格子QCDによる計算
■格子QCDって?
クォーク同士がグルーオンによって結びつけられている事はわかりましたが、物理学ではこの力の交換のプロセスを計算によって求めることが出来なければなりません。 しかし困ったことに、クォークは遠く離れて引き合う力が強くなると、その間で何度も「色」を交換するので、計算自体が複雑で難しくなってしまいます。
この複雑な計算をコンピュータの力を借りて行なおうとするのが格子QCDです。
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格子QCDではまず、時空間(ここでは例えば、バリオンの内部のようなごく小さな領域)を適当な大きさの4次元格子で区切ります。格子の各点にはそれぞれクォーク場・グルーオン場の自由度があって、量子色力学にしたがって隣りの格子点と互いに相互作用します。(素粒子理論では、このように「粒子」を「場」で表現します。)
本来はなめらかに連続した時空間を、このように格子に区切ることで、自由度が有限になって、コンピュータで計算できるようになるわけです。
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QCDでの相互作用は、「色」の交換によって表現されます。
例えば、点Aから色を交換していくことで、離れた点Bとの相互作用が実現します。
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このような「色」の交換による相互作用が格子上のあらゆる点で起こっています。これらをすべて「計算」することでQCDのシミュレーションを行なうことができます。
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■スーパーコンピュータによる計算
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時空間には、縦・横・高さ・時間の4次元の自由度があるので、いかに多くの計算が必要になるかは、格子点の数を数えてみるだけで想像することができます。
例えば、一辺が32の格子の場合でも、324=1,048,576個の格子点が必要になります。それぞれの点には色やスピンの自由度などがあるので、実際にはその数十倍の自由度を同時に扱わなければなりません。これらの自由度が互いに相互作用を繰り返す様子をシミュレーションで調べるには、膨大な計算量が必要になるのです。
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■何がわかるようになるの?
格子QCDのシミュレーションは過去10年以上にもわたって世界中の研究者によって行なわれてきました。これらの研究によって、バリオンやメソンの基本的な性質の多くを予言できるようになってきました。しかし、なお多くの課題が残されています。
クォーク間の相互作用を伝達するのがグルーオンだということがわかりましが、グルーオン間の相互作用にも対生成したクォークと反クォークが影響を与えます。この効果を計算に取り入れるには、これまでの計算機は遅すぎたので、仕方なくこの効果を無視したシミュレーションが行なわれてきました。しかし、最新のスーパーコンピュータを使えば、こうした近似を行なわない「完全」な計算を行なうことができます。
B中間子の崩壊の仕方を予言することは、Bファクトリー実験の結果を解釈するときに非常に重要になります。格子QCDシミュレーションを使えば、多くの性質を近似することなく精密に求めることができるようになります。
これらの研究は、まだ始まったばかりです。今後の成果に期待してください。
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