第9回木村利栄理論物理学賞を、素核研理論センター・西村淳准教授が、京都大学白眉センター/基礎物理学研究所・花田政範特定准教授と共同で受賞しました。
今回の受賞は、超弦理論において最も注目を浴びているテーマのひとつである「超弦理論のゲージ重力対応」に関する研究において、特にブラックホールの内部構造の数値的検証により「超対称ゲージ理論の数値計算法の開発」と「ゲージ重力対応の検証」の2点において重要な貢献を果たしたことが高く評価されたためです。
授賞式及び記念講演は、1月20日に京都大学基礎物理学研究所湯川記念館 パナソニック国際交流ホールにて行われました。
本賞は重力・時空理論、場の理論とその周辺の基礎的な理論研究において顕著な業績を上げた研究者に対して湯川記念財団から顕彰されます。
受賞理由についての簡単な解説です。
ブラックホールと一般相対性理論
ブラックホールは、大きな質量を持った物体が、非常に小さな領域に押し込められたときに形成される時空の構造です。 例えば地球の場合、現在の質量のまま大きさを半径8.5mm以下にするとブラックホール化します。 内部に生じる強大な重力のため、物質はもちろん、光でさえその重力から脱出できないことからこの名前で呼ばれています。
ブラックホールの存在は、重力理論とも呼ばれるアインシュタインの一般相対性理論により予言されました。 直接観測は難しいものの、様々な間接的な証拠により、宇宙にはたくさんのブラックホールが存在することが分かっています。
ブラックホールの温度とホーキング輻射
1974年にスティーブン・ホーキング(Stephen William Hawking)が、一般相対性理論と場の量子論を組み合わせて、ブラックホールの境界付近で外部へのエネルギーの放射が起こると提唱しました。 これを「ホーキング輻射」と呼びます。
ホーキング輻射の理論により、ブラックホールの温度が定義され、ブラックホールが持つエネルギーとの関係が導き出されました。 さらに、ホーキング輻射によって内部のエネルギーを徐々に失うことで、最終的に消滅することも予想されました。これをブラックホールの蒸発と呼びます。
ブラックホールの内部構造と超弦理論
前述した一般相対性理論とホーキング輻射は、ブラックホールの外側の世界にしか適用できず、ブラックホールの温度とエネルギーの関係を内部構造から説明することはできません。
しかし、1997年にフアン・マルダセナ(Juan Martin Maldacena)が、ゲージ理論と重力理論の間の対応関係を提唱し、ブラックホールの内部構造を記述できることを発表。
以来、ブラックホールの内部構造の解明は20年近く研究者の興味の対象となっており、高度な数学を用いた解析的な手法を中心に進展してきました。
数値計算によるブラックホールの内部構造の解明
西村氏と花田氏は、このように連綿と続くブラックホールの研究において、スーパーコンピュータを駆使した新しい数値計算法を開発し、ブラックホールの内部構造を予想したマルダセナの理論で求めたブラックホールの温度とエネルギーの関係が、従来の重力理論の予想と一致することを確かめました。
今回の成果は、コンピュータによる数値計算の手法が、超弦理論の研究でも有効であることを示した最初の例です。 今後、このような数値計算を用いた超弦理論の研究がさらに発展していくことにより、宇宙の起源や成り立ちが解明されると期待されています。
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