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地球の熱はどこからくるの? 2005.9.22 |
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〜 反ニュートリノ星・地球 〜 |
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地面をどんどん掘っていったら、地球の反対側に出られるの? そう聞かれたら詳細はともあれ、多くの人が「出られない」と言うでしょう。地球の中がとても熱いことを知っているからです。ところが、地球の熱がどこから来るのかについては、意外なほど知られていませんでした。地球の中を調べる“道具”が限られているためです。 2005年7月28日、素粒子実験のグループ・カムランド(KamLAND)は、地球科学の新たなメスを発見したと科学誌Natureに報告しました。地球の熱源から到来した“地球ニュートリノ”を観測したのです。地球科学を専攻するスタンフォード大学ノーマン・スリープ教授が「進化(evolution)ではなく革命(revolution)!」と称える成果です。 カムランドは、反電子ニュートリノという素粒子を観測する装置です。2002年には原子炉から放射されるニュートリノを観測することで、別の大きな成果を出していました。実験代表の鈴木厚人東北大学教授と榎本三四郎・東北大学助手にお話を伺いました。 ガモフが手紙で指摘していた 地球は膨大な熱を放出しています。この熱量は、31もしくは44テラワットといわれています。電気ストーブにすると数百億台ほどですね。 地球が放出する熱はどこからくるのでしょうか。地球の歴史は、熱い塊だった地球が冷える歴史だと言われます。熱のうち約半分は、中心部の“コア”が冷めるときに出ます。残りの半分は、地殻やマントルに含まれる放射性物質、ウランやトリウムが崩壊するときの熱だと考えられています。しかしウランやトリウムの分布は、地球規模で観測されたことはありませんでした。 放射性元素は一定の割合で崩壊し、他の元素になります。ウランやトリウムなどは、崩壊するときに、反電子ニュートリノという素粒子を放射します。これを“地球ニュートリノ”と呼びます。 「最初に地球ニュートリノの存在を指摘したのは、ジョージ・ガモフなのですよ」 鈴木教授は1960年代に、理論物理学者のガモフが実験物理学者のフレデリック・ライネスに宛てて書いた手紙を示してこう説明します。40年以上前に指摘されていたのに今まで検出されなかったのはどうして?と思うかもしれません。地球ニュートリノの検出はそれだけ難しいのです。 地球ニュートリノが大事なのはどうして? 地球は主に鉄からできている“コア”と、そのまわりを囲む岩石質の“マントル”からできています。私たちが地面、もしくは海底と呼んでいる地殻は、陸地で20から50km、海で約6kmの深さ。この地殻に、地球にあるウラン、トリウムの約半分が濃縮していると考えられています。残りの半分はマントルに含まれていて、一般にはコアには含まれないと言われています(図2)。 「ウランやトリウムはイオン状態の半径が大きいから、地球の深くにある高密度の物質、つまりコアには含まれにくいのです」 榎本助手はこう説明します。 地球科学の研究者は、地震波と隕石の分析から、地球の密度や化学組成を調べてきました。しかしどちらの方法でも、熱源になるウランとトリウムが、どこにどれくらいあるか、はっきりしません。地球の半径は6400kmですが、地球深部のサンプルを採取するボーリングの到達深度は、最大で12km。地上噴出岩石でも最大の生成深度は200km程度です。地球の大きさを比較してわずかな深さ、しかも特定の場所に限られているのです。 そこで地球ニュートリノの出番!ニュートリノは貫通力が強いので、たとえ地球の裏側で発生したニュートリノでも、カムランドに到達して相互作用すれば観測することができます。地球の内部奥深くまで、見ることができる“メス”になるのです。 地球の奥深くからカムランドへ カムランド実験は、1000トンの発光物質(液体シンチレーター)を詰めたまるい風船を、油の中に浮かべた装置です(図4)。反電子ニュートリノがこの中を通り、物質と相互作用すると、信号を得ることができます(図5)。この粒子は貫通力が強く、なかなか物質と相互作用しません。そのため、装置を通過する数は多くても、観測される数は少ないのです。 「カムランドで検出される地球ニュートリノのうち約4分の一は半径50km以内から、全体の2分の1が半径500km以内で発生したものです。それぞれカムランドがある神岡から富山までの距離と、日本本島が収まる程度の大きさに相当します」 つまり神岡周辺、そして日本の情報が大切だと榎本助手は説明します。 神岡鉱山については、3次元地図に基づいて岩石を採取して成分を分析し、ウランやトリウムの凝集がないことを確かめました。また、近くに未発見のウラン鉱床があった場合や、日本の沈む込みプレートの影響、日本海の地質など、あらゆる不定性を見積もりました。“日本海に未確認の原子力船が停泊していた場合”も見積もったというから、すごいですね。 こうして、地球ニュートリノの3次元マップがつくられ、カムランドに到達する地球ニュートリノの量が調べられたのです(図1)。 地球ニュートリノのモデル化と共に、カムランドグループが非常に神経を使ったのが擬似信号(バックグランド)の見積もりです。地球ニュートリノが期待されるエネルギー領域には、原子炉ニュートリノのほかにも、放射性不純物からの信号がきます。 「この見積もりを徹底的にしました」 榎本助手はこう述べます。こうして、749日分のデータを解析した結果、地球ニュートリノが期待される低エネルギー領域(3.4MeV以下)に、152個の信号を得たのです。 地球ニュートリノからわかること この中には、原子炉ニュートリノの信号と、地球ニュートリノの信号が混ざっています。しかし、原子炉ニュートリノがどれくらい来ているはずかはよくわかっていて、その数を見積もると、80個になりました。その他のバックグランドも詳しく調べられ、地球ニュートリノ以外の信号は127個あると見積もられました。つまり数だけで考えると、152個−127個=25個の地球ニュートリノが得られたことになります(図7)。 カムランドでは数だけではなくエネルギー分布もわかります。数とエネルギー分布の両方を考えると、地球ニュートリノの数の見積もりは28個となります。この値は数だけで見積もった25個とよくあっていて矛盾がありません。そして、この結果は、地球モデルから予測される数とも一致します。つまり、データに含まれるバックグラウンドの見積もりが、きちんとしていて、かつ、地球の基本モデルと矛盾ないことを示しています。 これらのデータから、カムランドが“地球ニュートリノを捉えた”確率は95.3%になりました。とても高くて確実のようですが、まだ数を貯めて確実性を高める必要があります。 カムランドではニュートリノの数はわかりますが、飛んでくる方向はわかりません。 「次は原子炉ニュートリノの影響のない、ハワイかフィジーに検出器をつくって、地球の中を3次元的に見てみたいですね」 鈴木教授はこう述べています。素粒子物理学から地球科学にまたがる地球ニュートリノの研究は、今、始まったところなのです。 (サイエンスライター 横山広美)
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