超高エネルギーの電子・陽電子の衝突実験を行う線形衝突型加速器「国際リニアコライダー(International Linear Collider: ILC)」の計画について、シミュレーションによる新物理の探索領域の解析と、ILD(国際大型検出器)の開発を進める研究チーム(リーダー、藤井恵介教授)が、5月の活動報告を行いました。
ILCは、電子と陽電子を、それぞれ全長11キロの線形加速器で加速して衝突させ、どのような粒子がどのように生まれ、死んでいくかを観測することにより、素粒子の質量の起源となるヒッグス粒子の詳細な性質やダークマターの正体など、素粒子物理学の未解決問題を解き明かすものです。建設候補地は日本で、アジア・ヨーロッパ・アメリカの各国が国際協力で計画を進めています。
特筆すべきニュースとして強調されているのが、「ILCを重心系エネルギー250GeVのヒッグスファクトリーとして早急に建設する」という日本の高エネルギー物理学者会議(JAHEP)の提案が、国際将来加速器委員会(ICFA)に正式承認され、文部科学省の有識者会議検討が本格化したことです。文部科学省の「国際リニアコライダー(ILC)に関する有識者会議」は、素粒子原子核物理作業部会とTDR(技術設計書)検証作業部会に分かれて検討が行われ、すでに報告書をまとめる段階に入っているとリポートしています。
その他、研究の進ちょく状況として、KEK素核研が中核として加わるILDグループが2017年10月から、測定器フルシミュレーションのために刷新したソフト群を使ってモンテカルロ(MC)データの試験生成を行い、ソフトウェア系の最終確認を行ったこと、そしてMCデータの大量生成を開始したことを報告。さらに、ILCの実験で探索する物理についての検討で、有効場の理論(EFT)を用いた解析を駆使し、250GeVデータのみで種々のヒッグス粒子の結合定数をモデルに依存せずに精度よく決める方法をSLAC、東京大と共同開発し、その成果が物理学専門誌「Physical Review」に掲載されたことなどを記述しています。
陽電子を作り出す陽電子源開発では、ILCグループが広島大、DESYなどと取り組んできた電子駆動方式(e-Driven)が、アンジュレータに基づくベースライン方式よりも実現性が高いと国内外の技術レビューで評価されたことや、コスト面での優位性などが報告されています。ただ、電子駆動方式では陽電子偏極が得られないため、物理からの要請と技術的な難易度のバランスを考慮して最終的な技術選択が行われると考えられています。
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