活動報告

所要時間:約3分

<i class='fa fa-copyright' aria-hidden='true'></i> KEK IPNS/ ストレンジネス核物理グループ

KEK IPNS/ ストレンジネス核物理グループ

ストレンジネス核物理グループが2020年7月の活動報告を行いました。

素核研ストレンジネス核物理グループでは、KEK東海キャンパスにある大強度陽子加速器施設(J-PARC)のハドロン実験施設でストレンジクォークを含むハドロンや原子核を研究しています。前回の活動報告に引き続き、Σ(シグマ)粒子-陽子散乱実験(J-PARC E40実験)を遂行中で、2020年5月から6月の間に実験データの取得が無事完了しました。

原子核は陽子や中性子が核力という力で結びついて形成されますが、陽子や中性子同士の距離が近付き過ぎるとかえって強い斥力が働くことが分かっています(斥力芯)。しかしながら、この斥力芯の起源は未だ解明されていません。そこでE40実験では、この斥力の起源のひとつと考えられている「クォークレベルでのパウリ効果」(注1)を実験的に調べるために、Σ+(シグマプラス)粒子(アップクォーク2つとストレンジネスクォーク1つから成る粒子)および Σ-(シグママイナス)粒子(ダウンクォーク2つとストレンジネスクォーク1つから成る粒子)をJ-PARCの大強度ビームで大量に生成し、陽子と衝突させてその散乱の様子を測定することで、Σ粒子と陽子の間に働く力(ΣN相互作用(注2))を調べています。

これまでのΣ粒子-陽子散乱の測定では、散乱事象の画像データを取得し、それを元に解析を行ってきました。しかしE40実験では、大強度ビーム下でも高速で動作可能なシンチレーションファイバー検出器などの最新の装置を使い、また、標的に液体水素を用いることで炭素原子核によるバックグラウンドのないデータを大量に取得、解析できるようになりました。

実験とその解析は大きく分けて3段階で構成されています。初めに標的の前後に設置した2つの磁気スペクトロメータ(注3)でπ中間子とK中間子の運動量(エネルギー)を測り、Σ粒子が生成されたことを確認し、その運動量(エネルギー)を求めます。次に、本実験のために新たに開発された陽子検出器CATCHによってΣ粒子と陽子の散乱の様子を測定します。生成したΣ粒子がどのくらい散乱されたかによって、Σ粒子と陽子の間に働く力の大きさなどの詳細を求めます。現在は取得したデータを解析中で、得られた結果は順次学会等で報告する予定です。

E40実験を行なったJ-PARCのK1.8ビームラインでは、今後、E03実験とE42実験の2つの実験を実施する予定で、E40実験の解析と同時進行で新たな実験の準備が進んでいます。

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ストレンジネス核物理グループ

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用語解説

注1. クォークや電子、陽子・中性子などのフェルミ粒子といわれる粒子は、同じ状態には1つしか入れないというパウリ原理が働きます。正電荷を持つΣ+粒子と陽子では、構成するクォークのフレーバー(アップ、ダウン、ストレンジの種類)・スピン・カラーで同じものの割合が高く、このクォーク間のパウリ効果によりとりわけ大きな斥力が働くと考えられています。

注2. 陽子だけではなく中性子も含めた核子(N)とΣ粒子との相互作用をΣN相互作用と呼びます。

注3. 電荷を持つ粒子(荷電粒子)は、磁場中では、磁場に垂直な方向に力(ローレンツ力)を受け曲がります。その曲がり具合から荷電粒子の運動量を測定する装置を磁気スペクトロメータといい、磁場を作る電磁石と粒子の通過位置や通過のタイミングを測定する検出器で構成されます。