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last update:07/06/07  

   image 物理学とともに歩む    2007.6.7
 
        〜 南部陽一郎先生講演会 〜
 
 
  2004年のノーベル物理学賞はグロス、ポリッツァー、ウィルチェクの3氏に送られました。「強い相互作用」と呼ばれる素粒子の間に働く基本的な力の解明に貢献したことが受賞の理由ですが、ノーベル財団が発表した受賞理由の詳細な解説記事の中に、アインシュタイン博士や湯川博士、朝永博士ら、過去のノーベル物理学賞受賞者の名前と共に南部陽一郎先生(シカゴ大学名誉教授)の名前もあがっています。

その記事では「ナンブが作った理論は、理論としての必要十分な詳細さを備えていたが、登場が早すぎたのと、当時の別の問題に対して焦点が向けられていた」と異例の言及があり、先生の業績をたたえています。

物理学の理論的な研究をコツコツと進め、数多くの先駆的な研究テーマを開拓された南部先生の講演会が6月5日にKEKで開催され、多くの研究者が温厚な先生の真摯な研究姿勢に感銘を受けました。

素粒子物理学のパイオニア

南部先生は、素粒子物理学の標準模型の基礎のひとつとなった「自発的対称性の破れ」の概念や、強い相互作用に「色の自由度」の導入、「超弦理論」のもととなった「弦理論」の提唱、など、数多くのパイオニア的な業績によって世界中の物理学者に広く知られています。「超弦理論」は、重力を含む素粒子の相互作用の統一理論の有力な候補として現在、注目されています。

半世紀にわたって米国で活躍しておられる先生が来日され、ほぼ10年ぶりにKEKを来訪されたのを機会に、「string theory(弦理論)の起源について」と題したKEKコロキウムが開催され、弦理論の創成期についてお話をされました。

講演は「現代物理学が始まってから100周年の記念が続いている」というお話から始まりました。2005年はアインシュタイン生誕100周年、2006年が朝永博士とニュートリノの研究で有名なマヨラナ博士の生誕100周年、今年が湯川博士の生誕100周年にあたります。

今年はさらに先生の研究に密接に関連する超伝導のBCS理論が生まれてから50周年、またワインバーグ・サラム理論が発表されてから40周年にあたる節目の年です。BCS理論は、南部先生が素粒子の質量の起源を考える上での重要なヒントとなりました。この研究から生まれた南部・ゴールドストンボソンの理論は、ワインバーグ・サラム理論の重要な足がかりとなっています。

「ハイウェイの本流」と「脇道」

先生は「物理学の発展にはいろいろな道筋があって、ハイウェイの『本流』とも呼べる研究と、少し脱線して脇道に入っているけど、綿々と続いている研究がある」と述べられ、弦理論もまだその脇道の延長にあると説明されました。

1920年代は量子力学がほぼ完成し、数十億分の1メートルという原子の世界で起きる出来事が理論によって理解できるようになった時代でした。その原子の世界よりもさらに数十万分の1の大きさの原子核の内部で何が起きているかについては、当時「量子力学で説明できる」という考えと「さらに小さな世界では量子力学が成り立たなくなる」という考えの2つの流れがありました。

量子力学の完成に大きく貢献したハイゼンベルグは「原子核の世界では量子力学は成り立たなくなる」と考えていた一人で、解くことのできない小さな世界で起きる現象を一種のブラックボックスとして捉え、原子核反応の前と後との関係を「S行列理論」によって考察していました。

南部先生は第二次世界大戦中に陸軍の研究所でレーダーの研究中にこの「S行列理論」の存在を知り、その後の研究を進める上で大きな影響を受けたといいます。

ハドロン粒子の定式化

現在の素粒子理論の標準模型にはハイウェイの本流ともいえる4つの基本概念があります。「対称性」「くり込み」「ゲージ理論」「対称性の破れ」というこれらの基本概念は、1970年代の研究の発展によって定着しました。しかし、その前の1960年代は、加速器の実験によって「ハドロン」と呼ばれる多くの種類の粒子やその散乱振幅(反応の起こりやすさ)などのたくさんの実験データが得られたものの、理論的研究は混沌としていた時代でした。

南部先生はこの時期に分散理論と呼ばれる考え方に基づき、ハドロンの一種の中間子の種類や性質を定式化するという、際立った成果を出されています。この時の論文の共著者であるチュー博士は、「中間子や核子を構成するハドロンはお互いがお互いに依存しており、そのどれもが『素』となる粒子ではない」とする「ブートストラップ理論」を提唱しています。

そんな中でベネチアーノが1968年に定式化した「双対模型」と呼ばれる素粒子反応のある種の普遍性に着目したのが「南部・後藤のハドロン弦理論」の誕生のきっかけとなりました。

時代を超えてよみがえる考え方

ハドロンの弦理論はその後、現実の世界を説明しきれない困難が見つかり、クォーク模型や量子色力学の台頭とともに忘れられていきます。しかし一部の研究者は粘り強く研究を進め、素粒子のスピンの性質の違いに着目した「超対称性」の考えを取り込んだ「超弦理論」が、重力を統一的に説明できる理論として1980年代から再び脚光を浴びるようになりました。

先生は論語の「学而不思則罔。思而不学則殆。」(学んで思わざれば則ち罔(くら)し。思うて学ばざれば則ち殆(あやう)し)を研究のモットーとしておられるそうです。湯川秀樹博士や坂田昌一博士らに学び、海外の数多くの著名な研究者とともに研究を進めながら、他に類を見ない独創的なアイデアで素粒子物理学分野の様々な側面を切り拓いてこられた先生の生き方を見て、講演会に参加した研究者は皆それぞれに深い感銘を抱いていました。

研究の流行に流されることなく、常に物事の本質を見抜きながら自ら時代を切り拓いてこられた先生の、今後ますますのご活躍が期待されます。


※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→シカゴ大学物理学部(英語)のwebページ
  http://physics.uchicago.edu/t_part.html
→フランクリン協会(英語)のwebページ
  http://www.fi.edu/winners/2005/
          nambu_yoichiro.faw?winner_id=4394


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[図1]
南部陽一郎先生(シカゴ大学名誉教授)。
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[図2]
KEKコロキウムの様子。
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[図3]
講演には若い大学院生やKEK素粒子原子核研究所前所長の小林誠名誉教授など、数多くの研究者がつめかけた。
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[図4]
講演会の後に開催された懇談の様子。
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[図5]
懇談では米国の大学で一緒に研究を進めた数多くの第一線の研究者との研究生活などが語られた。
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この講演のビデオはこちら
 
 
 

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