ILCの仕組み

ILC > ILCとは? > ILCの仕組み

ILCの構成図

ILCの構成図

電子 (Electrons)

ILCで加速される電子は、強力なレーザーを金属の標的に当てることでたたき出されます。そのレーザーは、2ナノ秒の間、瞬間的に 繰り返し照射されます。1回の照射で取り出される電子は数億個。それらの電子は電磁場によって「バンチ」と呼ばれるかたまりにされ、250メートルの前段加速器を通過する間に5ギガ電子ボルトのエネルギーにまで加速されます。

陽電子 (Positrons)

陽電子は電子の反物質。地球上では自然に存在しないので、人為的につくらなければなりません。まず、「 アンジュレータ」と呼ばれる磁石の中に、主線形加速器からの電子ビームを通します。すると、電子ビームの軌道が上下左右にローラーコースターのように蛇行します。このときに放射される高エネルギーX 線をチタン合金の標的に当てると、電子と陽電子が生まれます。この陽電子を集め、250メートルの前段加速器を通して5ギガ電子ボルトまで加速します。一方、アンジュレータを通りすぎた電子ビームは引き続き、主線形加速器によって加速されます。

粒子測定器(Detectors)

電子と陽電子のバンチは、ほぼ光速でたがいに衝突します。そこで繰り広げられる壮大な衝突を記録するため、2台の粒子測定器が設置されます。これらの粒子測定器は、巨大なデジタルカメラといえます。このカメラを使って、電子と陽電子から生まれる素粒子のスナップショットを撮影するのです。新たに創りだされる素粒子の貴重な情報をもれなく取り込むため、2台の最先端測定器は相 補的な機能を備えています。2つの測定データをつきあわせて、新しい物理現象の証拠を確かなものにするのです。

主線形加速器(Main Linac)

電子と陽電子は、それぞれ全長12キロメートルの2台の線形加速器で加速され、衝突点に向かいます。線形加速器の本体は、数珠つなぎに連なる多数の超伝導加速空洞です。この加速空洞は冷却容器の中に設置されています。この冷却容器はクライオモジュールと呼ばれ、液体ヘリウムによって運転時には-271℃( 絶対温度2度)まで冷やされ、超伝導状態となります。ここに、外部から電磁エネルギーを送り込んで、必要な加速電場を発生させるのです。最終的に250ギガ電子ボルトまで加速された電子と陽電子のビームは、およそ1000ジュールのエネルギー、平均電力に換算すると10メガワットの電力になります。電子と陽電子の生成から加速までの全過程は、1秒の間に5 回の割合でくりかえされます。

ダンピングリング(Damping Rings)

電子源や陽電子源でつくられるバンチは、そのままでは粒子の密度が低く、多数の素粒子反応を効率よく起こすことができません。そこで、電子用と陽電子用にそれぞれ1台ずつ、周長3.2キロメートルのダンピングリングを導入します。ダンピングリングには「ウィグラー」という電磁石が何台も連なっています。ビームがウィグラーを通過すると、その軌道が左右に揺さぶられてX線を放射します。リングを周回することによってビームがウィグラーをくりかえし通過すると、バンチの粒子密度はしだいに小さくなり、長さは数ミリメートルに、幅は髪の毛よりも細くなります。ダンピングリングの通過時間はわずか0.2秒間。しかし、ビームはその間にリングを約1万周もするのです。

ビーム収束システム(Beam delivery system)

ルミノシティを最大限まで上げるために、衝突点ではきわめて小さなサイズまで粒子ビームを絞り込みます。衝突点でのビームサイズは、厚さ数ナノメートル、幅数百ナノメートル。このサイズにビームの焦点を合わせる装置が「ビーム収束システム」です。2キロメートルの範囲に設置された電磁石群で構成されるビーム収束システムは、敏感な測定器に悪影響を与える、バンチの中心から大きくそれた粒子をとり除いたり、電子と陽電子のビームが最適に衝突するようにビーム軌道などの条件を微調整する機能も備えています。