吉原圭亮さん

研究者の世界を初めて身近に感じた時間

サマーチャレンジに参加したのは2007年。第一回目の開催でした。横浜国立大学工学部物理工学科の学部生として参加しました。小柴昌俊先生がニュートリノ観測でノーベル物理学賞を受賞(2002年)され、CERN(欧州合同原子核研究機構)ではLHC(大型ハドロン衝突型加速器)のATLAS実験開始が近づいている時期でした。素粒子物理が大きく動き出している雰囲気があり、私もその世界に強く惹かれていました。

もともとは素粒子理論にも興味がありましたが、勉強すればするほど理論の難しさも感じる一方で、子どもの頃からものづくりや機械いじり、たとえばバイクや車を触ることが好きだったので、「実験なら、手を動かしながら素粒子物理に関われるのではないか」と思うようになりました。そんな時に、大学でKEKサマーチャレンジのポスターを見かけました。素粒子実験や加速器の現場を体験できる機会だとわかり応募したのが参加のきっかけでした。

第一回の開催ということもあって、前例がないからこその自由さや熱気があったように思います。講義はとても面白くて、テキストも初学者にとって非常によい教材となっていました。サマーチャレンジの期間中だけでなく、終わった後も何度も読み返しました。参加していた学生同士だけでなく、実験を担当してくださったTAの方々や研究者の方々とも距離が近く、一緒に夜遅くまで実験に没頭したものです。懇親会やドミトリーの談話室でも研究や進路について、名古屋大学の飯嶋徹さんなどが夜中までいろいろ話してくださったことをよく覚えています。学部生だった私にとっては、研究者の世界を初めて身近に感じた時間で、研究そのものだけでなく、研究者としての生活をリアルに想像するきっかけになりました。

将来の進路へ導く場、貴重な仲間との出会いの場

校長の齊藤直人さん(現・素核研校長)もとても気さくでユーモアがあり、参加していた学生たちからたいへん人気がありました。20代前半の、まだ世の中を知らない学部生だった私たちの話を真剣に聞いてくださり、研究や進路についてもたくさんアドバイスをしてくださいました。齊藤さんの姿を見て、「こういう研究者になりたい」「素粒子実験の道に進んでみたい」と強く思った記憶があります。

演習では、岡山大学の田中礼三郎さんが担当されていた「電子と陽電子の"原子"オルソポジトロニウムの寿命測定~朝永の量子電磁力学にチャレンジ!~」のグループに参加しました。実験を進める中で文献を調べているうちに、現在の KEK機構長である浅井祥仁さんの博士論文にたどり着き、そこで(ICEPP)東京大学素粒子物理国際研究センターの存在を知りました。ICEPPがCERNのLHC-ATLAS実験を強力に推進していると知って、「自分もいつかCERNに行って研究してみたい」と思うようになりました。

その後、大学院生としてICEPPへ進学し、CERNに長期滞在しました。そこでATLAS実験でヒッグス粒子の解析に関わり、2012年のヒッグス粒子発見という歴史的な瞬間を現場で経験できたことは、私の研究者人生にとって非常に大きな出来事になりました。サマーチャレンジは私の進路を大きく変えるきっかけだったわけです。また、サマーチャレンジで同じ演習グループだった佐々木雄一さんとは、その後、大学院の同期となり、CERNでも3年間一緒に過ごしました。サマーチャレンジの仲間はその後も続く貴重な出会いの場でもありました。

LHC-ATLAS実験に参加した後も海外で研究経験を積みました。2019年、2回目のポスドクとしてSuperKEKB/Belle II実験に参加することになり、アイオワ州立大学・KEKに所属しながら実験に参加しました。

サマーチャレンジから将来の自分自身が見えてくる

現在は、ハワイ大学マノア校の物理・天文学科で研究グループを立ち上げ、学部生、大学院生、ポスドク、エンジニアとともに、研究や教育を行っています。現在もSuperKEKB/Belle II実験に関わっており、Belle IIの検出器運転、ビーム診断システムの開発、FPGAを用いた高速データ処理、AI・機械学習を用いた加速器・検出器技術開発などに取り組んでいます。

サマーチャレンジにはその後も関わる機会がありました。第3回ではTAとして参加し、2022年には演習グループのスタッフ、さらにキャリアビルディングセッションのパネラーとしても参加しました。最初は学部生として参加した私が、違う立場から学生の皆さんと関わることができたことは、とても感慨深い経験でした。

サマーチャレンジ2022 キャリアビルディングセッションの様子
2022年、キャリアビルディングセッションにパネラーとして参加した吉原さん(右から2人目)

最後に、参加者の皆さんにお伝えしたいことがあります。最初から明確な目標や完璧な知識がなくても大丈夫ということです。私も参加した当時は、素粒子理論と実験の違いも、大学院で何をするのかも、研究者としてどう生きていくのかも、ほとんど分かっていませんでした。サマーチャレンジに参加して、実際に研究現場を目にして、さまざまな人に出会い、プロの実験に触れることで、自分の進みたい方向が少しずつ見えてきました。尊敬する大先輩との出会いが生まれることも、サマーチャレンジの大きな魅力でした。そんなきっかけの場となることを心から願っています。

関連情報

公式サイト:第20回大学生・高専生のための素粒子・原子核スクール サマーチャレンジ
https://www2.kek.jp/ksc/index.html

特設サイト:サマーチャレンジ20年 記念サイト
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