超冷中性子(UCN:Ultra-Cold Neutron)を用いて中性子電気双極子モーメント(中性子EDM: Electric Dipole Moment)の探索実験を行なっている、KEKの素核研UCN実験グループが2019年7月の活動報告を行いました。
UCNとは極低エネルギーの中性子です。中性子は電気的に中性な粒子ですが、非常に小さなスケールで見れば内部に電荷の偏りがあるかもしれません。素核研UCNグループでは、この電荷の偏りから生じる中性子EDMを測定することで時間反転対称性の破れの研究を行っています。
時間がさかのぼっている(反転している)場合でも中性子内部の電荷の分布は反転しません(EDMは方向を変えません)が、中性子の持つもう一つの物理量である「スピン」という自転しているかのような性質は時間が反転すると方向を変えます。この様に時間が反転することでEDMとスピンの向きに違いが出てしまうため、もし中性子EDMが存在した場合、時間反転対称性が崩れます。時間反転対称性が破れた時、CP対称性(物質・反物質対称性)も同時に破れます。そのため、この時間反転対称性の検証は宇宙で反物質が観測されない謎を解明する大きな手がかりとなります。
現在までに中性子EDMを観測した実験はなく、これまでのところ時間反転対称性は保たれているようです。しかし、UCNを大量発生させ実験の感度をあげて中性子EDMを探索することで時間反転対称性の破れの存在を探ることができます。素核研UCNグループでは、この中性子EDMを10-27 ecm(ecmは電気双極子モーメントの大きさを表す単位)の測定感度で観測することを目指すTUCAN国際共同実験に参加しています。
実験に用いるUCNは非常に小さな運動エネルギーしか持たないため、物質容器内に閉じ込めることが可能という非常にユニークな特徴を持っています。100秒以上の長時間の観測が可能で、実験感度の向上に役立っています。2017年11月にはカナダのTRIUMF研究所で初めてUCN生成に成功し、現在はUCN生成実験と並行してUCN源のアップグレード計画を進めています。中でもKEKでは、1.0 K(Kは温度を表す単位)で10 W以上の冷却能力を持つ冷凍機を開発中です。
2019年6月23-25日の期間には、KEKつくばキャンパスでTUCANコラボレーションミーティングが開催されました。
詳しくはこちらをどうぞ。