2010年9月9日
8月21日から29日までの9日間に高エネルギー加速器研究機構(KEK)で開催されたサマーチャレンジ「素粒子・原子核コース」には、日本各地からおよそ60名の学生が集まりました。素粒子物理学に興味のある大学3年生を対象としたプログラムは、2007年にはじまり、今年で第4回目を迎えます。
「サマーチャレンジは、次世代の基礎科学を担う若い学生を後押しすることを目的としています」と、校長をつとめた春山富義教授(素粒子原子核研究所副所長)。「誰でも子供の頃、はじめて目にする不思議な現象に驚いたことがあったでしょう。私は学生のみなさんに、最先端施設や実験をすることで、もう一度驚いて欲しいと思う。そして、科学の魅力を実感して欲しいと思っています。それがサマーチャレンジのテーマ『この夏、驚愕する』です」(図1)。
素粒子原子核分野に関連した9つの演習テーマが準備され、学生はテーマを選び、数人のグループに分かれて実験に取り組みました:
東工大の陣内教授たちによる「反粒子を捕えよう」という演習では、ポジトロニウムと呼ばれる反粒子を短時間閉じ込め(シリカエアロジェルのような低密度で内部に空洞構造を持つ物質を、真空中に置くことで対消滅を抑えることができる)、消滅する時に発する2対や3個のガンマ線を光電子増倍管(PMT)で検出する実験を行いました。この実験は、6台のPMTを等間隔で配置した実験装置を用いて実際に発生したガンマ線を検出、その結果からポジトロニウムの性質を突き止めようというもの。6人の学生は6本のPMTに自分の好きなニックネームをつけ、データを取りました。
また、ILC加速器の主要部品の一つである超伝導高周波空洞を扱う演習もありました。この実験では、電磁気学による空洞の設計法を学び、絶対温度2度(-271℃)で超伝導空洞の性能やニオブの超伝導特性の測定を行いました。「学生達に、本を読んで理解するのではなく、自ら実験することで、具体的に物理を理解し、そして物理が面白いと感じて欲しいと思っています」と、実験の指導をつとめた齋藤健治准教授(KEK)。齋藤氏のクラスで超伝導高周波空洞について勉強した6人の学生の1人は、「この授業を受ける前から、加速器科学に興味があり、ILCについても知っていました。実験は難しかったですが、大学ではできない実験ができたのでよかったと思います」と語りました(図2)。
講義・演習のほか、KEKB加速器、先端加速器試験装置(ATF)、計算科学センター、大強度陽子加速器施設など、KEKの施設ツアーも組まれました(図3)。
9日間に及ぶ過酷な実験の中にも、若い学生達の前向きの姿勢を見た思いです。仲間と一緒に物理に取り組んだ思い出は、学生が自分たちの将来を決めるのに役立つことでしょう。この経験を通し素粒子や原子核に興味を持つ学生の数は増加するかもしれません。そして、このプログラムに参加した学生が、将来研究者となってくれることを期待します。
※ この記事はKEKの先端加速器コミュニケーター・インターンシップに参加した、筑波大学修士1年生高橋 優さんの文章をもとに再構成したものです。
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