宇宙線観測気球実験




どんな気球を使うのか

 重量2.2トンにもなるBESS測定器を高度37kmの高さにまで上げるためには、非常に大きな気球が必要です。

現在BESS実験で使われている気球は高高度で最大に膨らんだときに直径150m、高さ150mにもなる超大型の気球で、気球の体積は100万立方メートルにもなります。

気球は重量を軽くするために厚さ20ミクロン(髪の毛の太さの1/3)のフィルムで作られており、中にヘリウムガスを詰めて浮力を生み出しています。


測定器の仕組み


 宇宙からBESS測定器に入ってきた粒子の種類は、電荷と質量によって識別します。 電荷と質量は、運動量と速さ、粒子が作る信号の大きさ(エネルギー損失)から計算します。

 そのために、BESS測定器には超伝導マグネットと様々な種類の粒子測定器を搭載し、 さらに各粒子検出器から出てくるアナログ信号をデジタル信号に変換するためのデータ収集システムや地上との通信システム、測定器の温度・圧力など環境を測るモニタシステム、得られたデータを貯蔵する磁気テープ装置なども搭載されています。
低消費電力化を図るため、手作りの物もたくさんあります。

 これらの検出器、電子回路は直径1.7m、長さ約4mの円筒型圧力容器に収められ大型気球に吊るされます。
測定器の重量は電子回路へ電力(1.2kW)を供給するリチウム電池を含めて約2.2トン、ちょうどトラック1台分くらいの重さです。



※図にマウスカーソルを重ねると、各検出器の色が変わります。

 ■超伝導マグネット
 電気を帯びた粒子(荷電粒子)を磁石の作る磁場の中で走らせると、磁場の影響を受けて、その進路が曲がります。 このことを利用して入射粒子の運動量を求めます。運動量の大きな粒子は曲げられにくく、一方運動量の小さな粒子は大きく曲げられます。
 超伝導マグネットは運動量測定に必要な強磁場(1テスラ)を作り出すものです。 BESS測定器の超伝導マグネットは薄肉永久電流ソレノイド型のマグネットで、粒子が通過する経路上の物質が少なく、また地上で電流を流し込めば、気球実験中は電源なしで磁場を保持できます。

 ■飛跡検出器(JET Chamber, Inner Drift Chamber)
 超伝導マグネットが作り出す磁場中で入射荷電粒子がどの位曲げられたかを測定する装置で、超伝導ソレノイドの内部(直径80cmx長さ1m)に置かれています。
荷電粒子が飛跡検出器中に詰められたガス(アルゴンと炭酸ガスの混合ガス)中を走るときに作るイオン・電子対が どこで作られたかを測定することにより、入射粒子の飛跡を0.2mm程度の位置精度で測定できます。

 ■プラスチックシンチレーションカウンタ
 荷電粒子が通過すると紫外線〜紫色の光を出すプラスチックの板を測定器の上下に置いています。プラスチックで出た光は、光を電気信号に変換する光電子増倍管という真空管の一種によって読み出します。
この電気信号が出たタイミングは、いつ入射粒子がプラスチック板を通過したかという情報を与えるので、上下のカウンタから出る信号の時間差を測れば、飛跡検出器の情報から得られる飛跡の長さと合わせて入射粒子の速さを測定できます。また、信号の大きさからどの位の電荷を持つ粒子が通過したかも判断できます。

 ■その他の粒子識別装置
 以上の測定器に加えて、より高精度の粒子識別を行うために、シリカエアロジェルチェレンコフカウンタや電磁シャワーカウンタなどの補助的な粒子識別装置を搭載しています。

※シリカエアロジェルチェレンコフカウンタ・・・光速の98%以上の速さの粒子を識別します。
※電磁シャワーカウンタ・・・電子と他の粒子を識別します。