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last update:07/02/15  

   image 宇宙線起源の謎に迫る    2007.2.15
 
        〜 ミュオンで見る宇宙 〜
 
 
  地球は、太古の昔から宇宙線という目に見えない高エネルギーの粒子にさらされています。地上で観測される宇宙線の大部分はミュオン(ミュー粒子)と呼ばれる素粒子の一種ですが、これらは宇宙空間を高速で飛び交っている陽子や原子核が、地球の大気の上層で空気の分子と反応して生まれたものです。

では、宇宙空間を飛び交っている陽子や原子核は、どこからやってくるのでしょうか。その起源は長い間、謎に包まれていました。ハワイ大学のEugene Guillian氏やKEK素粒子原子核研究所研究機関講師の大山雄一(筆者)らが、東京大学宇宙線研究所のスーパーカミオカンデのデータを使って、非常に高いエネルギーのミュオンから宇宙線の起源の謎に迫った研究についてご紹介しましょう。

1000メートルの岩盤を貫くミュオン

スーパーカミオカンデの研究の一番のテーマはニュートリノです。この研究では宇宙線に含まれるミュオンが邪魔になるため、スーパーカミオカンデは岐阜県の神岡鉱山の地下1000mで観測を行っています。厚い岩盤が宇宙線のミュオンを遮蔽してくれるのです。地下1000mでのミュオンの数は地表の 30万分の1ほどになりますが、それでも、非常に高いエネルギーのミュオンが厚い岩盤を通りぬけて、毎秒1.8個程度の頻度で到達しています。

ミュオンは、地球に降り注ぐ高エネルギー宇宙線(陽子を主成分とする原子核)が大気中で空気中の原子の原子核と衝突して作りだされます(図1)。いつもは邪魔者扱いされているミュオンを使って、天球上のどちらの方向からたくさん来たかを調べると、加速器でもまだ到達できていない高いエネルギーの宇宙線の天文学の研究ができます。

ミュオン分布の超過と欠損

単に地平座標でどちらの方向からミュオンがたくさん来たかを調べても、それでは到来するミュオンの数がスーパーカミオカンデのまわりの岩盤の厚さに大きく左右されるだけで、とても天文学にはなりません。そこで地球の自転を利用します。地球の自転に伴い地平座標での一定方向は天球の上を時間とともに動き、地球がちょうど1回転すると元の位置に戻ります。地平座標で一定方向から飛来するミュオンの数の時間変化は、天球座標における宇宙線の空間分布と解釈できるのです。

図2はスーパーカミオカンデを使って1996年から2001年までの5年間に観測された約2億1千万のミュオンがどちらの方向からたくさん来たかを天球上に示したものです。平均よりも宇宙線がたくさん来た方向を赤で、平均よりも少ない方向を青で示してあります。これは、世界で初めてのミュオンから得られた宇宙線到来数の2次元天球分布です。各天球方向の結果を基に宇宙線が多い領域を赤線で、少ない領域を青線で囲みました。それぞれの方向の星座にちなんで、赤い領域を牡牛座方向の超過(Taurus excess)青い領域を乙女座方向の欠損(Virgo deficit)と名づけました。それぞれ約0.1%程度の超過及び欠損です。

磁場で曲がる宇宙線

この2次元天球分布の超過や欠損はそのまま、宇宙線の起源の天体を指し示しているのでしょうか?実は、宇宙線の粒子は電気を帯びているので、銀河系内の磁場で進行方向がらせん状に曲げられます(図3)。しかし、スーパーカミオカンデで観測された宇宙線は極めて高いエネルギーの粒子なので、太陽系の半径くらいの距離ではほとんどまっすぐに進みます。また、いろいろな方向から降ってくる宇宙線が銀河磁場で曲げられた場合、全体の流れの方向は保存されます。図2の牡牛座方向の超過や乙女座方向の欠損は、いわばその流れの痕跡を見ていることになります。

それでは牡牛座方向の超過や乙女座方向の欠損は我々の銀河の中でどちらの方向を向いているのでしょう。我々の銀河は図4に示す通り渦巻き銀河です。太陽系は銀河の中心から約3万光年程離れたオリオン・アームの内側に位置し、銀河円盤からは60光年程の距離にあります。牡牛座方向の超過の方向はちょうどオリオン・アームの中心を向いています。乙女座方向の欠損の方向は銀河円盤に垂直で円盤とは反対の方向です。つまり平均より多い宇宙線が来ている方向は、太陽系近傍の星の密度が高い場所、平均より少い宇宙線が来ているのは密度の低い場所であることがわかります。

「超新星残骸仮説」に合致

高エネルギーの宇宙線が、宇宙のどこでどのようにして高いエネルギーにまで加速されているのかは、まだよくわかっていません。いまのところ、「主に銀河系内の超新星爆発の残骸によって加速されたのではないか」、という説が有力です。スーパーカミオカンデのミュオンのデータを調べた結果を見ると、宇宙線は全体としてオリオン・アームの中から湧き出しているように見えます。

太陽系から一番近くて新しい超新星爆発の残骸は、カニ星雲です(図5)。この超新星爆発は1054年に起こったもので、藤原定家の「明月記」にもその記述があります。地球からの距離は約6千光年、銀河中心までの距離の約5分の1です。しかもカニ星雲は牡牛座の天体で、牡牛座方向の超過の中にあります。牡牛座方向の超過はカニ星雲によって説明できるのでしょうか?

カニ星雲の中心にあるカニパルサーが粒子加速のエネルギー供給源と考えられますが、ここから供給されるエネルギーのすべてを宇宙線の加速に使うとしても、データを説明することができません。地球に達する宇宙線数は牡牛座方向の超過を説明するにはカニ星雲1つでは少なすぎます。地球で観測される宇宙線の起源は、銀河系の中で長い間に起こった、たくさんの超新星爆発の残骸によるものである、というのが最も自然な説明のようです。

1987年にカミオカンデは初めてニュートリノによる天文学に成功しました。ノーベル賞に輝いた超新星爆発からのニュートリノの観測です。2006年にスーパーカミオカンデは初めて中性粒子以外の天文学に成功した.....と言ったらちょっと言い過ぎでしょうか?

(KEK素粒子原子核研究所研究機関講師  大山雄一)



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→スーパーカミオカンデのホームページ(宇宙線研究所)
  http://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/sk/index.html
→つくば・神岡間長基線ニュートリノ振動実験(K2K)の紹介ページ
  http://neutrino.kek.jp/index-j.html

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[図1]
地表で1兆電子ボルト以上の高エネルギーミュー粒子は1000mの岩盤を突き抜けてスーパーカミオカンデに達する。これらのミュー粒子は10兆電子ボルト以上の高エネルギー宇宙線陽子が大気と衝突してできたもので、ミュー粒子の方向は宇宙線陽子の方向と一致する。
拡大図(20KB)
 
 
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[図2]
スーパーカミオカンデで観測された宇宙線ミュー粒子の天球分布。他の天球の方向よりもミュー粒子がたくさん来た方向を赤で、他の方向よりも少ない方向を青で示した。赤線で囲った宇宙線陽子が多い領域を牡牛座方向の超過(Taurus excess)、青線で囲った少ない領域を乙女座方向の欠損(Virgo deficit)と名づけた。それぞれ平均から約0.1%程度の余剰及び欠損である。
拡大図(65KB)
 
 
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[図3]
宇宙線陽子の銀河磁場中での動き。銀河磁場の方向を青い太線で、陽子の動きを黒い実線で示した。均一な磁場の中の宇宙線陽子はらせん運動する。磁場と垂直な方向性は失われても、磁場と平行な方向性は長距離にわたって失われない。
拡大図(19KB)
 
 
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[図4]
我々の銀河と地球の位置、及び牡牛座方向の超過(Taurus excess)、乙女座方向の欠損(Virgo deficit)の関係。我々の銀河(天の川銀河)は渦巻き銀河である。太陽系は銀河中心から3万光年程離れたオリオン・アームの内側に位置し、銀河円盤からは60光年程度の距離にある。牡牛座方向の超過の方向はちょうどオリオン・アームの中心を向いてる。乙女座方向の欠損の方向は銀河円盤に垂直で円盤と反対の方向である。
拡大図(86KB)
 
 
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[図5]image国立天文台
藤原定家の明月記にも記されている1054年の超新星爆発の跡は、カニ星雲として知られている。
拡大図(56KB)
 
 
 
 
 

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