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last update:04/06/17  

   image ニュートリノに質量    2004.6.17
 
        〜 K2K実験が振動の存在を確立 〜
 
 
  リンゴをたくさん投げると、そのうちの何個かが空中でみかんになったりイチゴになったりする?!まるで手品のような不思議な現象が素粒子の世界では現実に起きています。1998年に東京大学宇宙線研究所のスーパーカミオカンデ検出器を用いた宇宙線の観測からニュートリノが別の種類のニュートリノに変わってしまうニュートリノ振動と呼ばれる現象が初めて発見されました。

KEKと宇宙線研究所ではこのニュートリノ振動を検証するために、KEKで作られた人工ニュートリノを250km離れたスーパーカミオカンデ(岐阜県飛騨市神岡町)に打ち込んで観測をする K2K実験(KEK to Kamioka)を行っています(図1)。

今日は、K2K実験によってニュートリノ振動が起きていることが確認されたという最新の話題をご紹介しましょう。

スーパーカミオカンデの発見

ニュートリノは、どんなに厚い物質もするりと通り抜けてしまう不思議な粒子です。電子や陽子など他の粒子の場合は、物質中を通る間に反応して止まったり、別の粒子に変わってしまいます。ところが、例えばKEKで作られたニュートリノの場合、水の中を1億キロメートル走っても、物質と反応する確率はわずか1回程度です。1億キロメートルといえば、地球から太陽までの距離ぐらいです。とても観測することが難しい粒子なのです。

ニュートリノは長い間、質量を持たないと考えられてきました。非常に精密な測定をしても、質量を持つという実験データが得られなかったのです。ところが、スーパーカミオカンデ(図2)が1998年に発見したニュートリノ振動現象によって、ニュートリノにもごくわずかですが質量があることがわかったのです。

ニュートリノには、電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノの3種類があることがわかっています。スーパーカミオカンデでは、宇宙線により大気中で作られたニュートリノ(大気ニュートリノ)を観測していました。大気ニュートリノには、主に電子ニュートリノとミューニュートリノの2種類があるのですが、遠方からやってくるミューニュートリノの数が予想よりも少なくなっていることを発見したのです。

この現象はミューニュートリノが長い距離を飛行中にタウニュートリノに変化したと考えるとうまく説明することができます。タウニュートリノが物質と反応するには、質量の重いタウ粒子が関与する必要があり、スーパーカミオカンデでは観測することができません。このため、ミューニュートリノの数が減っているようにみえるというわけです。このようにある種のニュートリノが別の種類のニュートリノに変化する現象はニュートリノ振動と呼ばれています。ニュートリノが質量をもち、世代間の混合がある場合に限り起こる現象です。

人工ニュートリノで実験

ミューニュートリノが、実は2種類のわずかに異なる質量をもったニュートリノが混じって出来ていると考えてみましょう。そして、タウニュートリノも、この2種類のニュートリノが混じって出来ていると考えます。異なる質量を持ったニュートリノは、異なる速さで走り、長い距離を走る間に、少しずつずれていきます。すると、混じり具合が段々変わっていき、始めはミューニュートリノだったものがタウニュートリノに変わってしまうと考えられます(図3)。この変わり方は、走った距離やニュートリノのエネルギーによって違います(図4)。

K2K実験についてはこれまでにも何回かご紹介しました。加速器で人工的に作ったニュートリノのビームを数百キロメートル先の検出器で検出してニュートリノ振動を調べる実験を「長基線ニュートリノ振動実験」といいます。アメリカやヨーロッパでも長基線ニュートリノ振動実験が計画されていますが、K2K実験は、世界で初めて、また現在稼働している唯一の実験です。

大気ニュートリノの観測では、ニュートリノが宇宙線によって何個作られたかを詳しく調べることができません。ニュートリノの数が減っているかどうかを詳しく調べるには、加速器でミューニュートリノを人工的に作りだしてやる手法が確実です。人工的に発生させたニュートリノビームは、自然の大気ニュートリノより素性がはっきりしているうえ、発生直後にその性質を調べることができるので実験結果への不定性が少なくすみます。

KEKでは約1兆個のニュートリノを2.2秒に1回、100万分の1秒のパルスとして神岡に向け発射します。1兆個といってもそのうちスーパーカミオカンデを通るのは約100万個で、さらにそのほとんどは、スーパーカミオカンデをすり抜けてしまい、反応を起こして観測されるのは、2日に1個程度しかありません。

ニュートリノ振動の確率は99.99%

1999年6月に実験を開始して以来、今年の2月までに得られた全データを解析した結果、スーパーカミオカンデにおいて108個のニュートリノが観測されました。ニュートリノ振動が起きていない場合の予測値は約151個です。さらに、ニュートリノのエネルギーを測定してその分布を作ったところ、KEKで作られた時とは、異なる分布をしていることがわかりました(図5)。

151個観測されるはずのニュートリノが、108個しか観測されず、かつ、エネルギーの分布が変わってしまう、という結果がニュートリノ振動が無い場合に得られる確率は約0.01%です。つまり13回続けてジャンケンに負けるくらいあり得ないことです。言い換えれば、ニュートリノ振動が起こっている証拠を99.99%の確度で突き止めたことになります。

この結果から、νとνという2種類の異なる質量のニュートリノの混ざり具合を示す混合度と、質量の2乗の差を測定することができました。その値はスーパーカミオカンデにおいて大気ニュートリノの測定で得られたものとよく一致しています(図6)。大気ニュートリノ観測で発見されたニュートリノ振動を、人工のニュートリノでも確認し、ニュートリノに質量があることを確証したのです。

この成果はパリで開かれたニュートリノ2004国際会議で6月15日に発表されました。世界をリードする日本のニュートリノ研究の今後にご期待下さい。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→K2Kつくば−神岡間長基線ニュートリノ振動実験のwebページ
  http://neutrino.kek.jp/index-j.html
→神岡宇宙素粒子研究施設のwebページ
  http://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/index_j.html
→キッズサイエンティスト:クローズアップKEKのwebページ
  http://www.kek.jp/kids/closeup/k2k/index.html

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[図1]
KEKの陽子加速器により人工的に作られたミューニュートリノビームを、250km離れたスーパーカミオカンデで検出する。
拡大図(31KB)
 
 
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[図2]image東京大学宇宙線研究所
岐阜県飛騨市神岡町にある東京大学宇宙線研究所のスーパーカミオカンデ検出器。
拡大図(52KB)
 
 
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[図3]
ニュートリノには決まった物質としか相互作用しない状態である電子型(ν)、ミュー型(νμ)、タウ型(ντ)の三種類がある。質量がわずかに異なる別の三種類の質量の状態ν1、ν2、ν3があると、理論上は電子型、ミュー型、タウ型との世代間で混合が起き、これがニュートリノ振動を引き起こすと考えられる。
拡大図(86KB)
 
 
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[図4]
質量がわずかに異なる三種類のニュートリノν1、ν2、ν3は、それぞれ異なる速度で飛行する。これを飛行経路のある場所で観測すると、もともと作られたミュー型とは異なるタイプのニュートリノにある確率で変わってしまう。この現象がニュートリノ振動となる。振動が起きる割合はν1、ν2、ν3の質量の二乗の差と飛行距離に比例し、ニュートリノが持つエネルギーに反比例する。K2K実験ではこのうちνとνの2種類が関与してタウニュートリノに変化する現象を観測している。
拡大図(29KB)
 
 
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[図5]
スーパーカミオカンデで測定されたミューニュートリノのエネルギー分布。白丸が実際の測定値。青線と赤線ははニュートリノ振動がそれぞれある場合と無い場合の予測値。
拡大図(23KB)
 
 
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[図6]
K2K実験グループの今回の解析によって得られた、ニュートリノの質量の2乗差とニュートリノの混合度(緑線)。スーパーカミオカンデの大気ニュートリノ観測によって得られた結果(黒線)と矛盾しない結果が得られた。
拡大図(15KB)
 
 
 
 

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