欧州原子核機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)でのATLAS実験に参加しているKEK素粒子原子核研究所のグループが、2018年10月の活動報告を行いました。
ATLAS実験とは、スイス・ジュネーブ近郊にあるCERNのLHCで行われている加速器実験の一つで、KEKを含めた国内外合わせて約180の研究機関からの約3000人の研究者が共同で行なっています。世界最高の衝突エネルギーで陽子と陽子を衝突させ、その反応を観測することで、素粒子の標準理論の精密検証や新粒子の探索が行なわれています。
報告によりますと、2018年、LHCは総じて順調に稼動し、衝突点での粒子同士の衝突頻度を示すルミノシティは年間を通じて設計値の2倍程度でした。2018年中の衝突回数を示す指標である積分ルミノシティは、10月3日時点で50fb-1を越えました。Run2全体を通じても順調にデータが蓄積できた結果、数々の物理成果が公表されています。
特に、τニュートリノを除く第3世代フェルミオンとW, Zの質量の起源が同じであることが分かりました。素粒子は物質を構成するフェルミオンと、それらの相互作用に関係するゲージボソンの2種に分けることができます。フェルミオンは3種類の世代に分けられ、最も重い第3世代にはトップクォーク、ボトムクォーク、τニュートリノ、τがあります。一方、ゲージボソンには、ZボソンやWボソン、光子、グルーオンなどがあります。図5から、現在の誤差の範囲内ではトップクォーク、Z、W、ボトムクォーク、τの質量起源が同一であることが示唆され、ヒッグス機構の全貌解明に向けて大きく前進しました。次の目標は、第2世代フェルミオンの質量起源も、質量125GeVのヒッグスが起因しているのか検証することです。
ヒッグス関連のみならず、標準模型の枠外の未知粒子探索も引き続き精力的に行われています。
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ATLAS実験グループ
脚注
湯川結合
各素粒子とヒッグス粒子との結合力の強さを表す値。素粒子の質量は、ヒッグス場の力の強さと湯川結合の積で表すことができます。現代素粒子物理学の基本となる標準理論においてヒッグス粒子は1個と考えられているため、ヒッグス場の強さは全ての素粒子に対して同じ値となり、質量と湯川結合は比例関係になります。図5ではその湯川結合の予想値(破線)と観測値(点)が示されています。今回は、観測した全ての値が、現在の誤差の範囲内ではこの直線に乗っており、第3世代フェルミオンとWとZの質量起源が同じヒッグス場であることを示唆しています。