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   image ニュートリノをつかまえろ!    2003.10.16
 
〜 新型検出器SciBar 〜
 
KEKの陽子加速器を使ってニュートリノビームを作り出し、250km離れた岐阜県神岡鉱山のスーパーカミオカンデ検出器に打ち込んで、ニュートリノの振動現象を調べるK2K実験についてはこれまでにも何度かご紹介しました。陽子加速器とK2K実験は夏の間、メンテナンス作業のために停止していましたが、10月7日から実験を再開しました。今回は、K2K実験に加わった超高感度ニュートリノ測定装置についてご説明しましょう(図1)。

ニュートリノを観測する

ニュートリノは地球も簡単に突き抜けてしまう粒子です。物質とほとんど反応しないので幽霊粒子と呼ばれたりします。ニュートリノはめったに物質と衝突(反応)しないのでたくさんのニュートリノを発生させて、高感度で大型の測定器を使って検出することが必要です。KEKの加速器とニュートリノ発生装置は毎秒1兆個以上のニュートリノを発生させることができます。

ニュートリノ自身は直接検出器では見ることができません。そこで、実際の観測では、ニュートリノがわずかな確率で物質と衝突した時に発生するミュー粒子や陽子、パイ中間子などの二次粒子を詳しく観測することによって、もとのニュートリノの種類やエネルギーを調べます(図2)。また、ニュートリノが物質と反応した時の様子を詳しく調べることも重要な研究テーマの一つです。

新型ニュートリノ検出器

ガスを使って粒子を検出する測定器の原理については先週お伝えしましたが、粒子が物質を通過した時に発生する光を使っていろいろな測定を行う検出器もあります。その一つがシンチレーターという物質です。電気を帯びた粒子が特殊なプラスチックなどを通過すると、その中に含まれる電子が一時的にエネルギーの高い状態になり、元に戻る時に光を発生します。この光を観測することで、通過した粒子の場所やエネルギーを測定することができます。

今回製作された測定装置は縦横3m、奥行きが1.8mで、総重量15トンです。神岡にあるスーパーカミオカンデの5万トンに比べると小さいですが、ニュートリノ発生源に近いので1日あたり数百個のニュートリノを観測することができます。

この新型ニュートリノ検出器にシンチレーターが使われていますが、その形はこれまでに例が無いユニークなものです。

図2のように、ニュートリノが中性子と衝突して、陽子とミュー粒子が発生する場合を考えてみましょう。この時、もとのニュートリノのエネルギーを精密に測定するためには、衝突で生成された陽子とミュー粒子がどの角度に飛んでいって、どれだけのエネルギーを持っているかを精密に測定することが必要です。

シンチレーターの棒で粒子をとらえる

これまでの測定器では陽子の飛んだ方向を精密に測定することが難しかったのですが、プラスチックのシンチレーターを細長い棒状に加工して、発生した光を光ファイバーで集める、という手法で、陽子の飛跡を観測することができるようになりました。棒状のシンチレーターの断面の大きさは2.5cm×1.3cmで、長さは3mです。断面が小さいので、陽子が飛んだ方向をいくつかのシンチレーター棒で確認することができます。

このシンチレーター棒を縦方向と横方向に全部で1万5千本を並べます(図3)。シンチレーター(Scintillator)棒(Bar)を使っているため、SciBar(サイバー)検出器と名付けられました。

各シンチレーターからの光は、シンチレーター中央にある穴に挿入されている光ファイバーを使って光検出器に集められます。一個の光検出器は、64本のファイバーからの光をそれぞれ電気信号に変換することができます。1万5千本の透明のシンチレーターから緑色のファイバーが出ている様子はまるでモダンアートのようです(図4,5)。

SciBar検出器の特徴

SciBar検出器の特徴は、検出器全体を高感度シンチレーターだけで製作したことです。途中に不感部分が無いので、ニュートリノ反応でできた全ての粒子を逃さずに観測することができます。シンチレーター棒が縦方向と横方向に交互に重ねられていて、粒子の軌跡を三次元的に読み取ることができます。

また各シンチレーター毎にエネルギーが測定でき、粒子の種類を識別することも可能です。図6にSciBar検出器でのニュートリノ事象を示しますが、赤丸の大きさの違いがあることがわかりますか? 赤丸は通過した粒子がシンチレータに落としたエネルギーを示していて、大きなエネルギーを落とす陽子の方が大きな赤丸となっています。

SciBar検出器では、ニュートリノ反応からの全ての二次粒子を感度良く測定できるので、様々な種類のニュートリノ反応を詳細に研究することが可能です。

K2K実験は加速器からのニュートリノを数百km離れた場所で観測する世界初の実験です。2001年には、加速器実験としては初めてニュートリノ振動を示唆する証拠を観測し、発表しました。今回、新型検出器SciBarも加わって実験が再開されたことで、より高精度のニュートリノ反応の研究を進めていくことができます。ご期待下さい。

 
※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→K2K つくば−神岡間 長基線ニュートリノ振動実験
    公式ホームページ
  http://neutrino.kek.jp/index-j.html
→キッズサイエンティスト:クローズアップKEK:K2K実験
  http://www.kek.jp/kids/closeup/k2k/index.html

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[図1]
K2K-II実験の前置検出器に設置されたSciBar検出器とミュー粒子検出器の断面図。左側から入ってきたニュートリノが青い枠で示されたSciBar検出器の中で反応を起こし、ミュー粒子と陽子が生成されています。図中の赤い点は検出器で記録された粒子の飛跡を示しています。ミュー粒子はSciBar検出器を飛び出して、右側のミュー粒子検出器に飛び込んでいます。
拡大図(80KB)
 
 
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[図2]
図1でニュートリノが物質中の中性子と衝突して、ミュー粒子と陽子が発生した反応の模式図。このうちのミュー粒子と陽子が観測されます。
拡大図(9KB)
 
 
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[図3]
SciBar検出器の模式図。シンチレータ棒、光ファイバー、光検出器から構成されています。
拡大図(39KB)
 
 
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[図4]
SciBar検出器の信号読み出し部分。奥にならんでいる4角形の箱に見えるのがシンチレーター棒の端。緑色のひも状の光ファイバーで光を集めて光検出器に送り、電気信号に変換します。
拡大図(46KB)
 
 
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[図5]
SciBar検出器全体を横から眺めた写真。図4で示した電子回路は全部で224個(上面112個、側面112個)使われています。
拡大図(37KB)
 
 
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[図6]
ニュートリノ反応事象の拡大図。赤丸の小さい飛跡がミュー粒子によるもので、赤丸の大きいものが陽子による飛跡です。赤丸の大きさはその場所で記録されたエネルギーに対応しており、粒子の識別に用いられます。
拡大図(33KB)
 
 
 
 
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