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宇宙の謎と物理学 2007.6.21 |
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〜 21世紀の物理学の謎にせまる 〜 |
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KEKの素粒子原子核研究所には今年4月に宇宙物理部門が設けられ、小玉英雄教授が着任しました。小玉教授は、天体望遠鏡や人工衛星などの観測データから得られる最新の宇宙描像が物理学に与える影響、最新の物理学理論の宇宙現象による検証などについての研究を進めています。KEK内外の研究者を対象に開催された講演会(写真1)をもとに、宇宙物理学における現在の研究テーマについてご紹介しましょう。 宇宙には謎がいっぱい 人類は昔から夜空を見上げて、宇宙の謎について思いを巡らせてきました。天文学が発達し、最新鋭の天体望遠鏡や電波望遠鏡、マイクロ波、赤外線からX線、ガンマ線にわたる様々な波長で宇宙を観測する人工衛星などが発達して、過去20年ほどの間に宇宙に対する理解は革命的といってもいいほど深まりました。しかしそれでもなお、宇宙がどのようにして始まったのか、これからどのように進化していくのか、太陽系や生命の起源はどのようになっているのか、など、多くの謎が残されています。 小玉教授(写真2)は、これら様々な謎の中に理論的に説明することができないいくつかの根源的な謎があり、その謎を解くことが21世紀の物理学を発展させる重要な鍵になるといいます。 宇宙の初期に「インフレーション」と呼ばれる急激な膨張の時代があったと考えられていることは以前の記事でもご紹介しました。このモデルを素粒子の統一理論に基づいてうまく説明することができるでしょうか。また、超新星を用いた宇宙の距離観測やNASAの人工衛星によるマイクロ波宇宙背景放射の観測から、最近、宇宙の膨張スピードが加速されていることが明らかとなりましたが、それを引き起こしているダークエネルギーの正体とはなんでしょうか。ダークエネルギーと並んで、宇宙物質の未知の重要な構成要素であるダークマターの正体は、素粒子の超対称標準モデルにより説明できるでしょうか。地球や生物の身体を構成する様々な元素はどのように宇宙の中で生まれてきたのでしょうか。また、KEKのBファクトリーで研究が進められているような、物質と反物質がなぜ同じ量だけ存在しないかという、非対称性の起源についても興味が深まります。 銀河系をはるかに超える大きな規模の宇宙の構造についても、謎がたくさんあります。一般相対性理論の方程式に「宇宙項」と呼ばれる量を導入し、後にアインシュタインが「生涯最大の過ち」と嘆いたといわれていますが、最新の宇宙論ではこの宇宙項の解釈を巡って新たな研究が進められていて、注目されています(図1)。また、星の誕生時や銀河系内の連星X線天体、銀河中心にある巨大ブラックホールなど、様々な大きさの天体から「ジェット」と呼ばれる極めて高エネルギーの粒子の流れが観測されていて、その加速のメカニズムにも注目が集まっています。 「冷たい」宇宙膨張と「熱い」ビッグバン 天文学者ハッブルがいろいろな銀河の速度を観測し、「宇宙は膨張している」という論文を発表したのは1929年のことでした。その後、ガモフらは熱い膨張宇宙モデルとそれに基づく宇宙初期の元素合成の理論を発表し、現在の宇宙は初期の熱い火の玉の名残の電波であるマイクロ波で満たされていることを予言しました。 1965年にベル研究所のベンジアスとウィルソンによって、この電波は「宇宙背景放射」として発見されます。 それ以来、宇宙初期の研究ではビッグバンと呼ばれる「熱い宇宙の時代」の研究が盛んになりましたが、この理論では観測することのできる宇宙が大きなスケールでならすと平坦であることなどいくつかの重要な宇宙の特質が説明できない謎として残りました。これらの謎を解く方法として、佐藤勝彦教授やA. グース教授により提唱されたのが、『宇宙は誕生時に急激な加速膨張を起こし、その後熱いビッグバン宇宙に移行した』とする「インフレーションモデル」(図2)です。 このインフレーションモデルはその後、現在の宇宙構造の起源まで説明する理論に発展し、その予言は、宇宙背景放射の温度ゆらぎの観測など最近の様々な観測で確認されました。同時に、 インフレーションを引き起こすメカニズムについても様々な理論が提案されてきました。しかし、重力を含む素粒子の力の統一理論からインフレーションを素直に説明することのできる理論は今のところ存在せず、大きな謎のひとつになっています。 また、現在の宇宙においてインフレーションを引き起こすダークエネルギーの理論的研究も活発に 行われています(図3)が、宇宙初期のインフレーションと比べて100桁以上も小さい加速度の値を自然に説明する仕組みはまだ解明されてません。これらの謎の解明のためには、自然法則に関する基礎理論の新たな発展が必要だと考えられています。 ミクロな物理学を調べる天文台 このように、初期宇宙の進化や現在の宇宙についての謎が自然法則の基礎理論と密接に結びついています。このことに着目し、宇宙を調べることで素粒子のミクロな世界の法則を解明しようとする「ミクロ物理天文台」計画が世界の各地で進められています。まず、これまでに大きな成果を上げた宇宙背景放射の衛星観測をさらに進め、より精密に背景背景の温度地図を作製する計画が進んでいます。また、銀河団による背景銀河の像のひずみ(弱い重力レンズ効果)の観測により、ダークマターやダークエネルギーの量や性質を決定する計画も世界スケールでいくつかのグループが進めています。さらに、2基以上の人工衛星によりレーザー光を用いた干渉計をつくり、それによる重力波観測でインフレーションの時期の宇宙を直接観測するという壮大な計画(図4)もあります 。これは「ビッグバン天文台」計画と呼ばれています。 宇宙加速器? 宇宙からやってくる高エネルギーの粒子(一次宇宙線)の起源も謎に満ちています。人間が作る加速器ではまだ到達できない、100億GeVというとてつもなく高いエネルギーの宇宙線が実際に地球に降り注いでいることが最近の観測によりはっきりしてきました(図5)。しかし、このような高エネルギーの宇宙線が、どのような天体現象で生成されるのかは不明です。特に、これらの粒子は 銀河系内にある磁場の強さではあまり曲がらないため、銀河系外からやってきたと考えられますが、同時にこのような高エネルギーの粒子は宇宙背景放射と強く相互作用するためあまり長距離を進むことができないことが知られています(GZK限界)。このため、「極めて高いエネルギー領域では、相対性理論のもととなっているローレンツ不変性がもはや成立しないのではないか」と考える研究者もいます。 星が生まれる時や銀河系の核の部分から生成されるエネルギーの高い物質の流れである「宇宙ジェット」も不思議な性質があります。ハッブル望遠鏡の観測で、星が誕生する時のジェットが変化する様子が数年置きに撮影されました(図6)。また、ハッブルとチャンドラ衛星の観測で、牡牛座のかに星雲の中にあるパルサーから吹き出すジェットの流れが、可視光とX線で時々刻々観測され、その映画がNASAから公表されています(図7)。銀河系の中心にある超巨大ブラックホールからは1万光年以上の長さにわたって巨大なジェットが噴出しています。このように、宇宙ジェットは、様々な大きさの天体に付随する、宇宙では普遍的な現象だと考えられています。ただ、その生成・加速メカニズムについては 様々な理論的研究が進められていますが、まだ解明されていません。これらのジェットは、超高エネルギーの宇宙線を生み出す母体ではないかと考えられています。 新しい窓は新しい物理を生む COBE衛星やハッブル望遠鏡などは、それまで観測できなかった精度や波長領域での観測により、全く新しくてダイナミックな宇宙の出来事を人類に見せてくれました。現在はさらに観測精度や解像度を向上させたさまざまな実験計画が進められています。これらの「新しい窓」から見る宇宙は、これまで人類が想像もしなかったような新しい物理現象の発見をもたらしてくれるかもしれません。 宇宙物理部門では今後、重力を含む統一理論を宇宙初期の進化にあてはめて検証することや、宇宙ジェットなどブラックホールに伴う高エネルギー天体現象を重点的に研究していく予定です。小玉教授の今後の活躍にご期待ください。
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