章立てと概要

序文

本書執筆の意図とともに、なぜ点字本を作成することにしたのかを解説します。また、宇宙が誕生してから現在までの約138億年の間に起こった出来事を年始から年末の1年間になぞらえた「宇宙カレンダー」を最新の知見をもとに紹介しています。

執筆者:高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 所長 齊藤 直人

第1章「宇宙は何でできているのか」

本書をお読みいただくあたっての用語解説をしています。現在人類が知っている118種類の元素が、物質素粒子の電子・アップクォーク・ダウンクォークというたった3種の粒子の組み合わせから構成されていることを解説します。これらは今のところそれ以上に分けることができない素粒子と見なされており、現在では加速器を使う実験から宇宙にはそれ以上の種類の素粒子が存在することがわかっています。

執筆者:高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 シニアフェロー 藤本 順平

第2章「素粒子の標準理論のはじまり」

第1章を受け、ここ100年で人類が到達したいわゆる「素粒子の標準理論」を解説しています。「素粒子の標準理論」には全部で17種類の素粒子が登場します。理論の予測の一つであったヒッグス粒子が2012年に欧州合同原子核研究機関(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)実験で発見され、全17種類の素粒子に関する研究が続いています。

執筆者:藤本 順平

第3章「元素の起源」

現在118種類まで知られている元素が、私たちの宇宙でどのように作られたのか、そしてそれら元素の存在比率を解説しています。
執筆者:高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 ダイヤモンドフェロー 宮武 宇也、

国立天文台 教授、高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 特別教授 郡 和範

第4章「質量の起源」

第2章でも解説しましたが「素粒子の標準理論」では、宇宙誕生時にはどの素粒子も質量がゼロであったと考えられています。第2章では電子に質量を与えたのは2012年に発見されたヒッグス場であることを解説しました。

第4章では、もう一度「ものの質量の起源」を解説します。原子のほとんどの質量を担っている陽子や中性子の質量はヒッグス場とは別の仕組みで与えられていることを解説します。

執筆者:高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 教授 橋本 省二

第5章「力の起源」

素粒子物理学の目的の一つである「力の統一」という考えと、「素粒子の標準理論」で到達した力の統一を解説します。キーワードは「ゲージ原理」です。「ゲージ原理」を適用することで電磁気力、弱い力、強い力の統一に挑戦したのが「素粒子の標準理論」です。

「素粒子の標準理論」はこれまでに人類が行った加速器実験のほとんどを説明しますが、本当の意味での「3つの力の統一」になっていないことを解説し、本当の意味での「3つの力の統一」となる「大統一理論」への模索が続いていることを解説します。

執筆者:藤本 順平

第6章「非対称性宇宙の起源――物質・反物質」

反物質の存在に関する実験の解説です。「素粒子の標準理論」によれば、粒子には反粒子が存在します。しかしこれまでの宇宙の観測からは、現在の宇宙に存在する反粒子は一瞬存在するだけで、ほとんどが粒子として存在していることがわかっています。このような粒子と反粒子の性質の違いを説明する小林・益川理論が、「素粒子の標準理論」に組み込まれています。小林・益川理論の実証を行なったのが、KEKの加速器を使って素核研が行った実験と、同時期に行われた米国での加速器実験でした。小林・益川理論が正しいという実証は得られましたが、その効果だけでは、物質の量に比べ反物質の量が圧倒的に少ないという現在の「非対称性宇宙」の状態を説明できないこともわかっています。素核研は更なる解明のために小林・益川理論を実証した加速器と測定器を改良し、実験を進めています。

また、素核研は東海キャンパスのJ-PARCから岐阜県のスーパーカミオカンデに向けてニュートリノを射出してその変化の様子を観測するT2K実験を行っていてそれを解説します。

執筆者:高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 准教授 多田 将、

北九州工業高等専門学校 助教 伊藤 慎太郎

第7章「宇宙膨張の起源」

宇宙の大きさをイメージする話から入り、宇宙は138億年前のビッグバンにより宇宙が誕生したというガモフ博士が提唱した「火の玉宇宙のモデル」が最新の宇宙観測と合わないという「宇宙の地平線問題」、「平坦性問題」、「密度ゆらぎの起源」、「モノポール問題」、「グラビティーノ問題」を取り上げて解説します。これらの問題を解決するために考案された、誕生直後の宇宙が急激な膨張を起こした新しい仕組み、「インフレーション」を解説します。インフレーションが未発見の素粒子「インフラトン」によって引き起こされたとの理論を紹介し、インフレーションがあったことを証明する実験の話をします。

執筆者:郡 和範

第8章「宇宙の大規模構造の起源 ―ダークマター・ダークエネルギー」

宇宙の大規模構造をつくり、宇宙の将来の運命を握るとされるダークマターを解説します。見えない物質・ダークマターが存在するとする3つの宇宙観測を紹介します。更に、理論的に予言されるダークマターの候補4つを紹介します。そうした候補をどのように見つけるかも紹介します。

次は現在の宇宙全体の約70%を占めるダークエネルギーについてです。宇宙誕生の当初はその割合は小さかったと考えられており、何故元々は小さかったかを現在は説明できません。素粒子論的には未知のスカラー場というものがあって、それがダークエネルギーの正体ではないかとの説を紹介します。最後にこのダークエネルギーのエネルギー密度がほぼ定数だとした場合の宇宙の未来を語ります。そしてダークマターにまつわる問題を解決する一つの考え方「マルチバースと人間原理」を解説します。

執筆者:郡 和範

第9章「宇宙の進化の起源」

生物は進化しますが、宇宙も進化しています。宇宙の進化とは何か、何が起きて進化するのかを解説します。エネルギーの点として始まった宇宙がだんだんと複雑な構造を持つという進化が起きる仕組みとして「自発的対称性の破れ」による「真空の相転移」を解説します。「自発的対称性の破れ」という考えは、第5章でも素粒子に質量を与える仕組みであるヒッグス機構の話しで出てきました。ヒッグス機構の検証となったのが2012年のヒッグス粒子の発見です。ここではヒッグス粒子を発見した実験のひとつであるCERNのLHC加速器を使ったアトラス実験を解説し、どのようにヒッグス粒子を観測しているかを解説します。

執筆者:高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 研究機関講師 津野 総司、

高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 准教授 中浜 優

第10章「宇宙は安定か?」

本書の主題は宇宙と物質の起源の解明です。ここまでの章では主に実験により明らかになった過去の宇宙で起きたことを解説してきました。一方、第8章の最後では、ダークエネルギーの考察が宇宙の未来に関係するとの話をしました。

第10章では、素粒子の基礎理論である「相対論的場の量子論」を復習した後、ヒッグス粒子の質量と、6種類目のクォークであるトップクォークの質量との関係が、真空の安定性に関係していることを解説します。LHC実験による現在の測定結果では、測定誤差を考えると宇宙の真空は安定と準安定の境界にあることと矛盾しない結果になっています。

真空が不安定な場合は、真空の崩壊が生じることが予測されます。その意味するところは「この世の終わり」なのですが、あくまでも「素粒子の標準理論」の範囲内の話であることに注意すべきで、「素粒子の標準理論」の予測に矛盾する実験結果が得られた瞬間「素粒子の標準理論」を前提とする真空の安定性に関する議論は意味を失います。

執筆者:岩手大学 客員教授、高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 名誉教授 藤井 恵介

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(最終更新日:2024年4月25日)

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