H.Tada

所要時間:約6分

江成祐二 助教(東京大学素粒子物理国際研究センター)によるオンライン施設見学の様子。プラネタリウムドームにオンライン会議システムの映像を映し、CERNから生解説しました。/<i class='fa fa-copyright' aria-hidden='true'></i> KEK IPNS

江成祐二 助教(東京大学素粒子物理国際研究センター)によるオンライン施設見学の様子。プラネタリウムドームにオンライン会議システムの映像を映し、CERNから生解説しました。/ KEK IPNS

2022年3月26日(土)に、KEKと多摩六都科学館の共催による講演会「巨大加速器LHCで探る宇宙 -Phantom of the Universe-」を開催しました。本講演会は2018年から毎年度開催しており、今回で4回目になります。

本講演会は多摩六都科学館のプラネタリウムドーム「サイエンスエッグ」で行いました。感染症対策を講じ、小学生から大人までの合計83名が参加しました。

講演会では初めに、スイスのジュネーブ近郊にある欧州合同原子核研究機関(CERN)が作成したプラネタリウム用大型映像「Phantom of the Universe」を上映しました。CERNでは、世界最大(周長27 km)の粒子加速器LHCで世界最高エネルギーの陽子と陽子を衝突させ誕生直後の宇宙を再現し、その頃の宇宙を支配していた素粒子やその現象を研究する素粒子実験を行っています。「Phantom of the Universe」では、LHCなど世界最先端の様々な装置を用いて正体不明の物質「暗黒物質」の正体を探る実験などが紹介されています。

「Phantom of the Universe」上映後は、花垣和則 教授(KEK素粒子原子核研究所、ATLAS日本共同代表)による講演と、江成祐二 助教(東京大学素粒子物理国際研究センター)によるオンライン施設見学を行いました。LHCの衝突点のひとつにはATLAS検出器が設置されており、素粒子に質量を与えるヒッグス粒子の物理や新粒子の探索を行うATLAS実験が行われています。花垣教授と江成助教はこのATLAS実験に携わっています。ATLAS実験には、KEKを含めた国内外合わせて38か国、約180の研究機関からの約3000人の研究者が参加しています。

花垣和則 教授。

花垣和則 教授。

江成祐二 助教。

江成祐二 助教。

花垣教授は、素粒子の基本的な性質から話を始め、暗黒物質について現在までに分かっていることや、世界中で進行中の暗黒物質探索実験について、「Phantom of the Universe」の話に絡めながら解説しました。さらに、ATLAS実験における暗黒物質探索や、LHCの今後の実験スケジュールについても紹介しました。花垣教授によると、LHCは2018年に重心系エネルギー13 TeVでの陽子・陽子衝突(第二期運転)を終了した後、LHCや検出器の増強作業を進めてきましたが、2022年6月からいよいよ第三期運転による物理データ収集を開始予定とのことです。さらに、第三期運転終了後はLHC加速器の性能を大幅に改善し、2029年から高輝度LHC (HL-LHC)実験を開始予定とのことです。HL-LHC実験では、データ量が劇的に増加し、より高感度になると期待されています。具体的には、陽子・陽子衝突の頻度を一桁向上し、年間の陽子・陽子衝突回数3京回(3×1016回)を目標としています。

江成助教は、CERNからオンライン会議システムで中継を繋いでの登壇でした。最初にATLAS検出器のしくみについて解説した後に、あらかじめ撮影した江成助教自身によるATLAS検出器内部のツアー動画を上映しました。中には、ATLAS実験関係者でさえ特殊な訓練を受けなければ入ることのできない場所も紹介しました。質疑応答の時間にCERNの研究者は普段どのような食事をしているのかと聞かれると、CERNのカフェテリアの映像を流しながら、普段の食事風景を紹介する場面もありました。

質疑応答は、感染症対策のため参加者が口頭で質問するのではなく、あらかじめ配布されたふせんに質問を書き、スタッフがふせんを回収した上で質問を読み上げ、講師がそれらに回答する形で進めました。

イベント終了後の参加者アンケートには、「おもわず前のめりになりました。楽しかったです」、「中学生レベルの知識しかありませんでしたが大変分かりやすく、面白かったです。 早くダークマターが発見されるといいなと思います。」、「また開催の際には参加したいと思っています。」といった感想が寄せられました。

当日時間の都合上、回答しきれなかった質問の中から一部を講師が回答します。

(質問は原文のまま掲載しています)

質問1 全宇宙の中で暗黒物質は27%とありましたが、太陽系などの◯%とかは、わかっているのですか?

多分わかっていないと思います。銀河団、もしくは宇宙全体という大きなスケールで初めて暗黒物質の存在を確認できる、というのが現代の科学の状況なので、太陽系という(宇宙全体に比べると)小さなスケールでの分布は理解できていないと思います。

質問2  LHCのほかに似たきかい(機械)はあるのですか?

LHCは陽子を加速させ、陽子同士を衝突させる装置で、加速器と呼ばれています。世界には他にもたくさんの種類の加速器があります。加速させる粒子の種類や、加速のさせ方、どれだけのエネルギー(=速さ)にまで加速させるかなど、千差万別です。LHCはたくさんある加速器の中でも世界最大の大きさで、陽子を世界最高エネルギーにまで加速することができます。

KEKにもたくさんの種類の加速器があり、素粒子や原子核の研究だけでなく、物質の構造解明など、さまざまな用途で利用されています。

質問3 どうして力が一つになるのですか。ダークマターって種類とかあるのですか。

(前半の質問について)力の統一とは、力が一つになると考えるよりも、関係のない別々の力だと考えられていた力が実は一つの物理法則で記述することができる、つまり、本質的には別々ではない、ということがわかることだとお考えください。たとえば、昔は、電気と磁気は別の力だと考えられていましたが、今は電磁気力という一つの力が異なった現象として観測されているのだとわかっています。これは、電気力と磁気力の統一と呼ぶことができます。

(後半の質問について)暗黒物質があることはわかっていますが、正体はまだわかっていません。正体がわからないことには、詳しい性質や、何種類の粒子が暗黒物質になっているのか等、わかりません。現状、科学者はその正体解明の研究を進めているところです。


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