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おとなのサイエンスカフェ第8夜「宇宙でつくられた大量の金の秘密と『安定の島』」を開催しました

8月9日(金)、KEK素粒子原子核研究所(素核研)が主催する、おとなのサイエンスカフェ第8夜「宇宙でつくられた大量の金の秘密と『安定の島』」をつくばセンタービル co-enで開催しました。

素核研では、素粒子、原子核という極微な世界から広大な宇宙まで、理論および実験の両面からの研究を行っており、この世で最も小さい素粒子を研究することでこの世で最も大きい宇宙の謎の解明に挑み続けています。

 

8回目となる今回のサイエンスカフェでは、和田 道治(わだ みちはる)素核研・名誉教授が話し手となりました。私たちが住む太陽系には金や白金が異常に多いことや、元素の存在の奇妙なばらつき、そして研究者が50年以上追い求めている「安定の島」について話しました。


なぜ、異常に多いことがわかったのか

和田教授の話は太陽系に金や白金が異常に多いことについて、「それ、本当ですか?」と参加者へ問いかけることからスタートしました。実際に地表にある貴金属はその名の通り非常に少ないのですが、地球内部を含む太陽系全体では多いそうです。太陽系内の元素の量を推定するため、太陽光の分光(各種元素が固有の光の波長を吸収・発光するという性質を使い、太陽の大気にある元素を調べる方法)と、太陽系ができた時の元素分布を良く保っていると考えられる特殊な隕石(いんせき)や月の石に含まれる元素を分析することを組み合わせたところ、存在比には特徴的な偏りがあり、特に金や白金がそれより軽いタングステンなどに比べて異常に多かったのです。

元素はどのように生まれたのか?

そもそも、元素は宇宙のどこでどのようにして生まれたのでしょうか。和田教授は、星の一生と元素の合成のサイクルについて表を使って説明しました。

宇宙空間の星間物質(ほぼ水素ガス)が重力により集まり、核融合反応によって原始星となって光り始めます。その後、恒星となってゆっくり核融合を起こして燃え、鉄までの元素が生成されました。多くの恒星は最終的には惑星状星雲となって宇宙空間の塵となり、また新たな恒星誕生サイクルが始まります。太陽の8倍程度までの重さをもつ恒星はその一生を終える時に赤色巨星となり、1000年から100万年をかけてゆっくり中性子を吸ってベータ崩壊を繰り返し、鉛やビスマスまでの元素を合成します。これを遅い(slow)中性子捕獲過程(s過程)と呼びます。

鉛より重いウランなどの元素や大部分の金・白金は、太陽の8倍以上の重さをもつ恒星が超新星爆発を起こした後に生まれた「中性子星」同士が衝突して合体した時に、1秒程度の時間スケールで起こる速い(rapid)中性子捕獲過程(r過程)で合成されたと考えられています。最近中性子星合体が重力波の観測で発見され、合体後にできた新星(キロノバ)の光の色の時間変化からr過程が確かに起きていることが確かめられました。しかし、中性子星合体だけでは、現在の金などの量を説明するには不十分で、複数のプロセスを経て合成されているのだろうと和田教授は説明しました。

元素がたくさん存在するところに魔法数あり

次に、元素の存在比のばらつきの鍵となる中性子魔法数について解説しました。中性子魔法数は、原子核がより安定に存在できる中性子の数を表しています。s過程やr過程では、中性子魔法数のところで進行が留まり、比較的多くの元素が生まれます。これがr過程で膨大な金や白金が生まれた理由です。和田教授は核図表を用いてその様子を詳しく解説しました。核図表は、原子核の世界地図とも言われるもので、横軸に原子核が持つ中性子の数、縦軸に陽子の数をとって、理論的に存在が予想されている未発見の原子核までを含む、すべての原子核を俯瞰するものです。会場には、日本原子力研究開発機構(JAEA)先端基礎研究センターよりお借りした3次元ブロック核図表も展示しました。

この3次元ブロック核図表のブロックの高さは原子の質量(m)を質量数(A)で割り、m/A=1.0付近を拡大したものです。棒の高さの比較から原子核の安定性や崩壊の方向などが読み取れ、隣同士の差をとると魔法数が浮かび上がるのです。大多数の原子核は未知であり、それらの原子核の質量が分かれば、r過程がどのような原子核を経て進行したのかや、魔法数についての理解が深まります。さらに、原子核の質量は一つとして同じものはないので、「指紋」になると和田教授はいいます。和田教授が昨年度までセンター長を務めていた和光原子核科学センターでは、KEKが開発した国際的にもユニークな原子核実験装置KISS(KEK Isotope Separation System: 元素選択型質量分離器)などの装置とMRTOF質量分光器を使って多くの短寿命な原子核の質量測定を行うことが可能です。

研究者が探し求める「安定の島」はどこに?

今回のテーマでもある「安定の島」とは、非常に重い原子核の中で例外的に安定して長く存在する可能性がある領域を指します。研究者が50年以上探し求めている領域で、r過程の終端に存在するのではないかと考えられています。しかし、その検出方法や理論予測の精度も未熟なため、どうやって生成し同定するかもわかっていません。和田教授は「安定の島」はすでに生成できていて単に同定できていないだけかも知れないといいます。それを見つけるための有効な手法である質量測定法を、ドブニウムやニホニウムなどの超重元素で試していると話しました。

 

最後に、和田教授は短寿命な原子核の精密実験のために自らが開発した「高周波カーペット」という装置の仕組みを紹介しました。今日では標準技術として世界中の加速器施設で用いられており、現在世界中の研究者が注目する「原子核時計」の研究にも貢献しています。

 

参加者からは、安定の島は一つだけなのか、魔法数はどうやって発見されたのか、といった質問が挙がったほか、「中性子捕獲により重い原子が作られていく説明が非常に分かりやすかった」「難しかったけれど先端研究に触れる貴重な機会だった」などの感想が寄せられました。

 


次回のおとなのサイエンスカフェ

おとなのサイエンスカフェは金曜日の夜、大人の特権である美味しいお酒やおつまみを楽しみながら、極微なサイエンスの話を楽しんでもらうことを趣旨に企画したもので、シリーズで開催しています。

次回は、10月4日(金)に行います。

おとなのサイエンスカフェ第9夜「宇宙創成『インフレーション』の謎にせまる」

宇宙が熱い火の玉のようになる前に「インフレーション」という急速な加速膨張期があったと考えられていますが、その全体像はまだ分かっていません。鍵となるのがインフレーション期間中に作られた原始重力波です。宇宙の空間をモザイクアートのように理解することで複雑な原始重力波の計算に挑んだ浦川准教授が、最新の研究成果、そしてインフレーション研究の最前線について解説します。

▼詳細、参加お申し込みはこちらから▼

リンク:https://otona-sciencecafe-9.peatix.com/

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