放射光単色X線を用いた臨床応用の再開
PFARでの放射光利用再開にともない、放射光単色X線を用いた心臓診断に関する臨床応用が、筑波大学と物質構造科学研究所との間の共同プロジェクトとして再開されました。
”うううっ、胸が痛い”。ある朝、出勤途中の駅の階段を登ったところで、突然、胸を締め付けられるような痛みが体を走り動けなくなってしまった。Aさんを突然襲った病気、それが虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)です。
私たちの心臓は、全身に血液を供給するために24時間休みなく動いています。1日で10万回も拍動し、全身に血液を送っています。この優秀なポンプである心臓自身に血液を供給する血管が冠動脈です。全身に血液を供給する大動脈の基始部から左冠動脈、右冠動脈の2本が分岐します。これらの血管が狭くなったりつまったりして起こる病気が狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患です。虚血性心疾患は、動脈硬化の進行や加齢とともに起こるため、ありふれた病気であり、また、生命に直接かかわる病気です。日本の3大成人病のなかの死亡原因の2位であり、欧米先進諸国では1位の国が多くなっています。冠動脈径の80%近い狭窄があっても自覚症状に乏しい場合があり、いかに早期に冠動脈の変化を診断するかは、医学的・社会的に大きな課題となっています。
冠動脈の直接的な画像診断には心臓カテーテル検査があります。この検査は、下肢や腕などの動脈から挿入したカテーテルと呼ばれる細い管を冠動脈の入口まで進め、造影剤を流しながらX線撮影を行うもので、冠動脈を鮮明に写し出すことができ、狭くなったりつまったりしている部位の確認や、狭くなった部位を広げる手術などには欠かせない検査となっています。しかし、動脈にカテーテルを挿入するので危険性もあり、慎重に行われる必要があります。患者さんにも、肉体的・精神的に負担のある検査となっております。そのため手軽に検査を行うことはできなく、検査の適応が限られています。
静脈から造影剤を注入して冠動脈を造影することができれば、動脈から造影剤を注入する場合に比べはるかに安全で簡便に検査を行うことができます。静脈から造影剤を注入すると冠動脈に達するまでに肺循環などで造影剤の濃度が希釈されてしまい、通常のX線で撮影しても冠動脈を識別することができません。しかし、造影剤のX線吸収が大きいエネルギーの単色X線で撮影すると、希釈された造影剤を比較的鮮明に抽出することができます。
放射光を用いることで臨床応用可能な強度の単色X線を得ることができます。我々は、放射光を用いて造影剤の静脈内注入による方法で、冠動脈の2次元動画像を得ることができる日本独自の心臓診断システムを開発しました。この方法を1996年に初めてPFARにおいて臨床応用を開始し、冠動脈の撮影に成功し1999年5月から再開しました。現在まで大変良好な結果が得られており、引き続き臨床応用を行っていく予定です。
この方法により、狭くなってしまうと直接生命に関わるような血管径の太い部位の冠動脈系の変化の早期診断、狭くなったところを広げる手術をした部位の術後の定期的な検査、冠動脈バイパス手術後の定期的な検査などを安全で簡便に行うことができると期待されます。
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