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図1.美濃イベントにおける写真乾板中の粒子の飛跡 … グザイマイナス(Ξ<sup>-</sup>)粒子<sup>*1</sup>が酸素16原子核に吸収されBeの二重ラムダ核が生成されました。ヘリウム5(He5)ラムダ核への崩壊の様子も示してあります。

図1.美濃イベントにおける写真乾板中の粒子の飛跡 … グザイマイナス(Ξ-)粒子*1が酸素16原子核に吸収されBeの二重ラムダ核が生成されました。ヘリウム5(He5)ラムダ核への崩壊の様子も示してあります。

岐阜大学教育学部・工学研究科 仲澤和馬シニア教授のグループをはじめとする日・韓・米・中・独・ミャンマーの6カ国24大学・研究機関の総勢103名の研究者・大学院生からなる研究チームは、大強度陽子加速器施設(以下、J-PARC)を利用した国際共同実験 (J-PARC E07実験)で、ベリリウム(Be)原子核を芯とする新種の二重ラムダ核を発見し、「美濃イベント(MINO event)図1」と命名しました。二重ラムダ核とは、通常は、陽子と中性子でできている原子核に、ストレンジクォーク*1を含む「ラムダ粒子*1」が二つ入った超原子核です。現代物理学の大きなテーマは、物質を構成する素粒子「クォーク」に働く力の性質と仕組みの解明であり、その中で課題の一つが二重ラムダ核の研究*2で、二つのラムダ粒子が入ったことによる超原子核の質量変化の測定により、ラムダ粒子間に働く力の大きさを定量的に知ることです。この種の超原子核の発見は二例目で、最初のもの(「長良イベント・図2」)もこのグループが発見していました。ヘリウム4(He4)を芯とする二重ラムダ核(陽子2個、中性子2個、ラムダ粒子2個からなる)である長良イベントの発見により、ラムダ粒子間に働く力が引力であることが分かりましたが、今回の発見でもラムダ粒子間に働く力が引力であることが確認されました。二重ラムダ核検出をねらったE07実験は、J-PARCを用いることにより、過去の実験の100倍のデータを取りためることができました。今回発表する成果は、その解析による成果の第一弾です。今回の解析の成功は、今後、取りためたデータを解析すれば、芯となる原子核が異なる様々な二重ラムダ核が発見でき、それらの質量変化の測定から、ラムダ粒子間に働く力の知見が確実に増えることを意味するものです。それは、はるか宇宙の中性子星*3の内部構造の解明につながります。今後の解析にご期待ください。本研究成果は、日本時間2019年2月22日出版の日本物理学会が刊行するオンラインオープンアクセス国際月刊誌『Progress of Theoretical and Experimental Physics』に掲載されました。

図2.長良イベントにおける写真乾板中の粒子の飛跡(2001年に仲澤シニア教授のグループが発見)… グザイ粒子が炭素12原子核に吸収されヘリウム6(He6)二重ラムダ核が生成され、He5ラムダ核に崩壊しました。

図2.長良イベントにおける写真乾板中の粒子の飛跡(2001年に仲澤シニア教授のグループが発見)… グザイ粒子が炭素12原子核に吸収されヘリウム6(He6)二重ラムダ核が生成され、He5ラムダ核に崩壊しました。

研究成果のポイント

・ストレンジクォークを持つ、100億分の1秒という短寿命のラムダ粒子二つを含んだ新しい超原子核(二重ラムダ核)の生成・崩壊を発見した。
・発見した二重ラムダ核(「美濃イベント(MINO event)」と命名、図1)はBe原子核を芯とするものであり、我々が2001年に発見したHe4原子核を芯とする「長良イベント」(図2)とは異なる全く新しいものである。
・美濃イベントの発見は芯の相違に伴う二重ラムダ核の質量変化の違いから、ラムダ粒子間に働く力の詳細を調べる第1歩である。
・今後さらにたくさんの二重ラムダ核の発見が期待され、力の詳細が明らかになれば、膨大な数のラムダ粒子が存在する可能性のある中性子星(超巨大な原子核)の構造解明に結びつくものと期待される。
・これは、はるか宇宙の中性子星の構造解明に、加速器を使った地上実験で迫るものである。

用語解説

*1 ストレンジクォーク、ラムダ粒子、グザイ粒子、K-中間子
通常の原子核を構成する陽子および中性子は、アップ(u)、ダウン(d)の2種類のクォークでできており、陽子は(uud)、中性子は(udd)です。第3のクォーク ストレンジ(s)も考えると、ラムダ粒子(uds)、グザイマイナス粒子(dss)、グザイゼロ粒子(uss)といった粒子などもあります。グザイと名の付く粒子には、ストレンジクォークが二つ含まれます。sを一つ持つ中間子K-は(kobars)で、kobarはuの反クォークです。本実験で用いるグザイマイナス粒子は、K-ビームがダイヤモンド標的中の陽子と反応することで、K+(ukobar)中間子とともに次のように生成されます。         

クォークと反クォークは1対ですので、反応の前後のu、d、sの個数は、それぞれ1個ずつで変わっていません。 また、本研究の手法では検出できませんが、K-ビームがダイヤモンド標的中の中性子と反応し、中性K0中間子を伴うグザイマイナスも生成することができます。          

*2 ラムダ粒子を二つ含む超原子核(二重ラムダ核)の研究
上述の*1で作られたグザイマイナス粒子は電荷をもつため、実験に用いる写真乾板(プレスリリース本文の図4参照)を構成する原子を電離しながら、次第にエネルギーを失い進んだ後に静止します。すると電子に代わって原子核を周回するグザイ原子になり、ゆくゆくは原子核の陽子と反応し、次のように二つのラムダ粒子に変化します。       

ここでもu、d、sの個数は反応の前後で変わっていません。この二つのラムダ粒子を核内に持つ原子核が二重ラムダ核です。下にHe4の通常原子核、ラムダ粒子を一つ含むラムダ核、二つ含む二重ラムダ核を図示します。

通常のHe4原子核は、陽子2個、中性子2個でできています。これにラムダ粒子1個を加えると、He5ラムダ核になります。さらにラムダ粒子を加え、陽子2個、中性子2個、ラムダ粒子2個でできた二重ラムダ核がHe6二重ラムダ核です。 陽子と中性子でできた重水素では、下図のように陽子と中性子の質量の和より2.2 MeV(陽子や中性子の質量の持つエネルギーの約0.2%)軽くなります。これは双方の間にはたらく力が引力であることを意味します。He6二重ラムダ核の長良イベントでは、その質量がHe4と二つのラムダ粒子の質量和より、6.91 MeV軽くなりました。その質量減が、He4と1個のラムダ粒子でできたHe5ラムダ核の質量減の2倍より大きいことで、ラムダ粒子間に引力がはたらくと結論付けました。He4だけではなく他の原子核も二重ラムダ核の芯となれるのか、その際にどのように質量変化が起こるのか、数多くの二重ラムダ核を検出してこそ、ラムダ粒子間に働く力を詳細に調べることができます。

*3 膨大な数のラムダ粒子が存在する可能性のある中性子星(超巨大な原子核)
仲澤和馬、高塚龍之「超巨大ハイパー核としての中性子星 -混在ハイペロンの謎-」
丸善出版、“パリティ”Vol.31 No.04 (2016) pp.12-18

中性子星は、半径が約10kmで質量が太陽の1.4~2倍、その内部はスプーン1杯で10億トンといわれる通常の原子核の数倍にもなる超高密度な星です。その中身は、下図の4つの領域に分けて次のように考えられています。
( I ) 通常の原子核、電子ガス、中性子超流体
( II ) 中性子や陽子の超流体、電子やミューオンガス
(III) 中性子・陽子に加えてラムダやグザイ粒子が混在
(IV) クォーク物質

詳しくはこちらをどうぞ。

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