宇宙線観測気球実験



BESS(べス)実験とは
 (BESS: Balloon-borne Experiment with a Superconducting Spectrometer)

 超伝導スペクトロメータを用いた宇宙粒子線観測気球実験の略称です。
これは高エネルギー加速器実験で開発された超伝導技術や粒子検出技術を、大型気球による高空での宇宙線観測に応用した世界的にもユニークな実験です。

BESS
Copyright 1999 BESS Collaboration

 BESS実験は1987年に提案され準備が始められました。1993年に最初の宇宙線観測実験をカナダ北部マニトバ州リンレークで行い、1999年までに合わせて6回の気球実験を実施しています。例えば1999年の実験は実験した年から"BESS'99"と呼ばれます。

 現在BESS実験は、文部省宇宙科学研究所・米国航空宇宙局(NASA)、及び文部省高エネルギー加速器研究機構・東京大学・神戸大学・メリーランド大学の6組織から構成される日米共同気球実験として推進されています。

 
BESS実験の目的

 宇宙から地球には、わずかながらですが低エネルギー反陽子が飛んできています。これを精密に観測し、また極微量飛来している可能性のある宇宙線反物質を探索することによって、「宇宙における素粒子現象」を探求しています。

 ■反陽子の観測

 宇宙線中の反陽子成分は、宇宙を飛んでいる陽子と星間物質(水素の陽子)との衝突で生成されます。 しかし、この衝突でできる反陽子は低エネルギーのものが生成されにくいことが分かっています。 もし低エネルギーの反陽子成分が予想より多ければ、他のプロセスによる反陽子生成を考える必要があるのです。



このようなプロセスとして宇宙を満たす暗黒物質、銀河ハローの対消滅による反陽子生成や、 初期宇宙で生成された原始ブラックホールが「蒸発」するときの反陽子生成な、ど素粒子物理や宇宙物理で興味ある現象である可能性が指摘されています。

 ■反物質の観測



 宇宙線反物質は高エネルギー宇宙線と星間物質との衝突で生成される可能性は極めて小さく、もし宇宙線反物質が発見されれば遠方の宇宙に存在しているかもしれない反物質銀河から飛来してきたものである可能性が大きいのです。私たちの周りの宇宙がなぜ物質優勢であり、物質・反物質の対称性が破れているのかは素粒子・宇宙物理の根幹に関わる問題であり、宇宙線反物質の探索はこの謎に迫る研究です。

 ■宇宙線基礎データの収集

 BESS実験では、宇宙線の主成分である陽子・ヘリウム核成分の精密観測や電子・ミュー粒子の観測など宇宙線物理分野において基礎的なデータも提供しています。特に陽子・ヘリウム成分の精密なエネルギースペクトラム(強度のエネルギー分布)は、最近発見された大気ニュートリノ振動現象を詳細に研究していく上で不可欠な基礎データとなっており、今後のBESS実験でより広いエネルギー領域で高精度のスペクトラム測定を行うことが期待されています。

 
▼NEXT BESS実験の成果