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これまでにお寄せいただいたご質問と回答の一例です。
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光の速度は、どうやったら計れるのですか? |
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光速度(c = 299792458 m/秒)は基礎物理定数の最も興味ある重要なパラメータの一つです。歴史的にはレーマー(O.Roemer)の観測が行われる1675 年以前には光速は無限大と考えられていました。レーマーは、1年を通じて地球と木星との距離の変化に依存して、木 星の衛星の軌道周期が変化していることに気づきました。その変化の 原因をレーマーは惑星間の距離に対する光の伝搬速度によるものであ ると結論しました。レーマーの得た光速度cの値は当時知られていた 惑星軌道の径について30%の誤差で観測されました。
地上での最初の c の測定は、1849 年にフィゾー(F.L Fizeau)によっ て行われ、光が遠方に置いた鏡まで伝搬して返ってくる間の時間を測 定して得た結果は15 % の精度で正しい結果が得られました。
また。マックスウエルの電磁波理論では、光も電波も共に電磁波で あり、真空中を同じ速さで伝搬することを示しました。この発見から、 光速cを測定する方法として「光速=電磁波の周波数×波長」という 関係が導かれました。
1891年にこの関係式に基づき、ブロンドロット(R.Brondlot)は電 磁波であるラジオ波の波長と周波数の測定から c の値を決定しました。 彼の測定値はラジオ波と光波に対して同じである事を証明しました。
1958 年には、フルーム(K.D.Froome)は 光速 c が +/-100 m/秒 の 誤差で c = 299792500 m/秒であることを発表しました。フルームは、 クライストロンという真空管の発信器から発信されるミリ波という波 長の短い周波数と波長の両方を測定してこの結果を得ました。この測定 での主な誤差は放射される波長の測定精度にありました。この事から ミリ波よりもっと波長の短い波長の発生が必要とされました。
現在では、安定したより波長の短いレーザー光を用いて周波数を測定 しています。
精度の高い周波数源かつ波長源とした、一般的なものとしてメタンの 飽和吸収で安定化された3.39 μmのヘリウムネオンレーザ、ヨウ素の飽和 吸収で安定化された赤色ヘリウムネオンレーザ、二酸化炭素の飽和蛍光 に安定化された10 μm の炭酸ガスレーザ(C02)等があり、これらの周波 数と波長から c の値が求められています。
1974 年のメートル定義審議会(CCDM: Consultative Committee for the Definition of the Meter)において、c = 299792458 m/秒の値を採用 しました。その後、1983 年の国際度量衡総会でも採用され、1m は光が 真空中を1秒に進む距離の1/299792458 として定義されています。
光の伝搬速度は一定であることを証明した有名な実験である マイケルソン(A.A.Michelson)とモーレイ(W.W.Morrey)の1881 年に行 われた干渉計を用いた実験がありますので簡単にご紹介します。
この実験の目的は、慣性系に対する地球の相対速度を求めようという ものでした。慣性系とはニュートン力学の運動法則が成り立つ系のことです。 力学的には、この慣性座標系は、力が働かない時には加速度がゼロである ような座標系です。(太陽系を座標とする)慣性系の中を地球が運動する 方向と平行に進む光と垂直な方向に進む光の伝搬時間を較べて地球の相対 運動を測定しょうというものでした。光速度は慣性系で測定した時のみ定 数Cとなり、地球のように慣性系に対して速度 v で運動している座標系に おいては、光の進む方向には(c - v)、逆向きの時は(c + v)が測定される という考えにもとづいています。古典的な速度の加算則によると、このような実験で速度差 2v が観測される筈でした。
地球は太陽のまわりの軌道を楕円運動しているだけでなく、銀河系の 回転運動によって太陽とともに毎秒数百キロメートルの速度で白鳥座に向 かっているし、銀河系自身も局所銀河群の中で高速運動をしています。 その速さは地球上の直交する方向で観測可能を示唆していました。
実験結果は予想に反してそのような速度差は無いと言うのがマイケルソンとモーレイの証明でした。マイケルソンとモーレイ(W.W.Morrey)の 干渉縞の実験は、東西南北に各々距離 2L をとり、その交点を O として この交点にビームスプリッターをセットし、北(N)と東(E)に各々鏡を 置き、西側から白色光を送り、ON 間、OE 間の往復する光路差を南側にセ ットした測定器(干渉縞を測定する計測器)において、その光路差の有無 (2v の値)を測定しました。結果は先に述べたように、干渉縞に変化は 生じませんでした。このことから、光の伝搬は等方的であるということが 解りました。なぜ変化が(差)が起きないかと言う理論的な説明は、アイ ンシュタインの相対性理論(光速度一定の)に待つことになります。
ここでは光速の測定に関わる歴史をおおまかに述べましたが、具体的な 実験方法などについて、更に詳しくお知りになりたい時には 独立法人産業技術総合研究所(旧工業技術院/つくば市)の 計量標準総合センターなどにお訪ねになる のがよいでしょう。 |
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光の速度を超える実験では真空で行なわれましたがなぜ、 光はとてつもない速さで移動するのに大気の摩擦によって燃え尽きてしまったり、 速度がおちないのでしょうか?また、宇宙空間と大気中では速度が違うのでしょうか? |
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Prologue:
光速度( c =299792458 m/秒)は基礎物理定数の最も興味ある重要なパラメータの一つです。歴史的にはレーマー(O.Roemer)の観測が行われる 1675年以前には光速は無限大と考えられていました。レーマーは、1年を 通じて地球と木星との距離の変化に依存して、木星の衛星の軌道周期が変 化していることに気づきました。その変化の原因をレーマーは惑星間の距 離に対する光の伝搬速度によるものであると結論しました。
レーマーの得た光速度 c の値は当時知られていた惑星軌道の径について 30%の誤差で観測されました。レーマーによって光速度が有限であるという ことが判った17 世紀には、光の正体は、ニュートンの粒子説とホイヘンス の波動説が対立していました。光の直進性や反射の性質からニュートンは 粒子説を、一方ホイヘンスは光を衝突させても衝突しない事を根拠に波動 説を主張していました。19 世紀に入って、ヤングによる光の干渉実験や フレネルによる光の回折実験などから光の波動説が有力になりました。
そして1864年マクスウエルはファラデーの法則やアンペアの法則などの 電気や磁気に関する法則を統合し「電磁気学」を完成させ、電磁気学から 光の正体の解明に挑戦しました。マクスウエルはこれらを4つの方程式に まとめましたが、その中で最もユニークな概念として「電磁波」という概 念が導かれました。
物質も電荷も何も無い状態で、電場や磁場を僅かに揺らすと電場や磁場 の微少な揺らぎが「波動」となって伝搬することが判りました。これが電 場と磁場の波である電磁波でした。更にマクスウエル方程式から導かれた 電磁波の伝搬速度は驚くべきことに当時知られていた光速度と一致しました。
このことからマクスウエルは電磁波こそが光の正体と断定しました。
今では、電波や、赤外線、可視光線、紫外線、X線やガンマ線等はすべて 電磁波であり、これらの違いを総称してスペクトルを持つという意味あいで 呼んでいます。どの電磁波もその波長や振動数が異なるだけでその伝搬速度 ( = 波長 × 振動数)は光速に等しいことが判りました。
一方、19 世紀末まで天体からの光の伝搬はエーテルという媒質によって 伝えられると考えられていました。エーテルが宇宙に満たされているなら 地球はエーテルに対して運動していることになるので、地球の運動する方向 とその逆方向では光の速さが違って見えると予測されました。
マイケルソンとモーレーはその違いを測定しようと精密実験を何度も行い ましたが、結果は「方向による違いが無い」というものでした(1887年頃迄)。 このことはマクスウエルの発見した電磁波(光)は電磁波を伝搬させる媒質 (エーテル)が不要であることを示しています。 電磁波の伝搬は、電場の変化が磁場を生み、磁場の変化が次の電場を生じ るというようにして伝搬すると言えます。 したがって、電磁波(光)は媒質の無い真空の宇宙でも伝搬が可能 なのです。
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光が光速で移動するのに大気の摩擦によって 燃え尽きてしまったり、速度がおちないのでしょうか? |
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「燃え尽きてしまったり、速度がおちないのでしょうか?」という イメージは、人工衛星やスペースシャトルなどが大気圏に突入する現象 を想定されているのでしょうか。光が光速で大気圏に突入するというこ とは、光が電磁波であることを考えると、電磁波が大気圏に突入すると光はどんな影響を受けるかと質問に言い換えられます。
ご存知のように大気圏は空気の層(組成として、窒素や酸素、希ガス 等の混合ガス)ですので、宇宙の真空中とは異なる媒質としての固有の 屈折率をもつ大気圏と光の関係(相互作用)になり ます。屈折率(n)は媒質(大気圏)の吸収係数が(測定によって)定 義できるなら求めることができます。屈折率 n の媒質中での光速は1/n として求められ、媒質の屈折率によって光の速度則ち(固有の)位相速度 が変化します。
例えば水の屈折率は n = 4/3 なので、光速は、1/n = 1/(4/3) = 3/4 となり、 約 25 % 光速が減衰します。「燃え尽き無いのか?」というのは、光自身 は電磁波として伝搬するだけですが固有にもっているエネルギーが大きい 時は、大気圏と衝突して大気圏のガスを電離することによって(燃え尽き るのではなく)電磁波のエネルギーを失うことはあるでしょう。高いエネ ルギーを持つレーザ光線によって物質を加工する現場を見るように。 |
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宇宙空間と大気中では速度が違うのでしょうか? |
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Ans1で述べたように、電磁波としての光は媒質による屈折率にも関係 して位相速度に違いがおきる(波長依存性がある)ことから、真空中と違 って大気中での速度は異なります。
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浜辺に垂直な波はどうして出来ないのでしょうか? |
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水の波の伝わり方には重力と表面張力が関係し、上下に振動するだけ でなく水平方向と鉛直方向の振動の合成された運動として伝わります。 水の波の伝搬速度は、波の波長と水の深さ(水深)にも関係しています。 浜辺における水の波は、波長が水の深さに較べて大きい場合で、水の運動 は上下より水平方向に長軸をもつ長円形を描くようになります。さらに波 長が大きくなると水面から底まで全体の水がほぼ水平に往復運動するよう になります。この場合の力としては重力だけを考えれば良く、その伝搬速度(v)は、波長によらず水の深さ h にだけ関係し、以下の式で求められ ます。
v = (gh)1/2 g:重力加速度
これは浅いほど波の伝搬速度が遅いことになり、浜辺では岸から段々に深 くなっていることを考慮すれば、例え浜辺に斜めに波が来たとしても、岸 に近い方は伝搬速度が遅く、岸から遠い方は伝搬速度が早いので、波は徐 々に岸に平行になってしまいます。これが「浜辺に垂直な波が出来ない」 理由です。浅いほど波の伝搬速度が遅いことから、波の間隔も沖に比べて 浜辺の方が狭くなっていることが理解できるかと思います。また、波頭が 巻いて崩れることも、深い(水面の盛り上がっているところ)ほど波の伝 搬速度が早いので岸の方に倒れてしまうと考えてそれほど間違ってはいな いでしょう。 |
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多細胞生物は全て、真核細胞からできていると思いますが、何で原核細胞から成る多細胞生物はいないんですか? |
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最初にできた細胞は核膜のない原核細胞です。これが進化して27億年以上前に細胞内に核膜や小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリアなどのオルガネラを持つ真核細胞ができました。それぞれのオルガネラは細胞内で固有の役割を持っています。例えば、核はDNA遺伝子を格納してありますし、小胞体やゴルジ体はタンパク質が合成される過程で正しい折りたたみ構造をとらせたり、糖鎖修飾を行います。また、ミトコンドリアでは細胞の生命活動の維持に必要なATPを生産します。
このようにいろいろなオルガネラを持つことで細胞の生存、増殖、外界の環境変化への対応などの機能が格段に良くなりました。そして約10億年ほどの時間をかけて真核細胞がさらに進化し17億年ほど前に多細胞生物が出来上がりました。このときに起こったことは、細胞がいくつも集まって共同体をつくり始めたことです。共同体として生きていくには、それぞれの細胞が脳、神経、筋肉、消化器官のように異なった機能・役割を分担し、細胞の間で情報やエネルギー代謝物の交換を効率よく行うことが必要になります。原核細胞ではオルガネラがないので役割分担を担うような複雑なことができないので、共同体を形成することはとても難しいのです。
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