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わからなかったことがわかった時 2008.12.11 |
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〜 小林誠先生インタビュー 〜 |
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12月11日日本時間午前0時半からスウェーデンのストックホルムコンサートホールで2008年のノーベル賞授賞式が開催されました。授賞式に同行した日本人関係者からは、「ストックホルムの冬は、夜明けは遅く朝8時でもまだ薄暗く、午後3時過ぎにはもうだんだんと暗くなります」と連絡が入りました。スウェーデン国王から物理学賞の賞状とメダルを手渡される小林誠先生、益川敏英先生、化学賞の下村脩先生の晴れやかな表情がとても印象的でした。 11月に小林誠先生がKEKで取材対応された際のインタビュー記事をお送りします。 ***** ― まずは、ノーベル物理学賞受賞おめでとうございます。1ヶ月たって今のお気持ちは? 「今ですか?まだ、なんだか信じられないといいますか、なんでこんなことやっているのか、こんなことやっていていいのかな、という感じですね。(笑)」 ― ノーベル賞の発表に先立ち、欧州合同原子核研究機構(CERN)の大型ハドロンコライダー(LHC)が稼働しました。今は停止中ですが、小林先生がLHC実験に期待することは? 「当然ヒッグスというのは最初の課題でしょうけれど、一番期待しているのは、いわゆる標準模型の先にあるものの何らかのエビデンス(証拠)をみつけるかどうか、ということですね。たとえば超対称理論のエビデンスとなる超対称粒子のシグナルのようなものが見つかることが一番面白いわけで、その辺りに一番注目しています。」 ― LHC実験に関わる理論も考えていらっしゃるのですか? 「(LHC実験がカバーできるエネルギー領域で)何が起こるかというのはもう、ある意味調べつくされているんです。ただ、LHCでエビデンスがみつかれば、一番わからなかったこと、例えば、超対称性粒子の質量のスケールなどが一番重要な状況としてでてくるのでしょう。そういうのが出てくれば、たとえば、それがB中間子のCPの問題と影響するのかとか、そういう話がまたそこから始まるわけです。そういう意味で(超対称性粒子が)見つかることも大事ですし、見つかって質量のスケールがわかることも非常に重要だと思います。」 ― LHCの先、具体的には国際リニアコライダー(ILC)に何を期待しますか? 「もちろん、ILCは高エネルギー研究者の夢ですから、それは大いに期待しているところです。でも、それには(LHC実験から)新しい理論の質量のスケールとかがわかって、そのうえで、というシナリオになるのではないでしょうか。」 ― 現在日本では、産業界や政界など、研究者コミュニティを超えたILC実現に向けた動きが活発になってきています。その動きについてどのように感じていらっしゃいますか? 「実現するためには色々なサポートが必要ですから、そのような動きが出ていることは非常にうれしいことです。反対に、そういうものを全部結集してやらないとできないほど大変な仕事ということでもあります。だから、どうやってそういう大変な仕事を実現に持っていくのか、その戦略がもう少し必要、という気もしています。」 ― 小林先生の理論も、30年以上かけて検証されました。現在の理論物理学は、さらに長く待たなければ確認できないものを追っているように思えますが、そのような最近の理論物理の傾向についてどうお考えですか? 「超対称理論など、直接実験と結びついた理論と、もうひとつの重力の量子論、超弦理論といった理論研究の両方の流れがあるわけですが、後者の研究のほうは、実験的な検証なども検討されてはいますが、主として純粋理論的なモチベーションで進んでいるわけで、その部分の具体的な実験や検証になると、スコープの外ということができます。ただ、LHCをはじめとする加速器実験が届く範囲のところで、どんなものが出てくるのかによって、また新しい理論の展開がでてくるのではないかな、と考えています。」 ― 小林先生、益川先生、南部先生のノーベル賞受賞で、日本の物理の世界がどう変わると思われますか?また、どう変わってほしいとお思いですか? 「物理なり、自然科学基礎科学に関心を持ってくれる人が増えれば、それは嬉しいことだと思います。」 ― どんなきっかけで科学に興味を持たれたのでしょう? 「もともとの基本的なことに興味があったのですが、高校の時にいくつか物理関係の本を読んだことが、ひとつのきっかけになったと思います。もうひとつには、私は名古屋で育ったんですけれど、素粒子研究については名古屋大学の坂田研究室は一般にも知られていたわけで、そういう話もなんとなく耳にして興味を持ったのだと思います。素粒子物理が身近、というほどではなかったとは思いますが、そういうインプットがどこかであったんではないでしょうかね。」 ― 「理論物理学者の暮らし」とは、あまり想像がつかないのですが、どのような毎日を送っていらっしゃるのですか? 「普通ですよ。普通。(笑)」 ― 常にものを考えている、という感じなのでしょうか? 「何か問題にぶつかったら、いつも頭の片隅で考えているという状況はありますね。」 ― 研究者の醍醐味とは? 「わからなかったことがぱっとわかった時ですね。大小にかかわらず。わからなかったことがわかった時というのがやっぱり醍醐味だと思います。」 ― そういうのは、ひらめき?またはこつこつと考えていく? 「それはいろいろですね。ずっとわからなかったことがある時、何かとのつながりが見えてくることもありますし、力技で計算して、というのもありますよ。」 ― 物理学を学ぶ高校生が減っているといわれています。将来的に高エネルギー物理学を学ぶ学生も減るのではないかという懸念もあります。科学への興味が減退している、というよりは、科学や研究を職業として選択する人が減っている傾向にあることが原因だと思われますが、どうしたらその傾向に歯止めを利かせることができるとお考えですか? 「(今の科学は)最先端を進んでいますから、研究のレベルに行くためには、中学・高校で、数学にしろ物理にしろ、とにかくクリアしていかなければならないわけですね。その途中で息切れしているという気がしています。学んでいく途中のステップでいかに興味をつないでいくか、そのへんがもう少し必要かな、と。その意味で(他で報道されているように)教科書がつまらないと言っているわけで、もう少し読み物として興味を持てるようなものがあったっていいのかなと思いますね。」 ― 研究環境について: 小林先生が小林・益川理論をお書きになった時と、今の若い世代が研究する環境に変化はありますか? 「今の若い人にとってどう違うのかはわからないけれど、昔に比べれば一般的に言って、研究成果を問われることが多いのでしょう。短期的にはそれで研究が活性化していると、まあ、そういう判断もあるんでしょうけど、それが研究者の自由な発想とか、基本的なことを考えることにとってプラスかどうか、疑問はあります。」 ― 日本は「科学技術創造立国」や「科学先進国」といった目標を掲げているわけですが、そのような国を目指すために必要なことは何だとお考えですか? 「国全体のこととなれば、単に基礎科学だけでなくて、応用を重視したような研究開発も重要ですから、全体のレベルのはなしをなかなかどうこうのは難しいのですが、我々基礎科学の立場から言うと、やはり基礎科学が十分にサポートされているか、ということはあります。そういうところからその、まったく新しいものは出てくるわけでしょうから。サポートのメカニズムが、どの程度機能しているか、その点は多少問題があるかもしれませんね。」 ***** たんたんと、物静かに、言葉を選びながらお話しされる小林先生。しかし、いったん研究の話になるといたずらっぽい目がきらりと輝き、休日にはパズルやゲームに興ずる、という少年のような一面を垣間見た気がしました。「わからなかったことがわかる」― この単純にも思える、純粋な科学の不思議を追求する、ということが私たちに新しい視野を与えてくれるのでしょう。 (インタビューア 高橋理佳)
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