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夢を夢で終わらせない 2009.5.28 |
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〜 前田知洋氏インタビュー 〜 |
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毎年4月18日の「発明の日」を含む1週間は科学技術週間。多くの研究所が集まる茨城県つくば市が、1年の中でも特ににぎわう1週間だ。今年は、13〜19日の一週間、日本各地で様々なイベントが開催された。期間中に高エネルギー加速器研究機構(KEK)と数物連携宇宙研究機構(IPMU)が共催で実施したのが、子供向けの素粒子物理のトークショー「反物質の消滅は宇宙史上最大のマジック?」だ。素粒子物理のイベントというと、その内容の難しさから、高校生以上を対象にしていることが多い。しかし、実際に子供達が科学に興味を持ち始めるのはもっと早い段階だ。虫眼鏡で焼けこげをつくったり、アリの巣を掘り返したり・・・誰もが小学生のときに科学の不思議に胸を躍らせた経験がいくつかあるだろう。今回のイベントの目的は、そんな好奇心いっぱいの子供達に素粒子物理を紹介すること。子供達とその保護者が家族で楽しみながら素粒子物理に親しんでもらうために、科学と子供をつなげる橋渡し役として登場して頂いたのが、クロースアップ・マジシャンの前田知洋氏である。 「僕は『前代未聞』と云う言葉が好きです。今までにマジシャンが足を踏み入れたことがない場所を訪れるのはワクワクします。とくに、今回のような最先端の研究者とご一緒できて光栄なこと。連絡いただいて大喜びしました。その反面、どちらかというと不真面目な仕事をしている『僕で良かったのかなぁ』という心配もありました(笑)」。トークショー出演の依頼を受けた前田氏はこう語る。東京電機大学で学んだ前田氏は、もともと科学には造けいが深く、今年3月まで放送されていた「科学大好き土よう塾(NHK)」では、「科学マジックの部屋」のコーナーを担当していた。「ニュートンがライバルであるフック宛の手紙の中で引用した『私たちは巨人の肩に乗った小人である』という言葉をいつも興味深く思い出します。マジックにおいても、観客から拍手をもらうのも先人の発明や発見、研究があってこそ。僕らはその恩を、未来を担う子供たちに受け渡すことにして、『マジックを通じて、科学に興味をもってもらう』という選択をしました」。同番組は好評を博し、日本だけでなく、ヨーロッパ、北米、アフリカでも放送されている。「4千年といわれるマジックの歴史の中で、ほとんどのマジシャンは自分が考案したものだけでなく、過去に発明されたマジックを演じます。そのなかにはマジシャンとは無関係の研究者が発見した物理や科学の原理を応用したものたくさんあります。現代のマジシャンがそれを演じて、それを見た観客の誰かが、想像力を働かせて、それをキッカケに科学の世界に進み、将来に僕らをビックリさせるような発見をするかもしれない。微力ながら、そんなふうに世代を超えた知識と経験の循環の中に身を置けることを幸せに思っています」、と前田氏は言う。 今回のトークショーのテーマは、反物質とそれを作ることができる加速器、そして未来の加速器プロジェクトである国際リニアコライダー(ILC)。前田氏は、2003年に小柴昌俊東京大学特別栄誉教授のノーベル物理学賞受賞を契機に、カミオカンデやKEKB加速器などの施設を知ったという。「海外でマジックをするとき『日本から来たマジシャンなら、きっと優秀なはず』と期待されることがあります。その言葉の意味を最初はわかりませんでしたが、優れた研究者や研究施設が日本にあり、それが世界に評価されていることを知ってからは、誇りに思い、そして感謝しています」。 トークショーの最後に、前田氏が大切にしている言葉としてあげたのが「夢を夢で終わらせない」だ。努力すれば夢は叶う。しなければ夢は夢のままで終わってしまう。観客に夢を見せてくれる数々のマジックは、夢で終わらせないための努力の賜物なのだ。この言葉はトークショー参加者にも強烈な印象を残した。高エネルギー研究者の夢の加速器ILCについて、前田氏はこう語る。「僕らのような研究者でない人間は『それが日常のなかで何の役に立つのか?』を考えてしまいがちです。しかし、知的な好奇心を満たすというのは何ものにも換えがたい行為だとも思っています。今までのように国家間で成果を競い合い、権利を主張し合うことは終わりにして、地球規模で考えればILCの建設が合理的で効率の良いモデルになることを期待しています」。 子供達が目をきらきらさせて積極的に参加してきたのがとても印象的だったと語る前田氏。「『子供は国の宝』という言葉を痛感しましたね」。トークショーの様子は、後日公式ホームページから、動画配信が予定されている。 (インタビューア 高橋理佳)
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