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眠りについた女神 2007.7.19 |
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〜 HERA加速器運転終了 〜 |
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ドイツ・ハンブルグにあるDESY研究所のHERA(ヘラ)加速器が6月30日午後23時半(ヨーロッパ夏時間)、運転を終了しました。ギリシャ神話の女神ヘラにちなんで名付けられた加速器の15年と1ヶ月にわたる歴史と運転終了の様子についてご紹介しましょう。 電子で陽子をさぐる20年計画 ドイツ電子シンクロトロン(DESY)研究所はドイツ第一の港湾都市ハンブルクの郊外に1959年に設立されました。HERAは世界で唯一の電子と陽子の衝突型加速器です。周囲約6.3kmのほぼ円形の加速器で図1のように研究所の敷地をはみ出て人家や公園の地下を通っています。HERAは、非常に高エネルギーで電子を陽子に衝突させることができる、いわば世界一巨大な電子顕微鏡で、陽子の大きさの約千分の1までの構造を電子で調べることができます(図2)。陽子の中にあるクォークやグルーオンの振舞いを精密に調べる実験など、HERAでの研究については以前の記事でもご紹介しました。 HERAでの衝突実験には、H1(エイチワン)とZEUS(ゼウス)という2つの国際実験があります。日本のグループは1987年からZEUS実験に参加して測定器設計・製作にかかりましたので、そこから数えると20年になります。 HERAの終了に先立ち、DESY研究所は5月27日と28日に記念式典を行いました。世界中から1500人を超える研究者が集まり、日本からはZEUS グループの現旧メンバーに加えて鈴木厚人KEK機構長も出席しました。式典ではHERAでの成果についての講演や、建設当時の話、各実験の思い出の講演などがあり、最後はDESYの職員たちによるパフォーマンスが披露される楽しい式典となりました(図3)。 初めての大規模国際プロジェクト ドイツ政府は1984年にHERA加速器を作ることを決めましたが、その際に外国からの寄与を求めました。DESYは各国の研究所や大学と連絡をとり、最終的には12カ国から全建設に係る経費約7億ユーロの20%以上を集めました。その方法は様々で、加速器の構成部品の製作を担当して提供することが中心ですが、加速器研究者や建設作業員を派遣するなどの寄与もありました。イタリアはHERAの陽子加速器に使う偏向超伝導電磁石422台のうちの半数を拠出しました。DESYは研究者をイタリアに長期派遣して、すべての磁石が同等な性能になるように配慮しました。この磁石を作ったイタリアの企業は、その後、超伝導で世界有数の企業に成長しましたので、協力する側の国にも結果的に大きなメリットがあったと思います。 KEKは当時トリスタンという電子・陽電子の衝突加速器を建設中だったので、DESYからの建設費への協力依頼はありませんでした。それでも実験をするに当たっては私たち日本のグループも参加できたわけで、これは高エネルギー物理の国際協力の非常に素晴らしい点だと思います。HERA建設の国際協力は、(1) 国同士の取り決めでなく研究所同士の取り決めで、(2) 資金を集めるのでなく物的あるいは人的貢献で進める、というユニークなもので、「HERA方式」と呼ばれてその後の国際協力の考え方の1つのモデルとなりました。 15年間の加速器運転を終了 式典の次の日がいよいよHERA運転最後の日となりました。ZEUS実験は最後のシフトを「卒業生」も含めて全員で取ることにし、地下の実験ホールへの入口前の地上でパーティを開きながら400人以上でHERAの最終運転を見守りました。予定では23時終了でしたがHERAの都合で少し延長し、そのため東京大学大学院生の清水さんが最後のシフトを30分だけとるという栄誉を得ました。陽子ビームを止めて加速器の運転が終わると、ZEUSのメンバーが皆で実験ホールに入り、それぞれが担当していた部分の測定器の電源を切って実験を完了しました。名残を惜しむパーティは夜が明けるまで続きました(図5)。 1つの測定装置を15年間大きな改造をせずに動かし続けるというのは、時間がかかる高エネルギー実験の中でも最長記録と思われます。大きなトラブルもなく進められたのは、もちろん最初のデザインが良かったからですが、それに加えて長期に運転維持してきたスタッフや大学院生の力と、その派遣を可能にしてきた各国の研究機関や研究者の長期のサポートがあってのことです。 HERAの運転終了に伴いZEUS測定器もこれから1年をかけて解体します。しかしこれで実験が終わったわけではなく、これからの数年はこれまで収集したデータの解析が続きます。その成果については、後日、このNews@KEKでもご紹介いたします。
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