超冷中性子(UCN:Ultra-Cold Neutron)を用いて中性子電気双極子モーメント(nEDM: neutron Electric Dipole Moment)の探索実験を行なっている、KEKのUCN実験グループが2018年11月の活動報告を行いました。
UCNとは極低エネルギーの中性子です。中性子は電気的に中性な粒子ですが、非常に小さなスケールで見れば内部に電荷の偏りがあるかもしれません。この電荷の偏りから生じるnEDMを測定することで時間反転対称性の破れの研究を行っています。時間反転によってnEDMは方向を変えませんが、中性子の持つもう一つの物理量であるスピンは時間反転によって方向を変えます。この様に時間反転によってnEDMとスピンの向きに違いが出てしまうため、もしnEDMが存在した場合時間反転対称性が崩れます。現在までに有限のnEDMを観測した実験はなく、これまでのところ時間反転対称性は保たれているようです。しかし、UCNを大量発生することで実験感度をあげnEDMを探索することで時間反転対称性の破れの存在を探ることができます。時間反転対称性はCP対称性(物質・反物質対称性)と同義です。この時間反転対称性の検証は宇宙で反物質が観測されない謎を解明する大きな手がかりとなります。
実験に用いるUCNは非常に小さな運動エネルギーしか持たないため、物質容器内に閉じ込めておくことが可能という非常にユニークな特徴を持っています。100秒以上の長時間の観測が可能で、実験感度の向上に役立っています。2017年11月にはカナダのTRIUMF研究所で初めてUCN生成に成功し、現在はUCN生成実験と並行してUCN源のアップグレード計画を進めています。UCNは重金属の核破砕反応の際に生じる中性子を段階的に冷却することで生成します。最終的に超流動ヘリウムを用いて300 neV以下の運動エネルギーまで中性子を冷やします。1.0Kで10W以上の冷却能力をもつヘリウム冷凍器を開発し、大量のUCN生成を行います。
2018年3月には、UCN源アップグレードのConceptional Design Reportをまとめ、4月に外部国際レビュー委員会から、国際的にも競争力を持ち、技術的にも実現可能であるとのコメントが得られました。
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