ILC から生まれるさまざまな技術

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超高性能の加速器、国際リニアコライダー(l LC) には、数多くの、高度な先端技術が必要とされます。素粒子を高エネルギーに加速するために使われる、超伝導高周波加速空洞の技術。加速された粒子の衝突反応を記録する、優先端の測定器技術。ビームをナノメートルサイズまで絞り込み、やはりナノメートルの精度で制御する技術ーILCのプロジェクト全てが、挑戦的技術の集合体なのです。これらの先端技術を実現し、さらに精度を上げていくために、世界中の研究者たちがR&D に取り組んでいます。同時に、産業界では、これら超ハイテク機器の大量生産の準備が進んでいます。ILCから生まれる技術が、私たちの暮らしに活かされる日は、遠くありません。

医療応用

ガンの早期診断の強力なツールとして、現在注目が集まっているのが「陽電子放出断層撮影機(PET) 」。PETは、反粒子の研究から生まれたもので、臓器内における化学反応の視覚化を実現しました。また、「陽子線療法」は、精密に制御された陽子線を、ガン等の服傷部位にあてる放射線治療法。これまで治療の困難だった部位の治療でも、高い効果を上げています。

現在、このような診断、治療には、大型で高価な機器が必要ですが、ILCの「超伝導高周波加速技術」 を応用すると、装置の大幅な小型化や消費電力の削減が可能になります。また、加速器のフィードバック技術を使えば、患者の呼吸に放射線照射を同期させて集中照射し、周辺の正常組織には影響を与えずに治療ができます。さらに、超伝導加速伎術を使って発生させる次世代X線は、生体内反応やタンパク質構造の解明等に役立ち、新薬の開発にも期待がかかります。

コンピューター技術

ILCや、現在稼働中の世界最大の加速器、大型ハドロン・コライダー(LHC)に必要なデータ転送速度は、全世界の通信量に匹敵する程膨大です。このニーズに対応するために、最先端のコンピュータ技術や通信技術、素粒子物理学者が開発したグリッド・コンピューティング・ソフトウェアが重要な役割を果たしています。

これらのコンピューター技術もまた、他分野で活躍しています。欧州の研究所で開発された「MammoGridデータベース」には、約3万件の乳房X線撮影像(マンモグラム)データが保存されており、医院や医師がそれらの情報を共有。患者の有効な治療に役立てられています。

未来の「道具」を創る

科学プロジェクトへの挑戦は、産業プロセスの効率化や、新技術の開発、それに伴う経済の活性化につながります。

ILCでは、微小な粒子ビームを確実にモニタリングし、的確な修正を迅速に行う必要があります。このために開発される機材は、高度な電子集積回路の製造設計に役立つと考えられており、産業プロセスの大幅な改善や、ナノテクノロジー製品の品質向上に弾みをつけることでしょう。

また、電子ビームリソグラフィーは、コンピューターの小型・軽量化に、加速空洞の研磨技術は、金属工業におけるコスト削減や、より深い素材特性の理解に役立ちます。大量生産される超伝導空洞やその周辺機器の製造に必要とされる高度な専門技術が、超伝導技術全般に応用されることもあるでしょう。ILCの電子源技術は、電子顕微鏡の性能を向上させ、磁気ディスク産業を革新することも期待されています。さらに、測定器の技術を貨物コンテナの検査に応用すれば、内容物の精査が容易になります。素粒子物理の研究成果が、税関で活かされる日も、もうすぐかもしれません。

他分野で活かされるILCの技術

シンクロトロン加速器でのX線散乱によるタンパク質構造の可視化加速器から生まれる「放射光」はこれまで、様々な科学分野で応用されてきました。例えば、米国の放射光施設ALSでは、鳥インフルエンザのウィルス構造や、ヒト受容体の特性を解明しました。これら放射光の分野にも、ILCの技術が活かされています。

ハイパワーで指向性の強い第4世代の放射光「自由電子レーザー(FEL)」は、リニアコライダーの研究から派生した技術。現在、米国や日本、ドイツで建設が進んでいます。エネルギー回収リニアック(ERL)は、核物理学や物質科学、化学、構造生物学、環境科学など、幅広い分野で大いに応用が期待されている次世代放射光源、ILCの超伝導技術は、ERLの小型化と大幅なコスト削減に役立ちます。

さらにILCの技術は、陽子や原子核の加速にも応用できます。陽子加速器から生成される核破砕中性子源は、生物学分野の研究などにも幅広く貢献しています。また、物質科学分野に応用することにより、医療用インプラント製品の開発、金属の腐食防止、飛行機の軽量化など、さまざまな場面での活躍が期待されています。