隠れた次元? 宇宙の仕組み? 未知の解明

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宇宙の仕組みを理解する「素粒子物理学」

宇宙はどのように始まり、これからどうなるのか? 宇宙はどんな仕組みで、何で出来ているのか? そして、私たちはなぜこの宇宙に存在しているのか? このような疑問は神話の時代より人類が共通に抱いてきたものです。素粒子物理学は極微の世界を探求することでその答えを追っています。

素粒子物理学は、宇宙誕生の瞬間へと時間を遡り、宇宙創成の謎、ひいては、我々を含めた万物の存在そのものの起源を解き明かし、また、遥か未来、宇宙の行く末をも見通そうとする壮大な試みです。そして、物質、力、さらには時間と空間をも含めた宇宙の全ての、統一的理解を目指します。

それはアインシュタインが一生をかけて追い求め果たせなかった夢でもあります。素粒子物理学の究極の目標は宇宙の全てを一つの原理にまとめるこの「統一理論」を完成させることなのです。

標準理論

素粒子物理学者は「理論」と呼ばれる数学的モデルをつくり、理論と実験の両方を突き合わせて繰り返し検証することで、正しく自然を理解するための理論を磨き上げていきます。現在広く受け入れられている理論の枠組みが、1960年代後半から1970年代後半にかけて確立された「素粒子の標準理論」です。高エネルギー加速器を用いた素粒子の研究は、標準理論」を理論的指針として歩みを進めてきました。

標準理論は、物質を構成する「物質粒子」、それらの間に働く力を媒介する「力の粒子」、そしてすべての素粒子に質量を与えるという特別な役割を担うヒッグス粒子で構成されています。

素粒子物理学のこれまでの実験結果は、標準理論の予測と非常に高い精度で合致しています。2012年には標準理論で存在が予言され、唯一発見されていなかった「ヒッグス粒子」が発見され、標準理論は一応の完成をみました。しかし、天文観測などから、標準理論では説明できない現象が確認されており、新たな理論の構築が進められています。

残された深い謎

これまでに発見された素粒子に対して標準理論は素晴らしい成功を収めてきました。しかし、標準理論で説明できるのは宇宙のわずが5%にすぎません。

宇宙の大半は、未知の見えない物質「暗黒物質(ダークマター)」と、真空に蓄えられた謎のエネルギー「暗黒エネルギー(ダークエネルギー)」から構成されています。

宇宙初期には、粒子だけではなく反粒子も大量に存在したはずだと考えられています。しかし、私たちの宇宙はなぜか物質だけで構成されているように見えます。反粒子はどこに行ってしまったのでしょうか?その理由もわかっていません。

ダークマターやダークエネルギー、消えた反物質の謎は標準理論で説明することはできません。それ以外にも、クォークやレプトンの持つ神秘的なパターンの謎や、極端に質量の重い粒子や極端に軽い粒子の謎、力の統一の謎など、まだまだ解明すべき問題があるのです。つまり、私たちは、宇宙についてまだほとんど知らない、ということです。

これらの謎の重要な鍵を握るのがヒッグス粒子です。ILCはヒッグス粒子の詳細な解明に最適な実験装置なのです。

謎を解く鍵「ヒッグス粒子」

標準理論において、素粒子に質量を与える粒子とされている「ヒッグス粒子」は、1964年にピーター・ヒッグス、フランソワ・アングレール両博士などによってその存在が予言されていました。2012年、半世紀を経て、CERNの大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の実験でヒッグス粒子らしき粒子が観測されました。世紀の発見です。翌年、両博士はノーベル物理学賞を受賞しました。

ILCはノイズのないクリーンな環境で大量のヒッグス粒子を大量に生成できます。ILCが別名「ヒッグス工場(ヒッグス・ファクトリー)」と呼ばれる所以です。

多くのヒッグス粒子を生成することで、ヒッグス粒子が他の粒子に姿を変える(崩壊)様子や、他の粒子との力のやり取り(相互作用)などに関する豊富な情報を取得することができます。

ILCが指し示す今後の方向性

ダークマターやダークエネルギー、消えた反物質の謎、ヒッグスの謎など、標準理論では答えられないいくつかの深い謎に挑戦する標準理論を超える新しい理論がいくつか提唱されています。LHCの実験でヒッグス粒子が発見され、その質量がわかれば、どの理論が正しいのか見通しが得られると考えられていました。しかし、予想に反し、LHCが発見したヒッグス粒子の質量は、これらの理論のどれにもすんなりとは当てはまらないものだったのです。

そのため、宇宙の仕組みとして三つの可能性が残りました。残された答えは、それらの可能性のどれが正しいかに大きく依存します。つまり、今、素粒子物理学は宇宙の認識を劇的に変革させるかもしれない分岐点に立っているのです。ILCではヒッグス粒子を徹底的に調べることで、これらの可能性のどれが正しいのかを明らかにします。言い換えれば、ヒッグス粒子を詳しく調べないと、素粒子物理はこの先に進むことはできないのです。

1.新たな次元の道

アインシュタインの相対性理論の基礎となる時空(縦・横・高さの空間3次元と時間の1次元)の他に、隠された次元「余剰次元」が存在する可能性があります。「余剰次元理論」は、縦、横、高さ以外の新しい空間次元が存在する可能性を示唆します。
また、「超対称性理論」では、物質粒子と力の粒子が入れ替わる「新しい種類の次元」が存在するとも考えられています。余剰次元も超対称性も究極理論の候補である超弦理論によってその存在が予言されています。これらの証拠が見つかれば、究極理論へ一直線に進むことが可能になるでしょう。

2.新たな階層の道

ヒッグス粒子が素粒子ではなく、複合粒子だとすると、標準理論では想定されていない、さらに深い自然の階層が存在することになります。そして、その階層を支配する未知の新しい力も存在することになります。
ILCで非常に精密な測定を実施することで、新たなより深い階層への突破口が開けるかもしれません。

3.複数宇宙・新しい原理の存在の道

超高性能のILCをもってしても、ヒッグス粒子やトップクォークの性質に標準理論からのズレが見つからず、さらに新粒子も発見されなかった場合は、宇宙の法則が絶妙に調整されている、ということになります。
人間や地球の存在さえ偶然の産物、ということになるのですが、これに合理的な説明を与える考えのひとつが「複数宇宙の存在」になります。または、未知の全く新しい原理が存在している可能性も出てきます。
ヒッグス粒子に加え、トップクォークの質量の精密測定を行うことが、この見極めの鍵になると考えられています。