します。この時、電子の質量は止まっている時の1万6千倍ほどに増加しているように見えます(図4)。

カーナビに使われているGPSでは人工衛星からの電波を受信して今いる場所を計算していますが、その時、人工衛星に搭載された非常に精密な時計の信号を元にしています。GPSの衛星は秒速4kmで地球の周りを回っていますが、衛星の時計が相対性理論で遅れる効果を考慮しないと、時計がずれてしまいます。意外に身近なところでも相対性理論は役に立っているわけです。

光量子仮説と光電効果

金属の表面に光が入ると、電子が飛び出してきます。これを光電効果といいます(図5)。詳しく調べてみると、飛び出してくる電子のエネルギーが飛び飛びの値を取ることがわかっていましたが、アインシュタインはこれを「光にはある決まったエネルギーの単位の粒のような性質がある(光量子)」と説明しました。この発見が後の量子力学につながり、その後、素粒子物理学や半導体の物理学の発展の礎となっています。もしアインシュタインがこの論文を書かなかったら、20世紀の物理学の進展や、それに伴うIT技術の発展は数十年遅くなっていたかもしれません。

光電効果を利用してかすかな光を検出するための装置に光電子増倍管があります。ニュートリノを捉えるスーパーカミオカンデやK2K実験の検出器でも大活躍をしています(図6)

ブラウン運動

ブラウン運動というのは、たばこの煙に含まれるような小さな粒や花粉の中の微粒子などが空気中や水中に浮かんでいる状態を顕微鏡で観察すると、不規則に動き回っているのが見える現象です。

アインシュタインは、この不規則な運動が、粒のまわりにある空気中の分子が粒にぶつかって跳ね返ることで起きると考え、粒の運動の様子から空気中の分子の熱運動を調べる方法を発見しました。これによって気体の熱運動などを統計的に調べるための手法が飛躍的に発展して、現在の統計物理学の基礎となりました。

世界物理年

アインシュタインがこれらの三つの重要な概念を発表してから百周年の今年、「世界物理年」と称して、世界各地でさまざまな催しが開催されます。この催しのシンボルマークとなっている砂時計のような形のロゴ(図8)は、特殊相対性理論の重要な概念である「光のスピードはいつでも一定」を表す「光円錐」にちなんでいます。

KEKでも戸塚機構長の文化勲章受章を記念した講演会や、バイオリンをこよなく愛したアインシュタイン博士をしのんで、小柴先生とバイオリニスト、ジャック・リーベック氏の共演による「物理とヴァイオリンの調べ」などを開催する予定です。ぜひご参加ください。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→世界物理年2005の公式webページ(英語)
  http://www.wyp2005.org/
→世界物理年日本委員会のwebページ
  http://www.wyp2005.jp/
→KEKの世界物理年2005のwebページ
  http://www.kek.jp/WYP/
→物理チャレンジ2005のwebページ
  http://www.wyp2005.jp/jp/challenge/index.html
→日本物理学会の世界物理年のwebページ
  http://wwwsoc.nii.ac.jp/jps/jps/topics/wyp/wyp.html

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[図1]imageHaruyama
物理学者アインシュタインの似顔絵。アインシュタインは「特殊相対性理論」「光量子と光電効果」「ブラウン運動」という三つの鍵となる理論を発表して20世紀の物理学の扉を開いた。
拡大図(86KB)
 
 
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[図2]
特殊相対性理論の概念。A地点から発した光は1秒後には30万キロ進んでいる(B)。秒速5万キロで進むロケットは1秒後(C)にはA地点にいる人から5万キロの地点にいる。ロケットから光を見ると、やはり秒速30万キロで進んでいるように見える。これはロケットの時間と空間の尺度(座標軸)が青色で書かれたようにゆがんで(ローレンツ収縮)しまうためであるとアインシュタインは考えた。
拡大図(16KB)
 
 
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[図3]
宇宙線の中に含まれるミュー粒子
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[図4]
加速器の設計と運転には特殊相対論の効果が欠かせない。
拡大図(61KB)
 
 
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[図5]
光電効果。金属表面に光があたると電子が放出されるが、電子のエネルギー(E0)を観測すると、光がとびとびのエネルギー(hν)を持ってぶつかってくるように見える。
拡大図(9KB)
 
 
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[図6]
光電子増倍管の動作原理。
拡大図(27KB)
 
 
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[図7]
ブラウン運動。気体分子が熱運動している中に煙の粒子などを入れて顕微鏡で見ると、粒子が不規則な運動をしているのが見える。
拡大図(131KB)
 
 
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[図8]
世界物理年のロゴ。このロゴは、相対性理論(1905年)のシンボルである光円錐を示しています。
拡大図(44KB)
 
 
 
 

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