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今こそ知りたい!放射線

2011年5月19日

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図1

講座の様子

地震、津波、そして原発。3月11日以降、いったい何度この言葉を見聞きしたことでしょう。中でも原発事故による放射能問題については、多くの方が関心を持っていることと思います。日々、刻々と状況は変わり、正しい情報の発信と、その情報を一人一人が冷静に判断することが重要になっています。
KEKには放射線の専門家がたくさんおり、つくば市の大気中の放射線量測定や、福島から避難されてきた方のスクリーニングへの協力を行うなど、さまざまな活動をしています。その他、放射線に関する質問や講演依頼にも対応しています。その中から、今回はKEKキャラバン(出前授業)の一環として生命(いのち)の海科 学館(愛知県蒲郡市)で行った市民講座「生命と放射線」の講演内容を抜粋してお伝えします。

放射線って何?

放射線とは物質を電離させる(イオン化させる)能力を持った粒子や電磁波のことを言います。物質がイオン化すると、体の中で次々と複雑な化学反応を引き起こします。つまり放射線が生物体に与える色々な作用の出発点となる重要な反応なのです。

放射線はアルファ線、ベータ線、中性子線などの粒子と、ガンマ線、X線などの電磁波に大きく分けられます。また放射線の発生源から分類すると、自然にどんどん出てしまう放射性物質から出るタイプと、KEKの加速器のように、電源を切ればすぐに止まるタイプがあります。今、福島原発から飛散しているのは放射線が自発的に出てしまうタイプの放射性物質(放射性同位体)です。

放射線を出す元、放射性同位体

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図2

放射性同位元素と安定同位元素

出典:暮らしの中の放射線

例えば、空気の約8割を構成している窒素(N)の大部分は陽子7個と中性子7個から成る原子核を持っているので、記号ではimage(上:質量数14、下:原子番号7)と表します。ところが、窒素の中には中性子の数が6個のもの(image)や9個のもの(image)もあります(図2)。このような原子核は不安定で、壊れて別の元素になろうとします。このようなものを放射性同位体と言い、このような能力のことを放射能と言います。

壊れ方にはいくつかの方法があります。例えばベータ崩壊では、エネルギーの高い電子(ベータ線)が放出され、中性子が陽子に変わります。すると窒素(陽子7個)が酸素(陽子8個)に変わります。放出される電子は非常に高いエネルギーを持つため、私たちの体にあたると細胞にダメージを与えてしまいます。

このような崩壊は全ての原子が一度に起こるのではなく、ばらばらに起こります。どの原子が壊れるのかは全く予測することはできませんが、統計的には規則性があります。例えば窒素imageは7秒後には半分、14秒後には4分の1、21秒後には8分の1、というように7秒ごとに放射性同位体の数は半分になっていきます。この時間を「半減期」と言い、物質によって1秒に満たないものもあれば数万年、数億年かかるものもあります。この半減期が長いということは云い換えると放射能は弱く、逆に半減期が短いものは放射能が強い、と言えます。

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図3

身近な生活用品から放射線量を検出するデモンストレーションの様子

ベクレルとシーベルト

原子炉の事故によって放射性物質が各地で観測され、その中で多く検出されているのがヨウ素131とセシウム137です。原子炉からはもっと多種の放射性物質が放出されていますが、ヨウ素とセシウムが広範囲にわたって検出されているのは、これらが揮発しやすく、遠くまで飛ばされるためです。

そこで、皆さんが聞くようになった単位が「ベクレル」と「シーベルト」です。ベクレルは放射能の単位で、1秒間に1個の原子核が崩壊して放射線を発生するということ。つまり10ベクレルであれば1秒間に10個の崩壊が起こり、放射線を発生するという意味になります。シーベルトは放射線を受けた時の影響を表す単位です。1kg当たり1ジュールのエネルギーを吸収したときの単位1グレイに、受けた放射線の種類毎に生物への影響の違いを考慮して決められた数をかけたものがシーベルトです。(※)また、測定されたベクレルの値と半減期から次のような式でもとの放射性物質が何原子あったか求め、その質量に換算することも出来ます。

(※)記事初出時に不正確な表現がありましたので、修正致しました。(5月20日)

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(N=放射性原子の数、λ=崩壊定数=loge2/T, Tは半減期(秒))

実際に話題となった値で考えてみましょう。
乳児の飲用基準100ベクレル/kgを超えるヨウ素131が東京都内の水道水でも検出され、一時ミネラルウォーターが店頭から消える事態となりました。この時検出された値は210ベクレル/kg(水1kgは1リットル)で、ヨウ素131の半減期=8日から計算すると、この水道水中のヨウ素131の質量は1リットルあたり4.6×10-14gとなります。物質の含有量としては非常に少ないのですが、それでも検出できることが放射性物質の特徴と言えます。

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図4

放射線生物作用の模式図

放射線はその通り道の近傍にエネルギーを与えていく。与えられたエネルギーにより通り道の物質が「イオン化(小さい黒丸)」する。放射線の種類によってエネルギーを与える密度が異なり、放射性物質からの放射線では、ベータ線、ガンマ線(左)に比べ、アルファ線は密度が高い(右)。また、細胞は約2/3が水で構成されており、生体分子を直接イオン化する過程の他、水のイオン化によって生じた反応性の高いラジカルにより生体分子に 損傷を与える過程もある。

生体にはどのくらいの作用があるのでしょうか。放射線の特徴は、熱エネルギーのように均等にエネルギーが分散するのではなく、弾丸のように通り道にエネルギーを落としていくことです(図4)。例えば年間20ミリシーベルトの放射線量がわたしたちの体の細胞の一つに与える影響を大ざっぱに見積ってみましょう。放射線がイオン化を起こすエネルギーを仮に30電子ボルト、細胞の質量を10-12kgとして荒っぽい計算をすると、年間20ミリシーベルトは、1年間で細胞1個あたり4000個のイオン化が起こるということになります。

放射線に弱くて強い生命

細胞は非常に複雑な構造をしています。例えば遺伝情報をもったDNAは1つの細胞の中に1セットしかなく、それが壊されてしまうと代替品は無いために、致命傷となります。比べて金属は同じ原子がたくさん並んでいるので、数個壊れたとしても性質が大きく変わることはありません。また、生命が弱いもう一つの理由としては、細胞のどこに放射線が通るかにによっても反応が異なることです。細胞にはたくさん水がありますが、放射線が当たった場合、その通り道に沿ってイオン化されてヒドロキシラジカル(OH・)という反応性の高い物質ができます。そうすると周りの生体物質と反応して傷をつける可能性があります。

しかし、生命の誕生以来、宇宙線など強い放射線環境下を生き抜いてきた私たちには放射能のダメージから身を守るしくみがあります。例えDNAの二重らせんの2本ともが切断されても直ちに修復する機能が細胞には備わっています。そして修復途中のままで細胞が分裂して壊れた情報が次世代に受け継がれないよう、細胞分裂を止める働きもあります。さらにDNAが修復不可能と判断された時には、細胞を自殺させる(アポトーシス)ことで、次の世代に欠陥のあるDNAを残さないようになっています。このように生命全体を守るための優れた能力を私たちの細胞は誰でも持っています。

生命への影響は悪いことばかりではなく、うまく利用してガンを治療することも行われています。「粒子線治療」という陽子や中性子、炭素の原子核をガン細胞に当てる治療法が注目されています。 この方法では深部のガンでも周囲の健康な組織にあまり損傷を与えることなく、ガン細胞だけに放射線を照射することができます。

講演の最後は「残念なことですが、放射性物質が放出されてしまった以上、完全になくすことはできません。「検出された=危ない」のではなく、危ない「量」なのかどうかを冷静に判断してほしい。」という言葉で締めくくられました。

以下は、講演の中で紹介された放射線お役立ち情報です。








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