SBRC 構造生物学研究センター

IMSS KEK

ライフサイエンス

当センターでは主に下記のテーマに注目して研究を進めています。いずれの研究においても単なる立体構造の決定にとどまらず、立体構造情報に基づいて複雑な生命現象の背後に存在する分子機構や普遍的な原理を解明するというスタンスで研究に取り組んでいます。


細胞が機能を継承する仕組みの研究

人体を構成するおよそ60兆個の細胞はほぼ同一の遺伝情報を持っていますが、眼は眼、皮膚は皮膚、心臓は心臓というように、それぞれが決まった役割を持っています。細胞が一旦獲得した役割は分裂後にも引き継がれたり、必要に応じて変化したりします。このような現象はエピジェネティクスと呼ばれ、ヒストンというタンパク質が主要な役割を担うことが近年明らかになってきました。私たちは様々なエピジェネティクス関連複合体の立体構造を解析し、細胞機能の継承に関する新しい仕組みを提唱しています。


細胞が機能を獲得する仕組みの研究

生物が持つ遺伝情報を文字数に換算すると、我々人間でさえたったの750MBしかありません。しかし、たったそれだけの情報量で、人間のように理性や感情を持った複雑な生物が出来上がり、社会活動・経済活動・芸術活動などが行われています。おそらく、生物は非常に巧妙な情報処理の仕組みを持っていて、少ない情報を有効活用していることが推定されます。私たちは生物が進化を経て獲得した情報処理の仕組みを解明すべく、遺伝子の働きを制御するタンパク質複合体の立体構造に注目して研究を推し進めています。


ピロリ菌の感染が胃がんを引き起こす仕組みの研究

ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)は、人の胃粘膜に棲息し、世界人口のおよそ半数に感染していると言われています。また近年は胃がんや様々な胃関連疾病に関与していると注目されています。これはピロリ菌がつくるCagAと呼ばれるたんぱく質が人の胃粘膜の細胞内で様々なたんぱく質と相互作用して正常な細胞内シグナルを撹乱することが原因になっていると考えられています。私たちはCagAと人のタンパク質からなる複合体の立体構造解析に基づき、ピロリ菌の感染が胃関連疾病を引き起こす仕組みを研究しています。


難分解性化合物分解酵素のタンパク質科学的研究

環境中の難分解性物質を分解できる微生物の存在が明らかとなり、近年では、微生物の分解能力を積極的に利用して環境汚染を解消するバイオレメディエーションが話題になっています。微生物が物質を分解していくことができる理由は、微生物が産生するタンパク質が基質となる化合物と結合し、酵素反応を行うためです。我々のグループでは、環境汚染物質として知られているポリ塩化ビフェニル(PCB)の分解に関与するタンパク質や、易分解性で高機能なプラスチックの原料を作ることができるリグニン分解菌のタンパク質の研究を立体構造に基づいて進めています。


細胞内輸送の分子機構の解明を目指した研究

様々な細胞内小器官を含む真核細胞では、細胞内の生体物質(タンパク質や脂質など)を正確に分配し輸送することが生命活動を営むための必須条件です。したがって、この細胞内輸送系に関わるタンパク質群の機能と構造を明らかにすることは、生命現象の成り立ちを解明する上で非常に重要です。また、細胞内輸送系が欠損し細胞内での物質の配分が正常に行われなくなることで引き起こされる病気も知られており、細胞内輸送系の制御機構の解明はそのような病気の解明や治療にもつながると期待されます。私達は、GGAに代表される細胞内輸送の制御タンパク質の立体構造解析を通じて、その分子機構の全容を明らかにしようとしています。(模式図は大阪大学吉森教授による)


糖鎖に関わる細胞内機構の解明を目指した研究

糖鎖は、核酸・タンパク質に次ぐ第3の生体分子として、その重要性が明らかにされつつあります。細胞表面に存在する糖鎖は血液型の決定因子として有名ですが、細胞間の情報伝達に重要な役割を果たし、ガンの転移やウィルスの感染などとも直接関わっています。細胞内においても、タンパク質の糖鎖修飾が細胞内輸送の荷札になったり、タンパク質自身の成熟過程の指標になったりしています。糖鎖代謝が異常になることによって発症する病気も多数知られています。このように生体内で重要であるにもかかわらず、この分野は未解明な点が多く残されています。我々は、糖鎖修飾に関わるタンパク質群の立体構造解析を通じ、その機能を分子レベルで理解することを目指しています。