七夕の季節となったのを機に天文や宇宙について考える「七夕講演会2018」(KEK・つくばエキスポセンターの共催)が7月1日、つくば市のつくばエキスポセンター2階「創造の森 “ワンダーラボ”」で開かれ、11時50分と14時20分の2回の講演会に定員を上回る約90人の市民が詰めかけました。天文学会が全国の科学館などに呼びかけ、全国同時に開催されているもので、KEKが共催して行うのは2011年以来8回目となります。
今回の七夕講演会は「宇宙 誕生のメッセージ〜時空を超えてやってくる波」がテーマで、KEK素粒子原子核研究所・理論センターの日本学術振興会特別研究員で、素粒子論的宇宙論(特にインフレーション)を専門とする寺田隆広さんと、総合研究大学院大学博士課程で観測的宇宙論を専攻し、CMB実験グループに参加する高取沙悠理さんが続けて講演。司会のつくばエキスポセンターのコミュニケーター、多田裕子さんが、子供たちなど参加者が短冊に記入した質問を読み上げ、二人の講師が回答する形で進められました。
理論センターの寺田さん「宇宙はとてつもない勢いで急膨張した」
まず、寺田さんが「宇宙はどんな風に生まれたの?」と題して講演しました。
寺田さんは137億年という宇宙の歴史を遡ると、高温・高圧の火の玉(ビッグバン宇宙)だったと考えられ、その理論的な推測と一致する宇宙マイクロ波背景放射(CMB)が発見されたことで、「ビッグバンがあったことは裏付けられました」と説明。さらに、そのCMBの観測結果から、「ビッグバンより以前の初期宇宙で、宇宙空間が一瞬のうちにとてつもない勢いで広がる急膨張(インフレーション)があったと考えられます」と語りかけました。
そのインフレーション理論を確かめる方法として、量子ゆらぎによる時間の進み具合(温度揺らぎ)、さらに空間の歪み(原子重力波)の二種類があり、「温度揺らぎの方は、CMBの温度分布に0.001%程度の揺らぎがあるのが観測でバッチリ見つかっています。しかし、原始重力波の方は見つかっておらず、CMBの偏光の揺らぎからその証拠を見つけようとしています」と説明しました。
さらに、インフレーションより前の宇宙の本当の始まりや、宇宙の終わりについて、「爆発的に始まり、終わってしまうという理論もあれば、膨らむ勢いが永遠に増え続ける永久インフレーションというのもあります。その中には、別の宇宙が生まれる泡宇宙、多宇宙というシナリオもあり、どのシナリオが正しいかは分かっていません」と話しました。
総研大博士課程の高取さん「ぜひ私たちの活動を応援してください」
高取さんは「宇宙のはじまりをどうやって探るの?」と題して講演しました。
高取さんは、インフレーションの勢いについて、「瞬きするかしないかのうちに、アメーバが銀河系の大きさになったようなものと言われています」と比喩を使って説明。そのインフレーションにより引き起こされた原始重力波がまだ見つかっていないことについて、「2015年9月にアメリカの重力波検出器LIGOが、二つのブラックホールが合体する時の重力波を初めて捉え、その成果により2017年ノーベル物理学賞を受賞しました。の時の重力波にくらべて、原始重力波の波長は宇宙の膨張とともにさらにずっと大きく引き伸ばされており、現在の観測機器では見つけることが難しいです」。その上で、原始重力波がCMBに引き起こす偏光に注目が集まっていることに触れ、「もしインフレーション仮説が本当だったら、CMBの偏光分布の中に満月4個分くらいの渦巻き模様(Bモード偏光)が見つかるはずです」と解説しました。
また、CMB観測チームの一つで、KEKが参加するポーラーベア実験(南米チリのアタカマ高地砂漠)の様子や観測機器についても写真を示しながら説明し、「南極、南米、カナリア諸島にも別の観測チームがあり、激しい競争となっています。ぜひ、私たちの今後の活動を応援してください」と結びました。
参加者から質問 「宇宙の揺らぎって何?」「『君の名は』は本当に起きる?」
講演会には、つくばエクスポセンターのホームページを通じて多くの申し込みがあり、前日までに各会30人の定員は締め切られましたが、当日に飛び入りで参加する市民であふれ、初回は35人、2回目は55人ほどが参加。会場からは「宇宙の揺らぎって何ですか?」「宇宙人は本当にいるのでしょうか?」「インフレーションでできた宇宙は一つでしょうか?」「映画『君の名』みたいなパラレル・ワールドって起きるのでしょうか?」「CMBがどうして最古の光だとわかるのですか?」など多くの質問が出され、寺田さん、高取さんが一つ一つ丁寧に回答しました。
KEKつくばキャンパスから切り出され、この日だけ七夕講演会場に設置された竹の枝には、子供たちが宇宙に関する質問を書き込んだ様々な色の短冊がくくりつけられ、会場は一足早い七夕祭りの雰囲気に包まれていました。
質問の回答は全て掲載します
短冊に記載された、また会場ででた質問については、近日中に、全てに対して回答を作成し、ホームページに掲載しますので、ぜひご覧ください。
関連リンク
七夕講演会に関すること
- つくばエキスポセンター七夕講演会のについて
- つくばエキスポセンタープラネタリウム・オリジナルプログラム「はるか彼方より、時空を超えて〜ノーベル物理学賞の大発見 重力波〜」
- 日本天文学会全国同時七夕講演会2018