ハイライト

J-PARC E14 KOTO実験 電磁カロリメータの設置完了

2011年3月10日

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図1

K中間子にはストレンジ・クォークが含まれている。


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図2

6つのクォークが必要、という小林・益川理論を取り入れた標準理論の素粒子テーブル。

粒子と反粒子の性質の違いは、「CP対称性の破れ」と呼ばれ現代物理学の大きな謎のひとつです。CP対称性の破れは、もとはストレンジクォークからなるK中間子(図1)の崩壊を測定している時に発見され(1964年)、その実験を行った米国のJ. Cronin と V. Fitchは1980年のノーベル物理賞を受賞しました。KEKでも、Bファクトリーを使いボトムクォークからなるB中間子と反B中間子の性質の違いを測定して、2008年のノーベル物理学賞の対象となった小林・益川理論を検証してきました。小林・益川理論はBファクトリーで観測されたB中間子の性質をよく説明します。現在は、小林・益川理論は素粒子の標準理論(図2)に組み込まれています。

しかし、これまでの実験で測定されたCP対称性の破れは、宇宙全体が物質で作られている現状を説明するには、不十分であることもわかってきました。小林・益川理論のほかにも、CP対称性の破れを起こしている原因がありそうです。

そうした、新しい原因でおきるCP対称性の破れを中性のK中間子(K0)を用いて精密に測定するため、茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設J-PARCのハドロンホールでは「E14 KOTO実験」の準備が進められています。KOTOという略称は"K0 at TOkai"から来ています。

K中間子を形作っているクォークの間で反応が起こると、クォークはより軽いいくつかの粒子に移り変わっていきます。この現象を「崩壊」と呼んでいます。様々な崩壊のパターンを精密に測定すれば、クォークにどのような力が働くかがわかり、CP対称性の破れの現象の解明が進むと考えられています。E14 KOTO実験(図3)では、電荷をもたない「中性の」K中間子が数百億回に一回という割合で、中性のπ中間子(π0)と2つのニュートリノに崩壊するパターンを発見することを目指しています。この崩壊は、現在の標準理論でも、それを超える新しい物理の理論でも、正確に予想できるのが大きな特色です。測定した崩壊の確率が標準理論の予測からずれていると、それは新しい物理によるCP対称性の破れがある証拠になります。非常に稀な崩壊なので、J-PARCからの大強度の陽子ビームで初めて発見が可能になります。


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図3

E14 KOTO実験装置断面図。紫色の部分が電磁カロリメータです。


陽子を標的に当ててできた中性のK中間子のビームはハドロンホールの中性ビームラインによってKOTO実験装置に導かれます。装置の中で崩壊してできたπ0はすぐに2個のガンマ線に壊れます。2個のガンマ線のエネルギーと、当たった場所を測定するのが、下流に置かれた「電磁カロリメータ」です。2個のガンマ線以外に粒子があれば、この実験で測ろうとしている崩壊ではないことがわかるので、そうした反応を排除するために、崩壊する領域をガンマ線検出器で覆います。また、ビームライン中の中性子と空気などが反応してπ0ができることの無いように、ほとんどの測定器を大きな真空容器の中に設置します。これらは、KEKの12GeV陽子加速器を用いて2005-2006年に行われたE391a実験の測定器がベースになっています。


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図4

KOTO実験装置の下流部に組み上げられた直径2mのCsI電磁カロリメータ:作業開始時(左)と終了時(右)。



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図5

CsI結晶の組み上げの様子

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図6

電磁カロリメータの背面で光電子増倍管とケーブルを結線


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図7

CsI電磁カロリメータの建設に参加したメンバーによる記念写真。

KOTO実験では2月に、実験の要となる電磁カロリメータの組み上げを終えました(図4)。装置は、直径2mの円筒の中に長さ50cm、断面が2.5cm角と5cm角の二種類 のヨウ化セシウム(CsI)の結晶を合計で2716本積み上げて作りました。これらの結晶は、もともと米国のシカゴにあるフェルミ国立研究所で1990年代に行われていたK中間子崩壊実験(KTeV実験)に使用されていたものを、日米科学技術協力事業のもとで日本に移設しました。丸い円筒の中に直方体の結晶を積み上げていくわけですから、面の水平さを調節するのが難しく、積み上げの作業に半年以上を要しました(図5、6)。結晶は湿度に弱いため、夏場でも15%以下の湿度が維持できる乾燥室を現場に設置してその中で作業しています。人が一人入室するだけで湿度が1%上昇することがモニターではっきりわかるので、気を配っての作業が続きました。4月からのビームタイムで、CsI電磁カロリメータの調整を行います。その後も測定器の他の部分の建設を続け、KOTO実験装置の完成は約1年後となります。

実験チームには現在、国内(KEK、大阪大、岡山大、京都大、佐賀大、防衛大、山形大)から38名、海外(米国、台湾、韓国、ロシア)から26名が参加しています。電磁カロリメータの建設は、国内の大学院生とスタッフが総出で行いました(図7)。2011年度に測定器を完成させ、2012年度より実験を開始する予定です。


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