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last update:07/05/31  

   image 彗星のかけらを調べる    2007.5.31
 
        〜 放射光でスターダストの試料分析 〜
 
 
  夜空に突然現れて、星ぼしのあいだを渡り歩いていく彗星(すいせい)は、昔から人々の注目を集めてきました。ある時は不吉な出来事の前兆として、またある時は夜空を優美に彩りながら移ろいゆく旅人として。

NASAの探査機「スターダスト(図1)」が彗星の近くを飛んで地球に持ち帰った貴重な「彗星のかけら」のサンプルを、世界中の研究者が分析しています。KEKのフォトンファクトリー(PF)を使ってサンプルの分析を進めている東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻宇宙惑星科学講座助教の三河内岳(みこうち・たかし)氏(図2)らの研究グループにお話をうかがいました。

太陽系起源の謎にせまる

− 三河内さんのご専門は?

X線や電子線分析装置などを用いた地球外物質の鉱物学的研究です。これまでは隕石や、宇宙塵(うちゅうじん)という宇宙から降ってくる小さなチリの分析などをやっていました。惑星間に漂っているチリが地球に飛び込んでくる時、その多くは大気との摩擦で燃え尽きて、流れ星となります。ですが、小さなチリは大気で捉えられて、ゆっくりと地表に降りてきます。最近では特に月や火星から飛来した隕石の分析などもやっています。

− 太陽系内のいろいろな場所から来た試料を実際に調べる訳ですね。

はい。これらの試料の中に含まれる鉱物を詳しく調べると、太陽系が誕生した頃の隕石や、その鉱物がやって来たと考えられる天体で高温・高圧の水熱変成を受けた形跡のある隕石など、太陽系を構成している様々な天体の物質進化の様子を解明することができます。その中でも彗星は、太陽系ができた初期の情報をそのままの形で残していると考えられるので、彗星のかけらは非常に貴重なサンプルです。

4億キロの彼方で

− 彗星のかけらを持ち帰った探査機スターダストというのはどのようなミッションですか?

「スターダスト」はNASAにとって初めての彗星探査機です。「ビルト2」という彗星が1974年に木星の近くを通過して、軌道が変わったのですが、その彗星の近くを飛んで(図3)、エアロジェルという空気のように密度の小さい寒天のような物質で彗星の核周辺のサンプルを採取(図4)して地球に持ち帰る、というミッションが1995年に採択されました。1999年2月に打ち上げられ、2004年1月に彗星の近くを通過してサンプルを採取した後、2006年1月に米国ユタ州の砂漠にパラシュートで帰還しました。途中、太陽系の外からやって来るチリの採取も試みています。彗星に接近した時、探査機は地球から4億キロほど離れた場所にいました。スターダストが持ち帰ったビルト2彗星のかけらは、アポロ17号が1972年に持ち帰った月の石以来、じつに34年ぶりに地球に持ち帰られた地球外の天体の物質なのです(図5)。

− どのような経緯でスターダスト計画に参加されたのですか?

私たちのグループはNASAジョンソン宇宙センターのZolensky博士らと10年以上も前から地球外物質の共同研究を進めていました。博士はNASAが大気圏上空で採取している宇宙塵の管理もされておられます。博士が彗星のかけらを持ち帰るスターダスト計画の初期分析チーム責任者になった時に、これまでPFでいっしょに宇宙物質の分析を行ってきた大隅一政先生(KEK名誉教授、現NASAジョンソン宇宙センター研究員)と萩谷健治さん(兵庫県立大学大学院生命理学研究科助教)らといっしょにチームに「参加しないか」と声をかけていただきました。

カンラン石と輝石が主な鉱物

− スターダストの試料を分析してわかったことは?

これまでにPFで分析した試料から見つかった鉱物はカンラン石と輝石です。これらの鉱物が彗星のかけらに含まれていることは現在考えられている太陽系の形成のモデルと一致しています。カンラン石や輝石は、原始太陽系円盤が形成された時に太陽の比較的近くで作られたと考えられます。それがジェットによって吹き飛ばされて、外縁部で氷や有機物とまぜあわさって彗星が出来上がったと思われるのです。

− まさに太陽系ができた頃のサンプルというわけですね。

ただ、鉱物が水と反応した時に作られる水質変成物が見つからなかったのがちょっと意外でした。2005年7月にNASAが別の「ディープインパクト」という探査機からテンペル第一彗星に衝突体を打ち込んで、その時に飛び散った物質を観測した結果では水質変成物が見つかっています。

− 試料は何個くらい調べられたのですか?

我々のチームはこれまでに10個ほど調べています。そのうち結晶質の試料は3個でした。彗星が近づいた時にかけらが秒速6kmくらいで飛び込んでくるのですが、その際に熱が生じて、まわりのエアロジェルが溶けて彗星のかけらと混ざってしまったものが多いのです。

小さな試料の分析に適したマイクロビーム

− 試料はどれくらいの大きさですか?

大きなもので髪の毛の直径の何分の一かくらいですね。いまここのビームラインで調べているのは直径が大きくても20ミクロンくらいです。図5(a) は、かけらがエアロジェルにぶつかって止まった部分を特殊な装置で三角形に切り出した写真です。図(b) のように、右の方からぶつかったかけらが熱で周りのエアロジェルを溶かして、針のように先の方まで進んで止まります。かけらはその途中で壊れながら進んでいきます。一番奥まで進んで止まったのが、もともとのかけらの大きなサンプルですので、なるべくそのようなものを分析するようにしています。

− 放射光を用いる理由は?

マイクロビームという、とても小さく絞り込んだ強度の強いX線を試料に照射することができるからです。試料の結晶部分で回折されるX線の特徴から鉱物の種類を特定することができます。彗星のかけらのように小さな試料の分析には適しています。しかも、サンプルを壊すことなく分析することができるので、初期分析には最適と言えます。

SPring-8を使った分析も行いましたが、KEKのPFの特徴は、大隅一政先生が開発された微小領域回折実験の装置(図6)が使えることです。図6のように試料を固定しておいて、細く絞り込んだX線を照射する時に、その周りに回折されるX線をイメージングプレートに記録します。これを解析することで、どのような鉱物からできているかを調べることができます。

− 今後はどのような分析を?

地球外物質には、鉄の硫化物が普遍的に含まれています。量は多くないのですが、これらの鉄 の硫化物の構造を調べると、その物質ができた時の環境を限定することができます。それによって、その物質の起源となった天体の状況がわかるわけです。スターダストにも鉄の硫化物が含まれているので、今後は、特に注目して分析を進めて行きたいと思います。

初期分析チームとしての仕事は終わったのですが、今後は一般の研究者にもチリが配られてさまざまな分析が進んでいきます。そういった研究者から「この試料を調べてくれ」と依頼があれば、調べます。

スターダストが彗星から離れた場所で採取した星間物質の分析もあります。これらは太陽系の外からやって来たと考えられているチリで、とても数が少ないんですね。NASAはエアロジェルの顕微鏡画像をインターネットで公開して、人海戦術でチリがぶつかった痕跡を探す「Stardust@Home」というプロジェクトを進めています。

ヨーロッパが打ち上げた探査機「ロゼッタ」が2014年にはチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の表面に着陸する予定です。表面の物質の分析結果を知るのが楽しみです。

− 太陽系の進化の歴史を知ることができるのは楽しみですね。宇宙規模の壮大な研究に夢が膨らみます。どうもありがとうございました。

(インタビューア 森田洋平)


※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→NASAのスターダストのホームページ(英語)
  http://stardust.jpl.nasa.gov/
→Stardust@Homeのホームページ(英語)
  http://stardustathome.ssl.berkeley.edu/
→BL-4B1の詳しい説明ページ
  http://pfwww.kek.jp/users_info/
         station_spec/bl4/bl4b1.html


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[図1]画像提供:NASA
彗星探査機「スターダスト」。
拡大図(57KB)
 
 
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[図2]
スターダストが持ち帰った彗星のかけらを分析する東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻宇宙惑星科学講座助教の三河内岳氏。
拡大図(78KB)
 
 
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[図3]画像提供:NASA
スターダストの軌道。1999年に打ち上げられ、地球の重力を使って軌道修正し、2004年1月に彗星に接近、2006年1月に地球に帰還した。途中AとBの場所で恒星間物質の採取を試みた。
拡大図(65KB)
 
 
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[図4]画像提供:NASA
彗星に近づくと、「パドル」という腕を広げて、表面に設置されたエアロジェルでチリを採取する。
拡大図(87KB)
 
 
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[図5]画像提供:NASA
(a) エアロジェルに衝突したチリの痕跡を三角形に切り出す。
(b) チリが衝突すると、発生した熱でエアロジェルが変成し、大きなチリが奥の方まで侵入する。
拡大図(45KB)
 
 
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[図6]
大隅一政氏(KEK名誉教授、現NASAジョンソン宇宙センター研究員)が開発した微小領域ラウエ法解析装置。
拡大図上(78KB)
 
 
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[図7]
フォトンファクトリーのビームラインBL-4B1で実験中の三河内岳氏(手前)と萩谷健治氏(兵庫県立大学大学院生命理学研究科助教)。
拡大図(88KB)
 
 
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[図8]
今回分析したビルト2彗星のかけらのひとつ。直径約20ミクロン。
拡大図(78KB)
 
 
 
 
 

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