文部科学省の卓越研究員で、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所の宮原正也准教授は、東京工業大学工学院電気電子系の岡田健一准教授らの研究グループと共同で、高速起動と低電力を同時に実現する水晶発振回路の開発に成功しました。この成果は、集積回路の分野では世界的に著名な学会である “2018 Symposium on VLSI Circuits” (6月18日からハワイ・ホノルルで開催) の発表論文として採択され、18日に公表されています。
今回の水晶発振回路は、最小線幅65nm (ナノメートル) のシリコンCMOSプロセスで試作。発振回路の増幅器を再構成可能な多段増幅器とし、26MHz (メガヘルツ) および40MHzで発振させたところ、40MHz発振時には64μs(マイクロ秒)で高速起動することを確認しました。これは、これまでに報告された同じ発振周波数の水晶発振回路の半分以下の起動時間です。
水晶発振回路を無線機やシステムクロックなどの信号として使う際、非動作時には省エネのため各回路の電源をオフにして運用します。従来の水晶発振回路は電源オン後に発振が安定するまでに数ミリ秒かかり、無駄な電力を消費していましたが、今回開発に成功した水晶発振回路は、起動時間を短くすることで、起動にかかる消費エネルギーを大幅に減らすことが可能となりました。
これは起動時だけに限り、水晶発振回路の増幅器を3段構成として水晶振動子にかかる電圧を引き上げる一方で、水晶振動子の寄生容量に起因した制限をクリアする容量フィードフォワードパスを増幅器に追加した効果によるもので、結果的に理論限界を超える負性抵抗を生み出すことに成功したといいます。
水晶発振回路はあらゆるものをインターネットでつなげるIoT (Internet of Things、モノのインターネット) 機器に欠かせない部品として知られていますが、近い将来、IoT機器のノード数が世界中で1兆個を超えると予測されており、その低電力動作を可能とする開発成果は、社会的に大きなインパクトを生むことが予想されます。
つくば市で開いた記者会見で、宮原教授は「高速起動化はパソコンのような据え置き型ではなく、例えば人の心拍数や血圧などを自動的に測定するウェアラブル端末など、将来のIoT機器の省電力化に大いに貢献できます。IoT機器の普及のボトルネックとなっているのが起動時間とエネルギー消費の問題で、今回の成果でこれが一挙に解決できれば爆発的な普及につながるかも知れません」と説明しました。
宮原准教授が筆頭著者となり上記成果をまとめた論文は、2018年6月18日から22日に、米国ハワイ・ホノルルで開催される “2018 Symposium on VLSI Circuits” の発表論文として採択され、実験装置を持ち込んで行うDemo Session (デモ・セッション) の一つにも選ばれています。
本研究の成果の一部は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) が進める「IoT推進のための横断技術開発プロジェクト」の結果、得られたもので、同プロジェクトを通じて技術の実用化が検討されることになっています。
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