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「微かな」ニュートリノ振動 2005.4.14 |
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〜 原子力発電所のニュートリノを捉えるKASKA 〜 |
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東京大学宇宙線研究所のスーパーカミオカンデのグループが1998年に「大気ニュートリノ振動」の現象を発見して以来、日本のニュートリノ研究は世界の最先端を走っています。ニュートリノには「電子型」「ミュー型」「タウ型」の三種類があって、それぞれの間で振動が起きていると考えられていますが、このうち「電子型」と「タウ型」の間の振動についてはまだ詳しく調べられていません。 新潟県柏崎市と刈羽村にまたがる世界最大の原子力発電所(図1)で発生するニュートリノを使って、この「最後のニュートリノ振動」を調べようとしている実験についてご紹介しましょう。 三種類のニュートリノ振動 ニュートリノと呼ばれる素粒子は、物質とほとんど相互作用することがなく、重さも非常に軽く、謎の多い素粒子です。しかしニュートリノは、素粒子の中でも最も基本的な粒子のひとつであり、宇宙の歴史や発展にも深く関わっていて、その性質を研究するということは、我々自身や宇宙のことを理解することにつながる非常に重要なことです。 ニュートリノには電子型ニュートリノ(νe)、ミュー型ニュートリノ(νμ)、タウ型ニュートリノ(ντ)の3種類があります。ニュートリノに質量があると、ある種類のニュートリノがいつのまにか別の種類のニュートリノに変化してしまうという「ニュートリノ振動」については以前ご紹介しました。ニュートリノ振動が起きるニュートリノの種類の組み合わせも、「電子型⇔ミュー型」、「ミュー型⇔タウ型」、「電子型⇔タウ型」の3種類があります。 それぞれの振動の大きさは「混合角」という角度で表されます。このうち、ミュー型⇔タウ型、電子型⇔ミュー型の混合角はスーパカミオカンデ実験や、K2K実験、カムランド実験、様々な太陽ニュートリノ観測などですでに測定されています。しかし3つめの振動である電子型⇔タウ型の混合角は、その大きさが小さいことが分かっているだけで、値はまだ測定されていません。 この三種類の混合角が測定できると何がわかるのでしょうか。陽子や中性子などを構成するクォークの場合は「カビボ・小林・益川行列」という混合角があることがすでにわかっています。クォークと対をなすレプトンの一種であるニュートリノの場合にも似たような混合角がある、ということがわかったのは現代物理学の画期的な成果の一つです。 最後のニュートリノ振動は「短距離型」? 電子型⇔タウ型の混合角を測定することは素粒子の統一理論の構築に重要な影響を与えると考えられています。 図2は原子炉から発生する反電子型ニュートリノが他の種類のニュートリノに振動する様子です。原子炉からのニュートリノ振動には、50km以上で顕著になる振動(電子型⇔ミュー型)と数km以上で顕著になる振動(電子型⇔タウ型)の2種類があります。50km以上の振動は東北大学などが行っているカムランド実験によって検出されましたが、電子型⇔タウ型によって引き起こされると考えられる数kmの小さな振動は、まだ検出されていません。この図では電子型⇔タウ型の混合角を約9度と仮定しています。 原子炉から平均0.4kmと1.8kmの距離にニュートリノ検出器を置き、反電子ニュートリノの数がこの間を飛行するうちにどれだけ減るかを調べることで、この振動の強さを精度良く測定しようとしているのがKASKA実験です。 KASKA実験とは KASKA実験では、新潟県にある柏崎刈羽原子力発電所から発生する膨大な数のニュートリノを利用します。この発電所には、強力な原子炉が7基あり、合わせて820万キロワットの電気を発生しています。これは世界で最大の発電量です。原子炉の中では、ウランなどが核分裂反応をしており、その過程で反電子ニュートリノ(電子ニュートリノの反粒子)が生成されます。発生するニュートリノの量は原子炉のパワーにほぼ比例するため、柏崎刈羽原子力発電所は、世界で最強のニュートリノ発生装置といえます。 KASKAの名前は、このKAShiwazaki-KAriwa原子力発電所にちなんで名づけられました。「かすか」は又、「幽」或は「微」とも書くことができ、我々の世界には微かな痕跡しか残さない幽霊のようなニュートリノの性質も意味しています。KASKAグループは新潟大学、東北大学、都立大学、東京工業大学、神戸大学、KEK、岡山大学、宮城教育大学、広島工業大学などに所属する30人程度からなる比較的小規模のグループです。図3はKASKAグループのメンバー(一部)の写真です。 図4はKASKA実験のニュートリノ検出器の模式図です。ニュートリノ検出の中心になるのは、中央の球形のアクリルタンクの中に入った約10トンの液体シンチレーターです。反電子型ニュートリノがこの液体シンチレータ中で反応すると特殊なパターンで光を出します。この光をステンレスタンクの内側に並べた光電子増倍管と呼ばれる光センサーで検出します。この検出器は、空から降ってくる宇宙線と呼ばれる放射線から守るために地下深くのドームの内部に建設されます。 KASKAグループは、実際に原子力発電所の敷地内の検出器設置予定地でボーリング調査を行ったり、検出器のプロトタイプ(図5)をつくったり、その他の各部分の開発を行ったりして実験準備を進めています。KASKA実験はまだ計画の段階ですが、2008年度末には測定を開始したいと考えています。 KASKA実験では、従来の10倍の精度で最後のニュートリノ振動を測定することができます。最後のニュートリノ振動がKASKA実験で観測されれば、3種類すべてのニュートリノ振動が日本の実験によって発見されたということになります。そうなれば日本のニュートリノ研究に対する国際的評価もさらに高まると期待されます。 少し専門的になりますが、もしKASKA実験で、最後のニュートリノ振動が測定できれば、KEKでB中間子を使って測定されているのとは違った全く新しい種類のCP非対称性を、ニュートリノを使って測定できる可能性も高いことが示されることになります。又、東海村に建設中のJ-PARC加速器から、スーパーカミオカンデにニュートリノを打ち込んで行われようとしている長基線ニュートリノ振動実験(T2K)のデータと組み合わせることにより、それぞれ単独の測定では分からない様々な性質を明らかにすることができます。その意味でもKASKA実験は、J-PARCからのニュートリノ実験のデータを最大限に有効利用するためのパートナーでもあると考えられています。 図6はKASKA実験のロゴマークを紹介します。ニュートリノ振動(νe⇒ντ)をKASKAで検出して、θ13という最後のニュートリノ振動パラメータを測定し、CP非保存パラメータδの測定に道を拓く」という願いを込めています。(δの文字は、左右反転しています。)
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