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陽子の加速と閉じ込めを独立に 2006.6.22 |
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〜 実証された誘導加速シンクロトロン 〜 |
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より大強度の陽子加速器を実現するためにKEKで研究開発が進められている誘導加速シンクロトロンについてはこれまでにも何度かご紹介してきました。加速される粒子の閉じ込めと加速の機能を分離することに成功した実証試験の様子をお伝えしましょう。 バンチ長を伸ばして陽子を詰め込む 以前ご紹介したように、従来のシンクロトロン加速器では陽子などを加速する際に、加速と閉じ込めの機能を1つの高周波で同時に行います。陽子は正の電荷を持っていますので、限られた場所にたくさんの陽子を集めようとすると、正の電荷同士で反発しあって、バンチ(陽子の塊)が不安定になります。 バンチの横方向の大きさは、バンチ自身が作る空間電荷力で決まります。一方、長さ方向は加速空洞で与えられる高周波の閉じ込めで決まります。この閉じ込めの電磁場を自由に制御することができれば、長いビームを自由に加速することができる、として考案されたのが誘導加速シンクロトロンです(図1、2)。 特異点を回避 以前の記事でご紹介したように、KEKの高山健教授を中心とするグループは陽子加速器(PS)に誘導加速装置を導入(図3)し、2004年10月、誘導加速による世界初の陽子加速に成功しました(図4)。この時、陽子ビームの閉じ込めには従来型の高周波加速装置を用いていましたので、ハイブリッド・シンクロトロンと呼ばれます。同じ装置にステップバリア電圧をかけて陽子ビームを閉じ込めた時の様子が図5です。 この時の試験では、誘導加速の持ついろいろな新しい概念を実証することができました。一例を挙げると、従来型の陽子シンクロトロンでは、陽子のエネルギーを上げていくと、途中でバンチの長さが極端に短くなって不安定になる「遷移エネルギー」という特異な領域が存在します。これは加速用の電場の強さが時間とともに変わる従来型の高周波加速空洞に固有の特性なのですが、誘導加速の場合は加速用の電場の強さを調整することで、この領域を安定に通過できることが実証されました。 閉じ込めと加速の同時運転へ 2006年の始め、PS加速器に誘導加速装置を追加して、さらに試験を続けた結果、グループは閉じ込めと加速の両方で誘導加速を保って60億電子ボルト(6GeV)まで陽子を加速することに成功しました。誘導加速シンクロトロンとしては初めて、実用的な陽子加速の実証に成功したのです。 この実証には、閉じ込めと加速のパルスを正しいタイミングで発生させるための同期システムと、ビームの中心を真空パイプの中心に一致させるためのフィードバック法が開発されました。 誘導電圧の発生は誘導加速セルを駆動するスイッチング電源の半導体スイッチング素子へゲート信号を「送る」か「送らない」かの選択で制御されます。中心Bのモニター信号(真空容器の中心からのずれに比例した電圧信号)の大きさが一定の閾値を超えると(陽子バンチのエネルギーがその時点の磁場の値が示唆する理想的なエネルギーより大きい事を意味する)、上記ゲート信号をブロックするので加速電圧は発生しません。その結果、理想的なエネルギーに近付きます。これがフィードバックとして機能するわけです。 全種イオン加速器で特許申請 誘導加速シンクロトロンは既存のシンクロトロンの高周波加速装置をスイッチング電源で駆動する誘導加速セルに置き換えるだけですので、改造は比較的容易です。粒子バンチの到来信号を基にスイッチング電源のゲート信号を作れば、陽子から極端に重たいウランまでのどんなイオンでも、1台の誘導加速シンクロトロンで加速することが出来ます。 イオン源を高圧ターミナルに収容して、直接この全種イオン加速器に入射する方式が可能です。高山氏のグループは誘導加速シンクロトロンの概念をベースにした全種イオン加速器の特許を申請しています(図7)。 例えばKEKの500MeVブースターと12GeV主リングを改造した場合、完全電離ウランを500MeVブースターで80MeV/核子、12GeV主リングで4GeV/核子のエネルギーが得られると試算されています。近い将来、次世代のナノ材料創成のイオンドライバーとして魅力的な存在になるかもしれないですね。
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