- トピックス
「七夕講演会2018」で頂いた45の質問にすべて回答します!!
2018年7月6日
7月1日、つくば市のつくばエキスポセンターで開かれた「七夕講演会2018」(KEK・つくばエキスポセンターの共催)には、多くの質問が寄せられました。その一つ一つに回答します。回答者は、講師を務めたKEK素粒子原子核研究所・理論センターの日本学術振興会特別研究員で、素粒子論的宇宙論(特にインフレーション)を専門とする寺田隆広さんと、総合研究大学院大学博士課程で観測的宇宙論を専攻し、CMB実験グループに参加する高取沙悠理さんです。
宇宙の誕生や成り立ちなどについての質問
質問1「宇宙誕生の前はどんな世界だったのですか?」
どんな世界だったのでしょう。私もそういうことが気になって研究者になりました。
質問2「ビックバン以前には空間は無かったのでしょうか?」
インフレーションの前に何が起きたかは殆ど分かっていません。空間はあったかもしれないし、無かったということも十分考えられます。
質問3「人工的にビックバンはおこせますか?」
ビッグバンのときの高温・高圧の素粒子のスープを作ることは可能です。これはクォーク・グルーオン・プラズマといって、重イオン衝突実験で作られています。しかし、別の宇宙を人工的に作るのはあまり現実的ではないでしょう。
質問4「インフレーションの勢いはとてつもなく大きなものと伺いましたが、インフレーションがおきている間に光が進める距離はどのくらいなのでしようか。」
インフレーション中に光が進む距離は宇宙規模の大きな距離です。しかし今の宇宙で、インフレーションが起きた時間間隔中に光が進める距離は目に見えないほど小さな距離です。インフレーションの長さを観測と矛盾しない長めの時間にすると、最大で 10000000m 程度進めるでしょう。
質問5「パラレルワールドとはインフレーションが同時に起きることなのでしょうか。映画「君の名は」というのは実現可能なのですか。」
パラレルワールドという言葉は色々な意味で使われます。量子力学の多世界解釈や、講演で紹介したエターナルインフレーションから泡状に生まれる多宇宙といった複数の意味で使われることがあります。たしか「君の名は。」では意識が未来に行ったり過去に行ったりした描写があったように記憶していますが、原因があって結果があるという物理の大前提に反するとしたら実現は不可能でしょう。
質問6「インフレーションでできた宇宙は一つだけなのでしょうか。」
私たちの観測している宇宙はインフレーションを経て一つできたと考えられますが、その歴史自体がエターナルインフレーション中の一つの泡宇宙として作られたかもしれません。その場合、観測はできませんが遠くに別の性質を持った宇宙があることになります。
質問7「宇宙のはじっこはありますか?」
宇宙のはじっこをほのめかすような観測結果は今の所ありません。もしはじっこがあったら、どんな性質なのか気になりますね。
質問8「うちゅうの形はどんな形ですか。」
うちゅうの形とは、空間の曲がり具合のことだと考えてみましょう。宇宙はとても平らだということが分かっています。はじめに曲がっていたとしても、インフレーションで引き伸ばされ、平らになってしまったのです。
質問9「いまのうちゅうはなんどなのか。」
今の宇宙は熱平衡状態ではないので、厳密には温度が定義されません。しかし、ビッグバンの時に熱平衡だった名残で、宇宙を満たす光があたかも熱平衡状態にあるかのようなスペクトル(波長毎の強さ)をもっています。この意味で宇宙の温度が定義でき、約マイナス270℃です。絶対温度では2.7度です。
質問10「うちゅうがどうやってふくらんでいくのかをしりたい。」
空間は単なる入れ物ではなく、物質とダイナミカルに相互作用するものだということが分かっています。空間が最初に膨らんだ勢いの惰性で宇宙は膨らんできました。しかし最近の宇宙は、真空のエネルギーや暗黒エネルギーと呼ばれるものによって加速的に膨らんでいます。
質問11「うちゅう人はほんとうにいるんですか。」
まだ誰も見つけていないようですが、どこかにいるかもしれませんね。
質問12「うちゅうははじからはじまでどのぐらいのながさですか。」
直径約930億光年以上の長さはあると考えられています。その外側に「はじ」がなくて無限に宇宙が広がっているかもしれません。
質問13「うちゅうってなんでうくんですか」
そもそも浮くとは何でしょうか。重力に捕らわれていないということです。宇宙空間では星などの重い天体に近づかない限り周りにはほとんど何も無いので、重力の影響が小さいのです。宇宙全体として見ると特別な方向は無いので、特別な方向に引っ張られるということもありません。
質問14「理論のもとは何ですか? 自由な発想からですか?」
自由な発想はとても大事です。実験・観測事実を説明する、数学的・論理的に整合的である、といった制約に合う理論をつくる必要があるので、これらを出発点にすることがあります。同僚と議論したり、先行研究を一般化するといったアプローチもあります。
質問15「『130億年先の銀河』という言葉を聞きますが、(理論的に)どこを見ればよいのかわかっているのですか?」
最初にできた星や銀河のことでしょうか。大きなスケールでは宇宙に特別な場所や方向は無いので、どちらの方向を見ても良いはずです。ただし、近くの星や銀河からの光に埋もれない領域を見た方が、遠くの銀河は見やすいでしょう。
質問16「138億年前に宇宙が誕生してから、晴れ上がりまで38万年と言いますが、これらは固定された数字なのでしょうか。」
素粒子の質量や相互作用の強さによって決まっているので、それらが異なる宇宙を考えると別の結果になっていたでしょう。
質問17「宇宙のゆらぎ図が表現しているのは、温度の違いを表現しているようですが、どうして一番古い最初の光と分かるのですか?」
波長毎の光の強度がプランク分布という分布に従っているので、ビッグバンの名残の光だということが分かります。また、理論的にも、それより以前に出た光はプラズマ中で何度も散乱され、まっすぐ飛べないということが分かります。
質問18「宇宙の終わりはあるのですか?」
今の所、宇宙の将来ははっきりとは分かっていません。宇宙が潰れて終わるかもしれないし、拡がり続けるかもしれません。また、50億年先に太陽の寿命が尽きるので、宇宙の終わりというより地球の運命が、50億年先に、宇宙より先に尽きる可能性があります。
質問5銀河、星、太陽系について
質問19「いちばんさいしょの星はどうやってきたのかがしりたい。」
質問20「ほしはどうやってできたんですか。」
質問21「おほしさまはどうやってできたのか?」
宇宙のガスが重力で集まって、重さに耐えられなくなった時に核融合を起こしてできました。ガスの「むら」を作り出したのは、ビッグバンの時の宇宙のスープのさざなみです。それを作り出したのはインフレーション中の量子ゆらぎです。 ただし、種族IIIの星(宇宙で最初に形成された星)の星形成は、銀河形成とはことなり、まず、宇宙論的なゆらぎからバリオンガスの塊が、たしかに銀河と同じように重力不安定性でつくられるのですが、その後の星形成は、そのガスの中のもっと小さいスケールの小さな揺らぎに基づいて起きます。そういう意味で、依然、銀河内に作られる種族II(ビッグバン後に作られた最初の長寿命の星)と種族I(太陽などヘリウムより重い元素を含む星)と状況は似ていて、銀河形成とは違い、宇宙論的なゆらぎとは直接結びついていません。
質問22「星はなぜきらきらしているのですか?」
星は核融合で光っています。きらきらとゆらめいて見えるのは、地球の大気の密度が場所によって異なるため、光の通り道が少し変動するからです。また、惑星にくらべて恒星は遠いため、視直径が小さいから大気の影響を受けやすく、大きくゆらめいて見えます。逆に近くて視直径の大きな惑星はまたたかない傾向があることが知られています。
質問23「たいようはどうやってできたの?」
太陽も、他の星と同じく、宇宙空間のガスが重力で引き合って集まってできたと考えられます。たくさんの原子が集まって、重さに耐えられなくなると、原子核同士が融合する「核融合」という現象が起きて、光や熱を放ちます。これが太陽や星の正体です。
質問24「たいようってなんで月の400ばいのおおきさなの?」
私は理由を知りません。たまたまではないでしょうか。ただし、4He(ヘリウム同位体)やD(重水素)を燃やさず、惑星以下の質量になるためには、太陽の質量の1/20より小さくないといけないことが、少なくとも理論的にわかっています。
質問25「コロナってたいようよりなんであついの?」
太陽の磁場が大きな役割を果たしている可能性が指摘されていますが、まだ解明されていないようです。また、コロナは電子の自由-自由遷移で放射された光であるため、熱浴に従う必要はありません。太陽の外での磁場による電子加速のエネルギーが熱浴の温度を越えることは、不思議ではありません。
質問26「ちきゅうがどうやってできたの?」
質問27「どうやってわく星ができるのかがしりたい。」
約46億年前に、太陽の周りを周るガスや塵が重力で集まったり、衝突して合体したりして生まれたと考えられています。
質問28「木星のえい星はどうやってできたのか。」
木星ができた時に近くにあった物質が集まってできたのではないかと考えられます。あとから木星の重力に引き込まれた衛星もあるようです。
質問29「火星にいけますか」
いけるでしょう。計画している人たちもいます。
質問30「いんせきは、今から何年まえから落ちてきているんですか?」
おそらく、地球ができた頃から落ちてきていたのでしょう。
質問31「ちりはどのくらいのおおきさなんですか。」
「0.01マイクロメートルから10マイクロメートル程度」です。
質問32「うちゅうのちりはどんな形なんですか。」
ケイ酸塩やグラファイト、金属など色々な物質でできたちりがあるので、形も様々だと思います。
質問33「ぎんがはどうやってできるのか。」
星が重力でお互い引き合い、集まってできます。よく詳しく説明すると、ダークマターのゆらぎが収縮したハローの中に、バリオンが落ち込んでつくられます。この意味では宇宙論的なゆらぎから、ダークマターのハローとその中の銀河円盤は、形成されます。バリオンは放射を出しながら角運動量を失い、円板状のガスの塊ができます。そのガスの中で、磁場を介した断熱収縮が起こって星形成が起こり、たくさんの星を持つ銀河となります。
原始重力波とCMB観測について
質問34「宇宙の揺らぎって何ですか?」
物質の密度や温度が場所ごとに異なることをゆらぎと言います。宇宙の星や銀河の元になりました。このゆらぎ(非一様性)は、究極的にはインフレーション中の量子ゆらぎからできたと考えられています。
質問35「「曲がり」と「歪み」の違いをもう少し詳しく」
講演の中で言及した2種類の時空の揺らぎのことですね。曲がりと言ったのは球のように特別な方向の無い空間の曲がりのことで、歪みと言ったのはある方向に伸びて別の方向に縮むような空間の曲がりのことです。より専門的には、前者はスカラー(スピン0)、後者はテンソル(スピン2)の揺らぎです。
質問36「重力波はどうやってできるのですか。」
エネルギーを持ったものを、ある特定の動かし方をすると、空間の歪みとして重力波が発生します。インフレーションの時の原始重力波は特殊で、真空のエネルギーによる空間の量子ゆらぎによって生じます。
質問37「膨張するときにどうして時空が歪むのですか?」
時空の歪みは、素粒子である重力子の生成と考えることもできます。通常は真空の量子ゆらぎとして仮想重力子が対生成と対消滅を繰り返していますが、あまりに急激な空間膨張があれば仮想重力子が実体化することが可能になります。
質問38「世界に粒子しかないとすると、重力波は生まれないのでしょうか。」
現代の標準的な素粒子物理の枠組みである「量子場理論」によると、粒子があれば必ず反粒子があります(CPT定理)。ちなみに重力子は中性なので、粒子と反粒子が同一という性質を持ちます。そのため、粒子しかなかった世界の重力がどのような性質をもつかは想像がつきません。
質問39「昨年夏検出されたといわれるLIGOレーザー干渉計による重力波検出とCMBによる犬種との関連は?」
LIGO では重力波による空間の伸び縮みを、光干渉計を使って直接調べています。一方、CMB では光の偏光のパターンから間接的に重力波の証拠を捉えます。また、重力波の波長も異なり、CMB の方が長い波長に対応します。
質問40「CMBの発見に世界の研究機関がなぜそこまでしのぎを削っているのか?」
CMB を観測すると、宇宙のことが色々分かるからです。これにはインフレーション模型のヒントや、ニュートリノの質量和、空間の曲率などの情報が含まれます。
質問41「ポーラベア実験の観測装置は全自動なのですか。観測スタッフは常駐しているのでしょうか。」
基本的には全自動で観測を行っています。遠隔で操作可能なため、観測スタッフは常駐しているわけではありません。
質問42「宇宙の温度分布の測定は、CMBのどの物性がどのように変化することを利用して行うのですか?」
熱平衡にある物体は黒体放射と呼ばれる光を出し、そのスペクトル(波長と強度の関係)はプランク分布として知られています。いくつかの波長で CMB の強度を測ることで、対応する温度が分かります。
質問43「観測した光が昔(遠い)の光なのか、最近(近い)の光なのか、どのように見分けるのでしょうか。」
宇宙での距離の測り方の代表的なものに、「赤方偏移」という波長のずれを用いる方法があります。救急車が通り過ぎる時に音の高さが低くなって聞こえるドップラー効果と同じことが、光でも起きます。元素が発光・吸収する特徴的な波長のパターンは地球上で知ることができるので、そのパターンの低波長(赤色側)へのずれを利用することで、距離を測ることができます。
質問44「宇宙のゆらぎ図が表現しているのは、温度の違いを表現しているようですが、どうして一番古い最初の光と分かるのですか。」
波長毎の光の強度がプランク分布という分布に従っているので、ビッグバンの名残の光だということが分かります。また、理論的にも、それより以前に出た光はプラズマ中で何度も散乱され、まっすぐ飛べないということが分かります。
質問45「わずかな観測値の違いとノイズはどうして区別できるのですか。」
いくつかの波長で観測しているので、それらの相関をとればノイズを低減することができます。
みなさん、たくさんのご質問をいただき、大変ありがとうございました。